太田述正コラム#1524(2006.11.23)
<スコットランドとイギリス(その2)>

3 合邦解消へ?

 来年5月、スコットランドとイギリスの合邦記念日の数日後にスコットランド議会選挙が行われます。
 その選挙で独立派のスコットランド国民党(Scottish National Party =SNP)が多数を制し、スコットランドが英国からの独立に踏み切る可能性が取り沙汰されています。
 何せ、直近の世論調査によれば、スコットランド人の51%が独立に賛成しているのです。
 スコットランド議会は、イギリスとの合邦により、1707年に廃止されたのですが、ブレア労働党内閣が、1997年の発足直後にスコットランドの自治権強化の一環としてその復活を決め、1999年にエディンバラ(Edinburgh)において復活したものです(
http://www.scotland.gov.uk/News/News-Extras/NewPage
。11月23日アクセス)。
 しかし、このスコットランド議会がさしたる働きをしていないこと、スコットランドの石油と天然ガスがイギリスに簒奪されているという観念が高まってきたこと、ポストモダン的なアイデンティティー意識が高揚したこと(注2)、更には英国から独立したアイルランドがこのところ経済高度成長していること、によって、スコットランド人の独立志向は高まるばかりなのです。

 (注2)スコットランド人のアイデンティティーの核となっているのが、スコット法・スコット教育制度・スコットランド教会の三つだ。
     スコット法は、ローマ法を基本とし、それにイギリス類似のコモンローがミックスされたものであり、イギリスとは違って大陸法系に属する。
     スコット教育制度とは、(古典ギリシャのスパルタをさておけば、)世界最初の一般公教育が確立した「国」としての伝統を踏まえ、スコットランドは、初等・中等・高等教育のいずれの就学率においてもこの200年間、欧州のどの国よりも高い水準を維持してきた。なお、スコットランドの大学ではスコットランド出身者は学費を免除される。
     スコットランド教会とは、スコットランドを代表する教会であるところの、カルヴィニズムに由来するプレスビテリアン(Presbyterian)教会をさす。この教会は英国教会とは違って、公立教会ではない。
     なお、スコットランドの三つの銀行は、スコットランド独自の紙幣を発行しており、英国の紙幣ともども流通している。ただし、この紙幣はイギリスでは受け取りを拒否される場合がある。
(以上、http://en.wikipedia.org/wiki/Scotland
(11月23日アクセス)による。)

 SNPが上記選挙で勝利を収めた暁には、その直後くらいにブレア首相から、労働党党首の禅譲を受けることになっているブラウン(Gordon Brown)蔵相が、すんなりと次期英国首相になるというわけにはいかなくなるのではないか、と噂されています。なぜなら、ブラウンはスコットランド人だからです。
 スコットランドの人口は約500万人で、英国の総人口が5,000万人強であること(注3)からすれば、スコットランドの分離によって英国が経済的・文化的に蒙る損害はさほど大きいものではありませんが、国連安保理常任理事国たる大国・英国のイメージは大いに損なわれることになるでしょう。
 (以上、特に断っていない限り
http://blog.washingtonpost.com/postglobal/david_goodhart/2006/11/end_of_the_united_kingdom.html
(11月21日アクセス)による。)

 (注3)日本(総人口約1億2000万人で言えば、福島県と山形県より北の東北4県(600万人強)と北海道(600万人弱)を失うくらいの感じか。(人口データの典拠省略)

4 参考:スコットランド・トリビア

 スコットランド最大の都市はグラスゴー(Glasgow)であり、首都のエディンバラは人口では第二位。
 スコットランド人はほぼ全員英語のスコットランド方言(Scottish English)を話す。うち、30%はゲルマン系のスコット語(Scot)も話せるし、1%はケルト系のゲール語(Scottish Gaelic)も話せる。
 サッカーのワールドカップ、ラグビーのワールドカップ等には、イギリスと並んで出場を認められていることはよく知られている。
 ゴルフやカーリング発祥の地でもある。
 楽器のバクパイプ(Great Highland Bagpipe)もスコットランドが発祥の地。
 (以上、ウィキペディア上掲、及び
http://en.wikipedia.org/wiki/Scottish_people
(11月23日アクセス)による。)

(完)