太田述正コラム#1527(2006.11.24)
<酒と日本人>
1 始めに
飲酒運転による交通事故が相変わらずよく起こっていますが、総じて日本人は酒の上の過ちに寛容です。
一体どうしてそうなのか、考えてみました。
これから、無料読者の方々には、木で鼻を括ったような有料コラムの無料概要版をお送りすることが多くなるので、今回はお詫びを兼ねて、酒を話題にした軽い無料コラムをお送りすることにした次第です。
2 酒に弱いのに酒を飲む文化
日本人には、酒を分解する酵素「ALDH2型」が少ないか、全く持っていない人が44%もおり、世界で最も酒に弱い民族だと言えます。
支那人が41%、韓国人が28%、フィリピン人が13%と、近隣諸国の人々も比較的酒には弱いのですが、白人や黒人は、ほぼ0%です。
その日本人の一人当たりの年間アルコール消費量(アルコール分100%換算。2002年)は6.5リットルで世界29位であり、一見1位のルクセンブルクの11.9リットルに比べて少ないように見えますが、アジアではダントツの1位です。(ちなみに、アジアの2位は世界40位のタイです。)
分解酵素を完全に持っている56%が一人当たりで世界一酒を飲んでいるからこの6.5リットルという数値になったとは考えらません。恐らく、分解酵素が少ない人も結構お相伴しているに違いありません。
これでは、酒の上の過ちが頻発するはずですし、頻発することに一々目くじらを立ててはおれないので、過ちが大目に見られることにもなるわけです。
どうして、酒に弱い人まで酒を飲むのでしょうか。
正月に元朝参りに行くと、帰りにお神酒を振る舞われますが、日本では酒と神道、すなわち日本の文化とは切っても切り離せない関係にあります。
神前結婚をあげると三三九度がありますし、仕事のつきあいで杯を差しつ差されつするのは毎度お馴染みのことです。
元検事で法務省官房長の時に自ら退職して福祉活動家として活躍しておられる掘田力氏は、「酒のつきあいをまったくしなくても、仕事は何ら変わりなくきちんとできる」とおっしゃる(
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/hotta.cfm?i=20060904cj000cj
。9月11日アクセス)けれど、それは、掘田氏が法務省のエリート中のエリートだから許された我が儘だったのではないでしょうか。
もっとも、このところ、アルコール度の低いリキュール類や健康志向を受けた果実酒は伸びている一方で、度数の高い清酒やウイスキーの消費は激減していて、トータルで日本人のアルコール消費量は減少しつつあることから、近い将来、日本の酒文化が変容を遂げる可能性はあります。
(以上、特に断っていない限り
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060905/mng_____tokuho__000.shtml
(9月5日アクセス)、
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/honbu/toukei/toukeimiya/alacarte.html、
http://www.meijijingu.or.jp/japanese/qa/shinto/03.html
(どちらも11月24日アクセス)による。)
3 酒の隠れた効用
日本を含む10カ国(日本以外は、南アフリカ・スロバキア・ドイツ・ポルトガル・ベルギー・中共・スペイン・ブラジル・オーストリア)の人々に、不眠解消方法を尋ねたところ、「何もしない」が53%だったのですが、それ以外の答えが国によって全く違うことが分かりました。
しかも、その中でも日本人の答えはユニークでした。
「医者に相談する」、「ハーブティーを飲む」、「お茶やコーヒーを控える」については、日本人はビリで、「睡眠薬を飲む」ではブービーであることも面白いのですが、「酒を飲む」ではトップだったのには思わず頷いてしまいました。
私がそうだからです。
私のような、「アルコール分解酵素が少ない人」が多い日本で、寝付けないときに酒を飲んでバタンキューとなる人が沢山いる、ということなのでしょう。
(以上、
http://beautystyle.jp.msn.com/healthcare/news/article.aspx/category=healthcare/news=healthclick/partner=PCN/date=20061121/article=13/page=2
(11月24日アクセス)による。
4 感想
酒との関わりだけとっても、民族ないし人種によってこれだけ違いがあるのですから、民族ないし人種総体としての違い・・渡辺京二の言葉を用いれば民族的特性の違い・・はかなり大きいはずです。
それが文明の違いを生む、と私は考えているのです。