太田述正コラム#1532(2006.11.27)
<レバント紛争の終結>
1 始めに
聞き慣れぬレバント紛争とは何かについては、コラム#1372をご覧頂くとして、この紛争の北方戦域(レバノン)における8月の停戦にはるかに遅れて、南方戦域(ガザ)でもようやく停戦が成立しました。
2 ガザでの停戦
9月に、コラム#1407で、ファタとハマス等によるパレスティナ挙国一致内閣成立目前と書いたところですが、結局成立に至らず、その後もガザにおけるイスラエルとハマス等との間の戦闘は続きました。
そして、ついに今月10日には、イスラエル国内では、パレスティナ人との和平は永久に不可能だと考える人々が多くなったとガーディアンのコラムニストが記すに至りました(
http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1944206,00.html
。11月10日アクセス)。
イスラエルがガザ(人口130万人)から一方的に撤退した2005年9月までは、ハマス等のロケットはもっぱらガザ内のイスラエル人入植地に向けて発射されていたのですが、イスラエル(軍と入植者)撤退以降、約1,100発のロケットがイスラエル「本土」に向けて発射されました。
ハマス等によってガザにイスラエル兵士1人が拉致されたことによってレバント紛争が始まった6月から現在まで、イスラエル軍によって少なくともパレスティナ人約400人(そのうち約200人は女性や子供を含む一般住民)が命を落とし、約1,500人が負傷し、数千軒の家が破壊されました。他方、イスラエルの方は、3人の兵士が戦死し、2人の一般住民がロケットで死亡するにとどまっています(注)。
(注)イスラエル撤退以降の14ヶ月では、この2人を含め、計4人の一般住民がロケットで死亡した。また、この2人は、最近ロケットの命中精度が上がって街の中心を命中するようになったことから、停戦直前の2週間に死亡したものだ。
また、今年3月にハマスがパレスティナ議会選挙で勝利し、ファタに代わってハマス内閣が成立したところ、ハマスがイスラエルの存続を認めないとの公式スタンスを維持しているため、爾来、イスラエルはパレスティナ側に引き渡すべき税収の引き渡しを拒否していますし、欧米諸国やロシアはパレスティナに対する援助を差し止めています。
この結果。16万人にのぼるパレスティナの公務員(医者や教師を含む)に3月以来給与が支払われていない等、パレスティナ一般住民は苦境に陥っています
最初に和平に動いたのはパレスティナ側です。
ハマス内閣のハニヤ(Ismail Haniyeh)首相が、イスラエル側に対し、ヨルダン川西岸とガザでイスラエル軍が作戦行動を中止すれば、パレスティナ側はロケット発射を止める、と提案したのです。
イスラエル側がこれを拒否したところ、25日、パレスティナ当局のアッバス(Mahmoud Abbas)議長(ファタの指導者)が、イスラエル軍がガザでの作戦行動だけを中止すればよい、と再提案してきたので、イスラエル側はこれを受け入れ、26日の明け方に停戦が成立したのです。
今までほとんど停戦に合意したことがないイスラム聖戦機構(Islamic Jihad)まで今回の停戦に合意したことは画期的だとされています。
停戦成立直後に、9発のロケットがイスラエルに打ち込まれましたが、その日のうちにガザから完全撤退したイスラエル軍は反撃を差し控えています。
シリア在住のハマスの指導者、メシャール(Khaled Mashaal)は、ヨルダン川西岸とガザにパレスティナ国家をつくるためのイスラエルとの交渉に6ヶ月の時間を与える、ただし、イスラエルがこの機会を逸するようなことがあれば、三回目のインティファーダを始める、とファタとの協議のために訪問していたカイロで述べましたが、イスラエル側は、まず上記イスラエル軍拉致兵士を解放せよ、そうすれば、パレスティナ人収監者達を解放する、話はそれからだと言っています。
いずれにせよ、この停戦を契機に、遠からずパレスティナ挙国一致内閣がつくられるであろうと予想されています。
(以上、
http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,1957540,00.html
(11月26日アクセス)、及び
http://www.nytimes.com/2006/11/27/world/middleeast/26cnd-mideast.html?ei=5094&en=0607f78804e112d1&hp=&ex=1164603600&partner=homepage&pagewanted=print、
http://www.csmonitor.com/2006/1127/p01s02-wome.html、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-gaza26nov26,1,3008147,print.story?coll=la-headlines-world、
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1957855,00.html
(いずれも11月27日アクセス)による。)
3 終わりに
これで、6月にガザで始まったレバント紛争は、南方戦域のガザでの停戦により、一応終結に至ったことになります。
最近八方ふさがりの観がある米ブッシュ政権は、欣喜雀躍しているに相違ありません。 しかし、先行して停戦していた北方戦域のレバノンの方では、内戦の危機が取り沙汰されています。その話題についても、近く取り上げたいと思います。