太田述正コラム#1536(2006.11.29)
<日本・米国・戦争(その1)>
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(本篇は、情報屋台(コラム#1447)用のコラムの転用です。)
1 始めに
元特捜部検事で法務省官房長の時に自ら退官して現在福祉活動家として活躍しておられる掘田力さんは、皆さんご存じのことと思います。
やや旧聞に属しますが、その堀田さんが、あるコラムで、
「じわじわと進む右傾化も、戦争の悲惨さ、無残さを身をもって経験した者には、何ともいらだたしいことである。アメリカは、ベトナム戦争から何も学んでいないし、日本で右の方向に社会を少しずつずらしていく政治家たちも、その先に起きるおそれのある不幸な事態にまるで無頓着で、気楽に威勢のよいことを言って愛国者気取りである。聞く耳、見る目を持たず、忠告者を敵として攻撃する無神経さが、こちらの神経にこたえるのである。」
と記しておられます(
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/hotta.cfm
。9月11日アクセス)。
必ずしも堀田さんの論旨が明確ではないのですが、その点も含め、私は、堀田さんが平均的日本人の典型であるとみなし、その主張を検証させていただくことにしました。
私の読み方が的確であるかどうか自信はありませんが、掘田さんは、
一、 米国はベトナムで戦争をすべきではなかった。○
二、 なぜなら、米国はその戦争に敗北したし、×
三、 米国はその戦争目的を達成できなかったからだ。△
四、 日本は対米戦争をすべきではなかった。×
五、 なぜなら、日本はその戦争に敗北し、○
六、 日本は戦争目的を達成できなかったし、○
七 その反面、米国はその戦争目的を達成したからだ。×
八、 米国はイラクでも戦争をすべきではなかった。×
九、 なぜなら、米国はその戦争に敗北しつつあるからだ。?
十、 当然、その戦争目的も達成できそうもない。?
十一、日本は自らを防衛するために必要な軍備以上の軍備を持とうとしている。○
十二、持ったあかつきには、日本はすべきでない戦争をすることになり、敗北することだろう。?
十三、だから、日本は自らを防衛すること以外の戦争目的を思い描いてはならない×
と主張しておられるようにお見受けします。
しかし、私に言わせれば、このうち、二、四、七、八、十三は間違いであり、三はどちらとも言えず、九、十、十二は不明です。
各命題に、○(正しい)、×(間違い)、△(どちらとも言えない)、?(不明)、をつけたのでご確認下さい。
ですから、堀田さんの主張は、全体として間違っていると私は思います。
納得できない、という方も少なくないと思います。
以下、できるだけ丁寧に説明させていただきたいと思います。
2 ベトナム戦争について
(1) 米国はベトナムで戦争をすべきではなかった
米国は、戦後、自ら世界の警察官役を買って出ました。
戦後間もなく米国を盟主とする西側諸国とソ連は冷戦に突入し、米国は、全世界で共産主義圏の拡大を阻止するために全力を傾注していました。
ベトナムでは、戦後、共産主義勢力が、第一次インドシナ戦争で宗主国フランスを打ち破り、共産主義勢力が支配する北ベトナムと、反共産主義勢力や親共産主義勢力がせめぎあう南ベトナムが並立することになりました。
北ベトナムは、南ベトナムの吸収統一をめざしており、米国は、そうなった暁には、早晩、東南アジアを共産主義勢力が席巻することになると考え、南ベトナムの梃子入れに乗り出し、やがて軍隊を南ベトナムに派遣して南ベトナムの親共産主義勢力と、その背後の北ベトナムと戦うのです。
しかし、米国はベトナムに介入すべきではなかったのです。
北ベトナムが南ベトナムの吸収統一をめざしたのは、ナショナリズムに駆られてであり、ベトナムを超えて共産主義圏の拡大を意図していたわけではなかったからです。
しかも、1960年には、中ソ論争が公然と行われるようになり、共産主義勢力の一枚岩伝説は音を立てて崩れていました。
当然、おなじようま対立がベトナムと中共との間でも起きる、と米国は考えてしかるべきでした。
実際、北ベトナムがベトナム戦争に「勝利」し、1976年にベトナムが統一されるや、ベトナムは1978年に、中共の意向に逆らってカンボディアに軍事介入してポルポト共産主義政権を転覆し、翌1979年には怒った支那の中国共産党政権がベトナムを攻めて中越戦争が起きるのです。
(以上、事実関係は、
http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_Vietnam、及び
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E3%82%BD%E5%AF%BE%E7%AB%8B
(どちらも11月29日アクセス)による。)
ところが、米国は、国際情勢を読むことにかけてはまるでだめで、誤った情勢判断に基づき、南ベトナムへの支援にのめり込み、ついには1960年代に入ってからベトナムへの軍事介入に本格的に乗り出してしまうのです。
他方、アングロサクソンの本家の英国は、1950年に起こった朝鮮戦争の時は派兵したというのに、当時のベトナム情勢を読み切っていたからだと私は思っているのですが、ついにベトナム戦争には参戦しませんでした(
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=74&ItemID=9837
11月29日アクセス)。
(2)米国はベトナム戦争に勝利した
ここまでは、まあそんなところかと思われる方ばかりでしょうが、「米国はベトナム戦争に勝利した」、と言われるとびっくりされる方が多いことでしょう。
しかし、米国はベトナム戦争に勝利したまさにその時に、逆に敗北したと思いこんでしまう、という椿事が起こったのです。
(続く)