太田述正コラム#1548(2006.12.5)
<英核戦力更新論議>
(本日、新規の有料講読の申し込みが2件あり、ほっとしています。しかし、これまでの有料読者である129名中、メール受信キャパシティーを超えて配信コラムが届かなかったケースも入れると、6名の方にメールが届かなかったことがあるのですが、いずれの方からも、コンタクトはありませんでした。これらの方が有料講読を継続されるかどうか不安無しとしません。継続されない方は、他にもあるはずです。ですから少なくとも新規申し込みが10件くらいないと、有料読者の数を現状維持できない虞があります。コラム#1540の後半を参照し、どしどし ohta@ohtan.netにお申し込み下さい。)
1 始めに
ブレア英首相は、12月4日、核戦力の更新計画を発表しました。
その概要と、この更新計画をめぐる論議の一端をご紹介しましょう。
2 更新計画の概要
英国への戦略的脅威は、三つある。
既存の核保有国からの脅威の再来、北朝鮮やイランのような不安定で極度に抑圧的でかつ非民主主義の国家がなろうとしている、新たな核保有国からの脅威、そして核テロのスポンサーとなるならず者(rogue)国からの脅威だ。
よって、英国は核戦力を引き続き維持する。
英国は、核拡散防止条約下における公認核保有国5カ国の中で、唯一、潜水艦という単一のプラットホームだけに核弾頭を搭載している国であり続ける。
ただし、核弾道弾を搭載している現行の4隻のバンガード級原子力潜水艦(Vanguard class nuclear-powered submarine)が2022年までに全艦退役するので、後継艦を建造し、2024年から逐次就航させて行く。
新潜水艦健造経費は、150億??200億英ポンドであり、大部分は2012年から2027年にかけて支出される。この間、国防費総額の3%を占めると予想され、核関連経費全体では、この間の国防費総額の6%を占めると予想される。
また、潜水艦の隻数を3隻に減らし、それでも常時1隻を外洋に配置する現行の態勢を維持できるかどうかを検討する。仮に3隻に減らせるとなれば、健造経費は10億??20億英ポンド削減できる。
ちなみに、潜水艦による核抑止は、航空機や陸上核弾道弾による核抑止に比べて2.5倍も安上がりだし、これらより的の攻撃に対し脆弱ではない。水上艦艇による核抑止は経費は同じくらいだが、より脆弱だ。
現在使用している核弾道弾は米国製のトライデント(Trident)D5弾道弾を延命させて2040年代まで使えるようにする措置を講じる。そのための経費は約2億5,000万英ポンドだ。
なお、核弾頭の数は現在の200から160未満にまで減らすことも検討する。
3 論議
1980年代末までは、ブレアも含め、英労働党は一方的核廃棄政策を掲げていたので、今でも労働党内には根強い核廃棄論があるのですが、保守党と手を組むことによって、労働党内の反対意見は乗り越えられるとブレアは踏んでいます。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/ef616118-83bb-11db-9e95-0000779e2340.html、及び
http://www.nytimes.com/2006/12/05/world/europe/05britain.html?ref=world&pagewanted=print
(12月5日アクセス)による。)
左派の高級紙である英ガーディアンでは、コラムニストが、このブレアの核戦力更新計画を、労働党が政権にしがみつくためのものとこきおろし、これをイースター(Easter)島に無数に建立され、全く役に立たず、ついには島の経済を破綻させた石像であるモアイ(moai)になぞらえました。
驚くべきことに、多数の読者がこのコラムに投稿しているのですが、そのすべてがこのコラムの論旨に賛成しています。
ガーディアンの読者には、米国が嫌いな人、英国は大国主義へのノスタルジアを克服すべきだとする人、環境や福祉問題を重視する人、つまりは典型的なリベラルが多いことを改めて痛感させられます。
(以上、
http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1964037,00.html
(12月5日アクセス)による。)