太田述正コラム#1551(2006.12.7)
<米国のヒスパニック差別(その2)>
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3 ヒスパニック差別
今年3月に米国のヒスパニックを対象に行われた世論調査によれば、ヒスパニック差別が大きな問題だと答えた人が58%に達しています(
http://www.angus-reid.com/polls/index.cfm/fuseaction/viewItem/itemID/12560
。8月31日アクセス)(注1)。
(注1)ヒスパニックには、ラティノという呼び方もあるし、また、チカノなるサブグループもあって、同じヒスパニックと言っても、様々な人々が含まれていることを忘れてはならない。一世と二世以降では、メンタリティーがかなり異なることにも注意が必要だ。
そもそも、ヒスパニックないしラティノという言葉が1970年代から人口に膾炙するようになったのは、一つには、米国南西部に住むチカノが、北東部に住むプエルトリコ人と、地域的文化的違いを乗り越えて、連邦政府からカネをせしめるために共同戦線を組み始めたこと、そしてもう一つには、当時のニクソン政権が、ヒスパニックが黒人嫌いであることに目を付け、民主党が黒人にばかり肩入れしてヒスパニックには無関心であると訴えることで、ヒスパニック票を獲得しようと考え、国勢調査にヒスパニックであるかどうかの質問事項を導入したりしたこと、に由来する。
(以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-op-rodriguez12nov12,0,525854,print.column?coll=la-opinion-center
(11月13日アクセス)による。)
ヒスパニックが差別されるのは、彼らが米国に同化しようとしない、と見られているからです。
実際、サッカーのTV観戦のデータを見ると、彼らがそうみられてもやむをえない面があります。
というのは、ワールドカップでは、いつもメキシコと米国は、予選の時から好ライバルであるところ、ロサンゼルスのチカノは、もっぱらメキシコ・チームが登場する試合を追いかけ、かつその試合をもっぱらスペイン語放送で見ているからです(
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-zigler24jun24,0,2097602,print.story?coll=la-news-comment-opinions
。6月25日アクセス)。
他方、ヒスパニックには、米国での不法滞在者が1,200万人にも達すると考えられていることもあって、米国の犯罪率を押し上げている、というイメージもあるところ、それは逆である、という説が最近有力になってきました。
すなわち、合法・不法移民によってヒスパニック人口が増えている都市ではどこでも、ヒスパニックには若くて貧しい男性が多いというのに、彼らが殺人等を犯す率が低いため、犯罪率が低下していることが分かってきたのです。
ちなみに、米国の犯罪率はこのところ全般的に低下傾向にあり、その理由として、ニューヨーク市から始まった「壊れた窓」理論・・ささいな犯罪を許さない・・の普及(注2)や、妊娠中絶の合法化(コラム#723)などが挙げられていますが、そこへ、更にヒスパニック移民の増大、という理由が加わったというわけです。
(注2)これは、黒人地区の犯罪率の減少に大きく貢献したとされている。
ヒスパニックの犯罪率が低い理由としては、ヒスパニックのコミュニティーの団結が強く、年長者が近所に目を光らせていることや、結婚率が黒人や白人より高く家族志向であることが挙げられています。
残念ながら、ヒスパニックも二世以降になると、米国の平均犯罪率へと接近していくようです
この関連で、どうしてそもそも米国の犯罪率は高いのか、について、やはり最近、米国の南部を中心としたScots-Irish(Scotch-Irishとも言う。コラム#624)の復讐と決闘を尊ぶ伝統に注目する説が登場していることは興味深いものがあります。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/12/03/magazine/03wwln_idealab.html?pagewanted=print
(12月4日アクセス)による。)
4 終わりに
米国政府が、このところ、いかにヒスパニック不法移民の流入防止策にやっきになっているかは、別途また取り上げたいと思っていますが、いかなる手だてを講じようと、米国でのヒスパニック人口の絶対的・相対的増大は続くことでしょう。
冒頭の引用の趣旨の繰り返しになりますが、欧州文明の体現者であって、基本的にカトリック教徒であるヒスパニック人口の増大は、同化政策の失敗とあいまって、米国の非アングロサクソン化を招来しかねない危険性があります。
しかも、今回見てきたように、ヒスパニック人口の増大は、米国をしてできそこないのアングロサクソンたらしめてきた要素の一つである、米国のScots-Irish文化を希釈化してしまい、米国の非米国化を招来しかねない危険性まであるわけです。
後者はわれわれとしては歓迎すべきことなのかもしれませんが、後者は困りますね。
(完)