太田述正コラム#1559(2006.12.10)
<「西側」文明の虚構(その2)>
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新規申込みが少ないので、既存の有料読者の継続に期待をかけざるをえません。
最後のお祭りになるかもしれません。
既存の有料読者の皆さんも、太田述正コラムへの叱咤激励文をお寄せいただければ幸いです。コラムに転載させていただきます。
もう一度繰り返します。12月28日時点で、来年の会費を納入された有料読者の数が129名を下回れば、年明けからコラムの前面有料化に踏み切るとともに、現在のホームページは閉鎖し、まぐまぐとE-Magqazineから撤退します。)
(2)その2
著者が米国人で書評子も米国人となると、すさまじいことになります。
米国人のオズボーン(Roger Osborne)が書いた「文明・・西側世界の新しい歴史」(CIVILIZATION A New History of the Western World)に対する、米国人による、ニューヨークタイムスに載った書評(
http://www.nytimes.com/2006/12/07/books/07grim.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print。12月7日アクセス)を俎上に乗せてみましょう。
そもそも、この本のタイトルには呆れますね。
何と、「西側」文明なるものが存在するどころか、それが文明の名に値する唯一の文明であるかのごときタイトルではありませんか。
書評子は、このタイトルに何の違和感も感じていません。
さて、書評子によれば、この本には、ソクラテスからアクィナス、ミケランジェロ、そしてブレアやブッシュまで、更には、ギリシャ科学からルネッサンス、あるいは新大陸への植民、産業革命、はたまた活版印刷や蒸気機関やマクドナルドのハンバーガーの話まで登場するのだそうです。
そして、オズボーンの結論は次のようなものだといいます。
「世界を整序づける合理的方法が存在し、それが人類全体に恵沢をもたらすとの西側世界の根本的な考え方は、我々自身の上にも降りかかったありとあらゆる人的災害を引き起こした。・・にもかかわらず、我々の多くは依然として、我々の単純にして、普遍的な、「進歩的」な統治システム・経済・教育・警察・司法・道徳を地球上のすべての社会の隅々まで普及させる神聖なる義務を負っているという観念に取り憑かれている。」
これを読んでなるほどと思われた方もいるかもしれませんが、この中の「西側世界」を「イスラム世界」に置き換えても、この命題が基本的に成り立つことからしても、オズボーンが言っていることのいい加減さは明らかです。
しかも、この命題は、オズボーンの言うところの西側世界全体にはあてはまるわけでもありません。
百歩譲って古典ギリシャ・ローマが欧州文明やアングロサクソン文明の源だとしても、例えばタキトゥス(コラム#41、125、372、852、854、857、1397、1488)は、ゲルマン人に対し深い敬意を払っており、ギリシャ人やローマ人が上記のような観念に取り憑かれていたとは到底思えません。
また、アングロサクソンの本家であるイギリス人もまた、基本的にこのような観念とは無縁です。英国が155年間も統治した香港についに地方自治並の自治も与えようとしなかったこと(コラム#91)を思い出してください
上記のような観念に取り憑かれているのは、アングロサクソンとは全く異質の存在である欧州人と、できそこないのアングロサクソンである米国人だけなのです。
(完)