太田述正コラム#1580(2006.12.21)
<ブッシュの年末発言>
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1 始めに
19、20日の両日、ブッシュは、年明けに発表する予定の対イラク新政策の方向性にも関わる発言を行ったので、ご紹介しておきましょう。
2 二つの方向性
ブッシュは19日付のワシントンポスト電子版に掲載されたインタビューの中で、「<我々はイランで>勝ってはいないが負けてもいない」と語りました。
10月25日の記者会見の時にはブッシュは、「間違いなく我々は勝っている」と言っていたので、これは情勢判断の大きな変更です。
ブッシュは、米統合参謀本部議長のペース(Peter Pace)海兵隊大将が12月4日に使った表現を採用した、と考えられています。
20日の定例の年末記者会見の席上、この点について聞かれたブッシュは、勝つことは可能だと信じているが、思ったように進捗していないという率直な気持ちを述べたまでだ、と言いつくろいました。
ブッシュは19日のインタビューの際、政策の大きな変更についても語りました。
アフガニスタンとイラクへの派兵の長期化に伴い、米軍地上部隊のやりくりが限界に来ているので、ゲーツ新国防長官が正式に就任した直後に、米陸軍と米海兵隊の増員計画を策定するように命じた、というのです。
ただし、ブッシュは、イラク、就中その首都バグダッドに米地上部隊を増派するかどうかは未定であるとしています。
3 米地上部隊の増員について
(1)米地上部隊の増員について
米地上部隊の増員について、もう少しご説明しましょう。
米陸軍の現役兵力は、朝鮮戦争当時は160万人であり、ベトナム戦争中もこの水準がほぼ維持されました。
その後、80万人前後に減らされた状態で1970年代と80年代は推移しました。
湾岸戦争の終了とソ連の崩壊を契機に、米陸軍は更に60万人以下に、次いで50万人以下に減らされ、9.11同時多発テロを迎えます。
米議会は、同時多発テロ後、484,000人であった陸軍現役兵力を暫定的に3万人増やすことを認めます。
兵力は一挙には増やせないこともあって、現在の陸軍現役兵力は507,000人であり、来年、ようやく514,000人の上限に達する予定です。
まだ、具体的な数字は明らかにされていませんが、米陸軍当局としては、これを更に上限540,000人まで増やそうと考えているようです。
ちなみに、兵力は毎年6,000人から7,000人しか増やせないと言われており、また、兵力を1万人増やすごとに約12億米ドルが追加的に必要となります。
米海兵隊については、具体的な説明は省きますが、現在の現役兵力は180,000人です。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/12/20/AR2006122000308_pf.html、
http://www.nytimes.com/2006/12/20/washington/20bush.html?ei=5094&en=7ac6d30c774070b9&hp=&ex=1166677200&partner=homepage&pagewanted=print
(どちらも12月21日アクセス)による。)
(2)あおりを食う米空軍
フセイン政権打倒後、地上部隊の重要性が急速に高まったため、その直前まで、ついに空軍の時代が来たと思っていた米空軍は、一転冬の時代を迎え、現在に至っています。
地上部隊に予算をとられた結果、米空軍の航空機の平均年齢は25年を超えてしまいました。前代未聞のことです。
それどころか、米空軍は、在イラク米地上部隊の兵力不足を補うために、5,000人も地上要員を拠出し、イラクに派遣しています。
彼らは、補給トラックの護衛とか即製爆発物の処理といった本来陸軍や海兵隊がやるべきことをやらされており、空軍の新兵教育には地上戦等訓練や個人携行武器使用訓練が新たに課されるようになりました。
この結果、イラクとアフガニスタンでは、これまで米空軍要員51人が死亡していますが、このうち、航空機に搭乗していたのは25人で、それより多い残りの26名が地上で亡くなった、という米空軍始まって以来の椿事が起きています。
しかし、この地上要員の拠出も不可能になろうとしています。
予算不足のために、米空軍は、2009年までに、現在上限355,000人の現役兵力を4万人削減することを余儀なくされているからです。
なお、米海軍も地上要員を相当数イラクに拠出・派遣していますが、米空軍のような予算不足には直面していません。
結局、米空軍だけが割を食っている格好です。
(以上、http://www.csmonitor.com/2006/1219/p03s01-usmi.html
(12月19日アクセス)による。)