太田述正コラム#1588(2006.12.25)
<進展のなかった六カ国協議>
1 始めに
今回の六カ国協議は、私の予想通り(例えば、コラム#1543)、何の進展もなく、終わりました。
しかし、その直前に核に関するもっと重要なできごとが関係国の間で起きました。
2 進展のなかった六カ国協議
六カ国協議に臨んだ北朝鮮のスタンスについては、東京新聞の「北朝鮮は、米国が求める「核放棄に向けた具体的な行動」を事実上拒否し、最後まで、米国が科している金融制裁の解除にこだわった。六カ国協議の議題を金融制裁の解除にすり替え、核問題の議論を遠ざけた。米国が制裁解除に応じなければ「米国は北朝鮮に対する敵視政策を変える意思がない」として、問題を先送りする時間稼ぎもできる。結果はその通りになった。米国が解除に応じればそれはそれで、北朝鮮にとって大きな成果だ。その場合に備えて、次の段取りまで準備。「現段階で、論議の対象となるのは核計画。核兵器は対象ではない」と主張し、新たな難題を設定した。米国による核攻撃の脅威が取り除かれない限り、対抗手段として既に手に入れた核兵器は放棄しないとの姿勢だ。すべては十月の核実験で北朝鮮に生まれた「新たな状況」を背景に、二段構えで核放棄の具体化を避ける戦術だったといえる。」という記事(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20061223/mng_____kakushin000.shtml
。12月23日アクセス)の通りだと思います。
しかしこの記事が、米国のスタンスについて、「米ブッシュ政権は今回の協議に際し、・・従来の強硬姿勢を修正。・・「結果が出るのであれば、やれるところまでやってみよう」(協議関係筋)。これが今回の米側の基本的な立場だった。その方針に沿って、米側は北朝鮮との直接協議に応じたほか、・・金融制裁問題をめぐる米朝協議・・も容認。・・できる限りのカードを切ったといえる。」としているのはいかがなものでしょうか(注)。
(注)朝鮮日報まで、「今回の6カ国協議は、米国がこれまでに前例がないほどの積極姿勢で臨んだ・・「米国が破格かつ包括的な提案をした」(韓国政府のある幹部)と言われるほど、柔軟性を発揮した・・」と言っている(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/12/23/20061223000009.html
。12月24日アクセス)のには困ったものだ。
私は、いくら米国が国際情勢分析能力がないとはいっても、やや単純化して申さば、金正日一人の頭の中を覗き込めばよいだけのことであり、上述の北朝鮮のスタンスなど、米国はずっと以前から読み切っていたはずであり、米国が今回の六カ国協議で進展がなかったことを残念がっているのは単なる演技であって、米国は、「従来の強硬姿勢を修正」など全くしていない、と見ています。
その根拠はいくらでも挙げられますが、例えば、米国は、金融制裁問題について、「北朝鮮から「聞き取り」を行うという立場」で金融制裁協議に臨んだにすぎず、「協議<が>情報交換の水準にとどまるだろう」ことを百も承知していたことがそうです。
そもそも、米国が六カ国協議と平行した金融制裁協議に同意したのは、北朝鮮が、米朝の予備的接触の際、「<自分達が>違法行為を<犯したことを>否認する一方で、「米国が関連情報を提供すれば再調査に着手し、紙、インクなどを押収した後、米国に提供する」という立場を示すなど、米国側に歩み寄る姿勢<を>見せ<てい>た」からにすぎません。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/12/18/20061218000018.html(12月19日アクセス)による。)
ちなみに北朝鮮側は、金融制裁協議において、「ある時には(・・凍結されている北朝鮮口座の資金)2400万ドル・・を返すよう要求し、またある時には“カネは必要ない”と言い出すなど話が二転三転し、一体何を要求しているのか分からないほどだった」と不真面目極まる態度であったといいます(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/12/23/20061223000009.html
上掲)。
金融制裁問題の解決を核問題で実質協議に入る前提であるとする北朝鮮の主張の虚構性は、この態度一つとっても明らかです。
3 より大きなできごと
この六カ国協議が行われるちょっと前の12月16日、核に関して六カ国協議よりはるかに重要なできごとが、六カ国協議参加の中米日三カ国の間でありました。
中共が、米ウェスチングハウスから改良型加圧水型炉(APWR)技術を導入して、原発4基を建設するための覚書を米国政府と取り交わしたのです(
http://www.nikkeibp.co.jp/news/china06q4/521033/
。12月24日アクセス)。
しかし、ウェスチングハウスは日本の東芝の子会社であり、上記覚え書きの締結は、日本政府の承認の下に行われたはずです。
中共側は、上記できごとの実質的な相手方が日本であることに一切言及していませんが、上記覚え書きの締結は、9月の安倍新首相の中共訪問によって大いに改善された日中関係を戦略的レベルで固める、という中共当局の強い決意の表れであると私は見ています。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/2cd1aec4-9161-11db-b71a-0000779e2340.html
(12月23日アクセス)を参考にした。)
4 結論
中共としても、北朝鮮が核を手放さないことは熟知しているはずです。
にもかかわらず、中共は日本との関係強化に必死であり、北朝鮮のことなど眼中にないように見えます。
中共は、六カ国協議の議長国として、米国と北朝鮮双方にうらまれないようにうまく立ち回ることに専念する一方で、六カ国協議の蹉跌と国際社会による北朝鮮への経済制裁の強化、更には(中共にとって大きなダメージのない形で行われるのであれば)米国による北朝鮮の体制変革、を甘受する、というスタンスをとり始めたように私には思われてなりません。