太田述正コラム#1590(2006.12.26)
<マクファーレン・マルサス・英日(その4)>

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 25日現在、来期の会費を納入済の方は87名にとどまっており、助っ人(コラム執筆等)1名を加えても、目標の129名を達成するためには後3日間で41名の方が会費を納入するか助っ人を引き受けていただく必要があります。どうしてこんなに伸びがにぶいのか、キツネにつままれたような思いがしています。
 それほどコラムの質は下がっていないと自負しているので、4年半強のコラム・バックナンバーというおまけがついた前回とは違って、今回は、半年5,000円の会費では高すぎた、ということなのでしょうか。
 なお、会費を振り込む、あるいは振り込んだとご連絡をいただいた方が現在7名おられます。最終日の28日まであきらめませんので、よろしくお願いします。
 また、新規申し込みや助っ人(コラム執筆等)希望者は、ohta@ohtan.net へどうぞ。 不思議なことに、無料購読者がこのところ再び増えてきています。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 (12)汚れと清潔さの観念
 18世紀において、もっとも清潔な国はオランダと英国と日本であり、アムステルダム・ロンドン・大阪は清潔さの原型都市だったが、その中でも一番は日本だった(PP271)。
 その原因としてあげられるのは、第一にオランダと英国が欧州地域で傑出して豊かな社会だったことだ。日本はこの両国ほどではないが、アジア地域では傑出して豊かな社会だった。(PP273)
 第二に、英国も日本も比較的開かれた社会であると同時に階層化社会でもあり、清潔(きれい)な家に住むことは、きれいな発音やきれいな前科と並んで、より上流階層に属すとみなされるために重要な要素であったことだ(PP273)。
 第三は宗教だ。
 日本の場合は、神道と仏教と儒教の混淆が世界で最も穢れを厭いピュアであることを尊ぶ信条を日本人に付与したことが挙げられる(PP274)。あたかもそれは、日本人が、バクテリア・ウィルス等が19世紀末に発見される前から、それらの存在を知っていたかのようだ(PP278)。
 英国の場合は、ピューリタンという言葉があるように、キリスト教信仰と清潔さは結びついていた。特に、メソジスト運動の創始者であるウェズレー(John Wesley。1703??91年)の存在が大きい。ウェズレーは、「清潔さは神性に近い」と主張したからだ。(PP280)

 (13)空気感染疾病
 空気感染する天然痘・風疹・結核といった疾病は、環境を改善するだけでは対処できない(PP285)。
 天然痘は日本で最も猛威を振るった伝染病だ。日本が欧州地域より人口密度が大昔から高かったためだ。(PP288)
 812年から14年にかけての天然痘の流行では人口の半分近くが死亡した(PP289)。12世紀までには、天然痘は慢性的に流行するようになった(PP289)。1824年にロシア経由で天然痘の予防接種が伝えられると、日本人は予防接種に情熱的に取り組み、藩によっては、全ての子供に予防接種を義務づけるところもあった(PP290)。
 とまれ、英国も日本も、本来対処できないはずの空気感染疾病によって、総じて言えば、ほかの国々ほどはひどい目には遭っていない。これは、この両国がその他の疾病から、ほかの国々に比べて「解放」されていたため、これの疾病との合併症によって、空気感染疾病罹患者が重篤に陥ることが少なかったからだと考えられる(PP299)。

 (14)出生率・結婚・性的関係
 17世紀後半から18世紀前半にかけての英国の出生率は1000人あたり30人を中心として上下したが、通常の産業化以前の社会では出生率は45人くらいなので、異常に低いと言わざるを得ない(PP304)。これは、欧州諸国に比べての英国での女性の結婚年齢の高さと(四分の一近くに達した)女性の非婚率の高さが原因だ(PP307、316)。
 日本でも1721年から1820年までの出生率は25人から43人の間であり、やはり異常に低い。これは、欧州地域に比べて、日本の出産年齢の女性の出生間隔が半年から1年長いことが原因だ。(PP305)
 ちなみに、日本の江戸時代では、東日本では結婚年齢が低く、西日本では高かった(PP309)。
 当時の日本の女性の非婚率は、欧州地域よりは低かったが、アジア地域の中では際だって高かった(PP317)。
 当時の日本の他に例を見ない特徴は、出産年齢の女性が出産を40歳くらいで止めてしまうことだ(PP310)。これは欧州地域の平均より5??6歳早い(PP311)。もう一つ、やはり余り他に例を見ない当時の日本の特徴は、売春がおおっぴらに行われており、売春婦になることが後ろめたいことではなく、また、既婚の男性が売春宿に堂々と出入りできたことだ。このことも、出生率の低下に寄与した。(PP313??315)

(続く)