太田述正コラム#1627(2007.1.19)
<中共の軍事技術の向上>(2007.2.19公開)

1 始めに

 半年ちょっと前に(コラム#1298で)「中共は、有人宇宙飛行を行いうる高いロケット技術を持っていることはご存じのとおりですが、一国の軍事工業力の水準を示す潜水艦や戦闘機について、事故が多発するようでは、軍事工業力は弱体であると見られても仕方がありませんし、空中警戒管制機の事故は、中共の電子技術と民生用航空機製造(改造)・メンテナンス・運用能力が依然発展途上国並であることを示しています。」と申し上げたところですが、着実に中共の軍事技術は向上しつつあります。
 本篇では二つのニュースをとりあげたいと思います。

2 殲撃10の実戦配備

 中国人民解放軍の広州軍区は昨年12月末の31日、空軍を中心とした大規模な陸海空軍合同軍事演習を行い、殲撃10やスホーイ27などの「第4世代」の戦闘機(注1)を投入した、と香港紙「文匯報」が3日付で報じたことから、中国が独自に開発した最新鋭戦闘機の殲撃10(=Chengdu J-10=Jiang-10=殲10)が本格的に実戦配備されていることが確認されました。
 
 (注1)米国やソ連等で1970年代から1990年代にかけて実戦配備された戦闘機の総称。機動性が改めて重視された時期であり、操縦席のグラスコクピット化やフライ・バイ・ワイヤの導入など、ハイテク化が進められた(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E9%97%98%E6%A9%9F
1月19日アクセス)。

 殲撃10は、ロシア製のターボジェットエンジン1基と、同じくロシア製のアビオニックス(レーダー・航法/照準システム・電子戦装置・ミサイル警報/防衛システム)を搭載した三角翼の戦闘機であり、公式の試験飛行は1998年に行われました(
http://www.aeronautics.ru/news/news002/news095.htm
。1月19日アクセス)。

 米軍事専門紙「ディフェンス・ニュース」は最近、「殲撃10は・・・空中戦の最中に垂直方向に上昇・下降することが可能で、また空中での給油能力も有しており、さらにレーダーの探知能力も優れているため、空対地攻撃においてはF16よりも優れた戦闘機だ」と評しましたし、中共軍の機関紙「解放軍報」は先月30日、「中国西北部で殲撃10と第4世代の仮想敵機4機による空中戦闘訓練を行った結果、殲撃10が全ての仮想敵機を先に発見し撃墜することができた」と報じました。
 これは、F16を保有している韓国や台湾もうかうかしておられなくなったことを意味します。
 また、中共がハイテク装備についても、武器輸出国に転じるのもそう遠くないだろうという声すらあがっています。
 (以上、特に断っていない限り
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/01/05/20070105000059.html
(1月6日アクセス)、及び
http://www.csmonitor.com/2007/0111/p07s01-woap.html
(1月11日アクセス)による。なお、この朝鮮日報とCSモニターの記事には技術的誤りが多い。)

3 衛星攻撃能力の保有

 中共は昨年8月、米国のある衛星にレーザーを照射して話題になりましたが、今度は、米国時間の11日(中共時間の12日)、537マイル上空にあった自国の1999年打ち上げの古い気象衛星に中距離弾道弾を衝突させて破壊しました。
 中共は何も言っていませんが、米国が探知しました。
 これにより、中共は米国の偵察衛星や、ミサイル防衛のための衛星を破壊する能力を持つに至っていることが明らかになりました。ただし、中共が220,000マイル上空にある通信衛星を破壊する能力を持つに至ったかどうかは不明です。
 破壊された気象衛星は4インチより大きい800個の破片とそれより小さい30万個の破片に分解し、今後四半世紀にわたって衛星や宇宙船に危険を及ぼすと推定されています。
 ソ連(ロシア)は1968年から1982年にかけて12回ほど衛星を破壊する実験を行い、米国はレーガン政権の時の1985年と1986年に同様の実験を行っており、1985年の実験の際には実際に衛星を破壊しましたが、両国は、破片問題もあって、爾後かかる実験を中止して現在に至っています。
 そこへ中共は、三番目の国として20年ぶりに実験を行ったわけです。
 米国とカナダとオーストラリアは中共に抗議しました。英国、日本、韓国も抗議すると見られています。
 米国は、衛星をレーザーで破壊する研究を行う一方で宇宙に兵器を設置する研究も行っていると考えられており、これを脅威に感じているロシアと中共、とりわけ中共は、かねてより宇宙に係る兵器を禁止しようと画策してきたのですが、米国は宇宙での軍拡競争は起こっていないとしてこれに反対してきたという経緯があります。
 今回中共が衛星破壊に成功したことにより、米国は宇宙における軍拡競争に本格的に乗り出すか、それとも中共等との間で宇宙に係る兵器を禁止する条約締結交渉に入るか、決断を迫られることになりそうです。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/01/18/AR2007011801029_pf.html、及びhttp://www.nytimes.com/2007/01/18/world/asia/18cnd-china.html?ei=5094&en=1cccc5a239b55188&hp=&ex=1169182800&partner=homepage&pagewanted=print
(どちらも1月19日アクセス)による。)

3 コメント

 中共は、軍事技術において、まだ米国より20年近く遅れているとはいえ、じりじりと追い上げていることが分かります。
 日本も北朝鮮のことばかりではなく、軍事面でも真剣に中共と向き合うべき時期が来ています。