太田述正コラム#1656(2007.2.11)
<不気味なロシアの動向(その1)>(2007.3.14公開)

1 始めに

 ロシアの動向が不気味さを増しています。
 プーチン・ロシア大統領の昨日の演説と、あのリトヴィネンコ暗殺事件に関して分かってきたことのご紹介を通じて、その不気味さを感じとっていただければ幸いです。

2 牙をむいたプーチン

 (1)始めに
 
 プーチン(Vladimir V. Putin)ロシア大統領は10日にミュンヘンで開かれた国際会議の席上、メルケル(Angela Merkel)ドイツ首相、マッケイン(John McCain)米上院議員、ゲーツ(Robert M. Gates)米国防長官らを前にして、次のようなトンデモ演説を行いました。

 (2)プーチンの演説

 ベルリンの壁の残骸は記念品として開放と個人的自由を称える国々に持ち去られたが、「今ではロシアと皆さんの双方にとっての<欧州>大陸に対し、大陸を二つに分かつ、バーチャルではあるものの、新しい境界線を押しつけようとする企みが進行している。」
世界は今や<米国>一極となった。「一つの力の中心。一つの軍事力の中心。一つの意思決定の中心。これは、一つの主人、一つの主権者の世界だ。」
 米国は、その軍事力の行使にあたって国際法を無視している。弱小国を保護していた法的制約はもはや死に絶えてしまった。「これは非常に危険な状況だ。誰も国際法という大きな巌の後ろに隠れることができなくなり、誰ももはや安全だと感じることはできなくなった。このため軍拡競争が促進され、核兵器を持とうと思う国々が出てきた。<米国は>国際場裏において野放図な軍事力行使をしている。あらゆる機会をとらえて爆弾を落としたり射撃をしたりすることがどうして必要なのだろうか。」
 世界は冷戦時代よりむしろ危険になった。なぜなら冷戦当時は「脆弱な平和、恐ろしい平和であったけれど、それはかなり信頼性が高かったのに対し、現在は信頼性が低下してしまったからだ。」
 また、米国はロシアと交わした諸条約に反して核装備を削減していない。それに米国は、将来のイランの核ミサイルに備えると称してポーランドとチェコにミサイル防衛施設を設置しようとしているが、「ミサイル防衛がロシアを狙ったものでないというのなら、ロシアの新しいミサイルも米国向けのものではない、ということになる。」米国のミサイル防衛は国際的な軍事均衡を突き崩し、米国をして一層大胆な外交政策をとらしめることとなろう。
 更に、「NATOの拡大は<NATO>同盟の近代化とは何の関係も認められない。ロシアは「一体誰に対して拡大がなされているのか」と問いただす権利を持っている。」そもそも米国は、何故にかつてのソ連圏のブルガリアとルーマニアに米軍を配備するのか。「NATOは敵対的軍事力をロシアの国境に持ってきている。これは相互の信頼を低下させる深刻な挑発だ。」
 米国は、旧ソ連圏で実施される選挙に監視員を派遣する全欧安保機構(Organization for Security and Cooperation in Europe=CSCE)を、「一つの国の外交的利益を確保するための下卑た手段に変えてしまった。」
 冷戦が終わった直後にドイツはそれまで対峙していたロシアに対し、ドイツ国境外に軍事力を派遣することはないと確約した。しかし、<その確約に反し、>今ではバルカン諸国とアフガニスタンにドイツ部隊が駐留している。

 (3)プーチン演説への反発
 このプーチン演説に対して、この会議への出席者等から以下のような反発が出てきています。

(続く)