太田述正コラム#1657(2007.2.12)
<不気味なロシアの動向(その2)>(2007.3.16公開)

 マッケイン米上院議員は、その日の演説で、「今日のような多極化した世界においては不必要な敵対は不要だ。」と述べ、「ロシアの専制化がより鮮明になるのか、その外交政策がより西側の民主主義諸国の原則に背馳するものになるのか、そのエネルギー政策が脅迫のための道具に用いられるようになるのか」と問いかけ、「ロシアは、その国内と国外における行動が、欧州・大西洋の民主主義諸国の中核的諸価値に抵触するようであれば、西側と真の協力関係を享受することができないことを理解しなければならない。」と結びました。
 ホワイトハウスのスポークスマンは、「われわれはプーチン大統領の発言に驚き、落胆している」と語りました。
 同じ会議で翌11日、ゲーツ米国防長官は、「皆さんの多くは外交や政治のバックグランドを持っているが、私は昨日の・・・演説者のと同様、スパイ・ビジネスでのキャリアという、非常に異なったバックグランドを持っている。そして、思うに、昔のスパイはぶっきらぼうにしゃべる習慣がある。」と切り出し、「ただし、私に関しては、4年半にわたって大学の学長として、・・・先生方とおつきあいする・・・再教育キャンプに入っていた<ので再教育されていないプーチンとは違う。>」と笑わせた上で、「同じ古い冷戦の戦士として、プーチンの言動はより複雑でなかった時代への郷愁を呼び起こされた・・と言いたいところだ(almost)。・・・冷戦は一つで沢山だ。ロシアとの新たな冷戦など願い下げだ。」と語りました。
 チェコの新しい外相は、チェコが米国にミサイル防衛のためのレーダー施設建設を認めようと認めまいとロシアには何の関係もないことだと述べ、更に「われわれは、何故にNATOを拡大しなければならないかを明確にかつ説得力ある形で議論してくれたプーチン大統領に感謝すべきだ。どうやら世の中には、もうソ連は存在していないことに気づいていない人々がいるようだ。」と述べて拍手喝采を受けました。
 この会議の西側の出席者の中からは、新たな冷戦が始まるのかという声がある一方で、ソ連時代に比べて影響力が凋落したロシアでは、時々こんな形で国民の鬱屈した気持ちのガス抜きをする必要があるというだけのことだという声もあります。
 いずれにしても、西側の出席者に共通している認識は、あの演説は、いかに石油や鉱物資源による収入がプーチン大統領の権力を強化したかを示している、というものです。
 昨11日には、イワノフ(Sergei B. Ivanov)ロシア国防相も演説を行い、ロシアと米欧との関係は「成熟しているので、われわれは自分達のホンネを率直に語ってもよいのだ」と述べ、プーチン大統領の演説は決して挑発的ないし喧嘩をふっかけたものではなく、「われわれはわれわれの見解を誰にも押しつけようとなどと考えてはいない。」としつつも、ロシア政府はロシアとの協議なくして、あるいはロシアの同意なくして、いわんやロシアに押しつけるような形で、国際行動がとられることを支持することはできない、と言ってのけました。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-putin11feb11,0,3752037,print.storyhttp://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2010462,00.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/02/10/AR2007021000524_pf.html
http://www.nytimes.com/2007/02/11/world/europe/11munich.html?ei=5094&en=3c3dfce117120d6d&hp=&ex=1171256400&partner=homepage&pagewanted=print
(以上、2月11日アクセス)、及び
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6351853.stmhttp://www.nytimes.com/2007/02/11/us/11cnd-gates.html?ei=5094&en=da0bfe656854871f&hp=&ex=1171256400&partner=homepage&pagewanted=printhttp://www.ft.com/cms/s/416a7706-b9cc-11db-89c8-0000779e2340.htmlhttp://www.guardian.co.uk/russia/article/0,,2010930,00.html
(以上、2月12日アクセス)による。)

3 リトヴィネンコ暗殺事件の闇

 今年1月末、ロシアの内務省の保安要員が射撃訓練を行っている民営の射撃場で、昨年ロンドンで暗殺されたリトヴィネンコ(Alexander Litvinenko)の写真を標的に使っていたことが露見しました(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2007/02/01/2003347222
。2月2日アクセス)。

(続く)