太田述正コラム#1662(2007.2.16)
<米朝の取組水入りへ(続)>(2007.3.18公開)
1 ブッシュの心変わりについて
ヒル国務次官補と北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官が先月17日にベルリンで協議を行ったのが今回の6か国合意に向かう転換点だったわけですが、朝鮮日報は、この米朝直接対話はブッシュ大統領の直接の承認の下で成就したと報じました。
同紙はまた、このベルリン協議は、昨年12月にビクター・チャ国家安保会議(NSC)アジア担当補佐官が北京空港で、北朝鮮の関係者と偶然会い、非公式の対話を行い、その際、バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮口座凍結解除の可能性を口にしたことがきっかけとなって実現したとし、ブッシュ大統領はこの時からすでに米朝間の交渉について直接報告を受け、指示していたものと推測されると報じています。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/02/16/20070216000030.html
(2月16日アクセス)による。)
どうやら、今回の米国の対北朝鮮政策の転換は、ブッシュ、ライス、ヒルの3人を軸とする極めて限られた人々だけによってトップダウンで企画し、推進されたようです。
ボルトン前米国連大使の反発は既にご紹介しましたが、米政権内部からも叛乱の火の手が上がりました。
ネオコンの闘士であるエイブラムス(Elliott Abrams)米安全保障副補佐官(deputy national security adviser)が、上記6か国合意に仰天し、合意内容を批判するEメールを政府のアジア政策や大量破壊兵器拡散防止政策の担当者達にばらまき、それがリークされて話題になっています。
エイブラムスは、海外で民主化を推進するのが仕事ですが、彼を初めとする実務担当者がほとんど相談にあずからない形で、米政府の最高レベルで政策転換が企画・推進されたことに強い不満を抱いているようです。
エイブラムスが特に心配しているのは、合意の中の、「米国は朝鮮民主主義共和国(DPRK)がテロ国家(state-sponsor of terrorism)に指定されているのを解除するプロセスを開始するとともに、DPRKに対する敵国通商法(Trading with the Enemy Act。経済制裁の根拠法)の適用を終了させるプロセスを前進させる」というくだりです。
確かに、北朝鮮の場合、1987年の大韓航空機爆破事件以降、テロ行為に手は染めていませんが、リビアに大量破壊兵器追求政策を放棄させた際には、リビアがテロ支援を止めたことが確認されてからテロ国家指定等を解除・終了させたことを考えると、北朝鮮に対しては甘すぎる、というのです。
日本としても、拉致問題を抱えたままで、米国が対北挑戦経済制裁の解除へ動いてもらっては困るわけであり、ブッシュは安倍首相に対し、懸念には及ばないと電話をかけてきたと報じられています。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/02/14/AR2007021401695_pf.html
(2月16日アクセス)による。)
2 懲りない北朝鮮
北朝鮮の朝鮮中央通信は6か国協議が閉幕した13日、北朝鮮が核施設の稼働を「臨時中止」する見返りに、各国が重油100万トン分に当たる経済・エネルギー支援を提供することになったと報じました。
「無能力化」と「すべての核計画の完全な申告提出」まで至らない「停止、封印」の段階では5万トンしか重油は提供されないのに、北朝鮮は合意内容を早くも意図的に曲解して見せました。
(以上、
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070214AT2M1304I13022007.html
(2月14日アクセス)による。)
今回の合意は、原子炉施設の「停止、封印」、原子炉施設の「無能力化」と「すべての核計画の完全な申告提出」、そして核爆弾や核計画の完全「廃棄」、の3つの段階からなる工程表からなっています。
ライス米国務長官は、北朝鮮が第2の段階を誠実に実行するか否かが、北朝鮮が本当に核廃棄という戦略的決断をしたかを判断する基準になると発言したところですが、全く懲りない北朝鮮を見ていると、第2段階の期限である4月13日までに、北朝鮮が約束をすんなり実行するとは到底思えません。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/02/16/20070216000025.html
(2月16日アクセス)による。)
3 ただちに対北援助再開に動き始めた韓国
韓国政府は、今回の6か国協議が終わる前日の12日の時点で、密かに早くも北朝鮮に南北閣僚級会談のための実務接触を提案していました。
北朝鮮は、翌13日にさっそくこの提案を受け入れ、15日に、今月27日から3月2日までの間に平壌で会談を行うことで合意が成立しました。
この南北閣僚級会談は、北朝鮮のミサイル発射と「核実験」によって中断されていた3000億ウォン(約380億円)分に相当するコメ50万トンと肥料30万トンを提供するためのものだとされています。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/02/16/20070216000024.html。2月16日アクセス
これに加えて韓国は、北朝鮮が原子炉施設の「停止、封印」を行った時点で、どうやら単独で5万トンの重油相当の援助を北朝鮮に行う(
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070215i206.htm
。2月15日アクセス)ようであり、韓国ノムヒョン政権の対北融和政策への思い入れの深さを改めて思い知らされるとともに、金正日が安堵のため息をつきつつ、笑いをかみ殺している姿が目に見えるようです。
4 コメント
水入りとなった米朝が、それぞれが精力を回復次第、再び取組を再開するであろうことは必至です。
拉致家族の皆さんのことを思うと、米朝両国の、いつまで断続的に続くか分からない取組の長さにはうんざりしたなどとは口が裂けても言えませんね。