消印所沢通信10:自衛隊は空っぽの洞窟?(その2)
ちょいと他の論争に巻き込まれていまして,間隔があいて
しまいましたが,前回の続きをお届けします.
♪ネタはあっても時間がないけど
そのうちなんとか なーるだろーおー(追悼・植木等)
追伸:
先のBDAに関する貴兄のコラムの要約,当方周辺では
評判になりましたが,拙作サイトへのアクセス数から判断す
る限り,北韓ネタは皆さん,食傷気味のご様子で…….
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さて,前回の続き.
太田氏は『防衛庁再生宣言』におきまして,日英の
装甲兵力を比較して,次のように述べている.
以下引用———————————–
他方,装甲機動防御力を見てみると,装甲偵察車,
装甲歩兵戦闘車,装甲車の合計が日本は940両であるのに
対し,英国は2907両と3倍も保有している.
結局,日本の陸上兵力は,攻撃力はそこそこあるが,
兵員の損耗を防止する努力をハナから怠っていることになる.
「見せ金」たる自衛隊の面目躍如というところか.
————————————-以上引用
これに対し,反論者は以下のように批判する.
以下引用——————————-
戦車の保有数は,英国の二倍(陸自約1000 英国約550)は,まあ
良いとして,英国の装甲車の保有数が,日本より多いのは当たり前.
イギリス軍の防衛計画は,フォークランドのような大きな
一つの紛争に対処,あるいは,コソボなどの中規模な紛争二つ
を同時に対処することを目的としている.
簡単に言うと,外征型軍隊ということ.
したがって,仮に主力戦車の数を削ることになっても,より
展開しやすく,紛争地域の治安維持に使いやすい装甲車をそろえる
のは当然だろう.
加えて,90年代始めまで北アイルランド紛争を抱えていたので,
装甲車の数が 必要だったことも考えると良い.
しかし,陸上自衛隊は,基本的に本土決戦のための部隊であり,
英国とは質が違う. (最近は対テロにも乗り出してるけど)
ここでは,展開性や治安維持に使える装甲車よりも,より重武装・
重防御で敵を正面から打ち破る力を持つ主力戦車の方が重要となる.
それで主力戦車に比重が置かれる.
これをして,陸自が劣っているというのは,間違いだろう.
(まず,外征型の英軍と本土決戦型の陸自と比べるのが,間違いの
もとだろう)
(それから英の主用小銃は,欠陥銃ということも,付け加えて
おかねばなるまい)
by 極東の名無し三等兵
—————————————–以上引用
さて,再反論やいかに?
(続く)
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<太田>
いやあ。顔が赤くなりました。
もう20年以上前になりますが、北東アジアの安全保障問題研究者のドリフテ
(Reinhard Drifte。ドイツ出身。http://www.staff.ncl.ac.uk/r.f.w.drifte/)に「警
察予備隊(陸上自衛隊)は、朝鮮戦争に駆り出された日本占領米軍の代わりに日本国内
の治安を維持するためにつくられた」と言って、それでお前は防衛官僚か、と言わんば
かりの顔をされた時のことを思い出したからです。
実際これはとんだ勉強不足であり、陸上自衛隊は、治安目的ではなく軍事目的でつく
られた上、朝鮮戦争に投入される後方控置の予備兵力として、つまりは外征軍として米
国によってつくられたからです。
だからこそ、陸上自衛隊は最初から師団編成を基幹としてつくられたのです。(予備
隊時代は管区隊と呼ばれた。戦車を特車と呼んだ類の話だ。)
これは、同じく外征軍である英国陸軍以上に陸上自衛隊が外征軍的であることを物語
っています。
というのは、英国陸軍は、戦後ずっと、外地(西ドイツ)に駐留する陸軍をだけを師
団編成にして、後方控置の予備兵力たる英本国の陸軍は師団編成をとってこなかったか
らです。
ただし、陸上自衛隊の場合、外征軍とは言っても、それは正面兵力だけの話であり、
後方兵力は極めて弱体であり、実際問題として外征などできないまま、現在に至ってい
るからです。
どうしてそんなことになったかですが、それは吉田茂が、米国がつくれと要求してき
た師団数を飲む代わりに、後方兵力を中心に兵力量を半分に削って見かけだけの陸軍、
著しくいびつな陸軍をつくったからです。
吉田としては、経費節約のためでもありましたが、間違っても陸上自衛隊が朝鮮戦争
に投入されないようにするためでもありました。私の力説するところの、吉田による米
国への意趣返しです。日本には憲法第9条があるというのも錦の御旗になりました。
こんなハチャメチャな陸上自衛隊がどうしてそのまま維持されてきたのでしょうか?
言うまでもなく、(英国本土もそうなのですが、)核の脅威とテロの脅威を除き、日
本には周辺国の地上軍の侵攻を受ける脅威などなかったからです。
あのソ連の脅威華やかりし頃の陸上自衛隊の机上演習は噴飯ものでした。
米軍や航空自衛隊や海上自衛隊による攻撃は最小限度にとどめて、ソ連軍を無理やり
北海道北部に着上陸させ、これをわが陸上自衛隊が迎え撃つのわけですが、ハチャメチ
ャではあってもその陸上自衛隊に着上陸したソ連軍が苦戦するのですよ。
そこで、(戦前の帝国海軍の対米海軍の机上演習とは逆に、)ソ連軍が壊滅しないよ
うに手を加えながら演習を継続したものです。
つまり、陸上自衛隊は、まさしく軍事力としては無意味な存在だったのであり、日米
安保があるおかげで日本の代わりに朝鮮戦争等で戦ってくれるところの米国、特に米国
議会、更に端的に言えば、米国世論に、日本がさも防衛努力をしているかのように思わ
せるための見せ金でしかなったということです。
いちいちコラムのナンバーを引用しませんでしたが、過去の関係太田述正コラムで勉
強してくださいね。
消印所沢通信10:自衛隊は空っぽの洞窟?(その2)
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