太田述正コラム#1716(2007.4.1)
<慰安婦問題の「理論的」考察(番外編)>
本件での一有料読者とのやりとりをご紹介します。
<一有料読者>
私はこの間のアメリカの動向を日本のマスコミを通じて眺めていると、「従軍慰安婦問題」はアメリカの訴訟産業の事業活動ではないのかという感じがしてきました。(注1・2)
(注1)「・・むしろコラム子が思うに、米国の弁護士連中が、慰安婦をネタに日本政府を相手どった訴訟を起こせるような環境を整えようとしているのだと思う。・・」「国際派時事コラム「商社マンに技あり!」(平成19年3月7日発行)(
http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/)
(注2)「慰安婦問題と水面下でつながる一連の120兆円もの対日企業訴訟を忘れるな」 (
http://blog.yoshiko-sakurai.jp/2007/03/120.html )
訴訟産業の事業活動であれば道義は関係なく金が目的ですから今後も色々な形で訴訟が起こされると私は考えます。アメリカの訴訟産業の悪辣な意図を 認識しているトルコ政府の対応を日本も見習うべきだと私も思います。アメリカ国内の訴訟産業の歴史と現在の動向分析を期待します。
<太田>
1 泉・櫻井両名の指摘
ご教示いただいたように、
「商社マン」泉幸男は、「No Comfort(「慰安なし」)<と題した>・・3月6日の『ニューヨーク・タイムズ』紙の社説は・・≪いまや日本の政治家たちに、それもまずミスター安倍を筆頭に、認識してもらいたいことがある。恥辱に満ちた過去を克服するための第一歩は、それをはっきり認めることなのだと。≫<と記しているが、>・・≪1993年の声明(泉注:「河野談話」のこと)は、うやむやにするのではなく、もっと詳しく踏み込むべきだ。日本の国会は率直な謝罪を行い、存命中の犠牲者たち(泉注:元慰安婦のこと)に対して公的資金による惜しみない補償金を供するべきである。≫・・<と>バカ正直なこと<に>・・最終段落にホンネが集約されています。」と指摘し、「米国国籍もない韓国人やフィリピン人の元慰安婦が、なぜ米国で訴訟を起こせるのか? と疑問を持たれる向きもあると思いますが、 これが、できちゃうんですねぇ。・・勝訴しても、日本にある資産の差押えはできませんが、米国にある資産の差押えは、やればできる(かも)。・・ところが「まずい」ことに、日本政府から補償金をとりたてられるような犯罪的行為の証拠がないことなんですね。だって、日本軍による「慰安婦にする女性の拉致」なんて事象は1件も見つかっていないわけですから。・・日本政府に対して、いま新たな訴訟を起こそうとするなら、河野洋平談話以上の新たな謝罪を日本政府から言明してもらう必要がある。それさえあれば、「お聞きなさい。日本政府がようやく謝罪しました。これはサンフランシスコ平和条約では手つかずの問題でした。だからこそ、わざわざ日本政府が今になって正式に謝罪したのですよ。ですから、補償金の問題も一から議論する必要があるのです」 と論理展開ができる。だから、弁護士連中の都合としては、どうしても新しい形の、一歩踏み込んだ新たな謝罪を日本政府から引き出すことが欠かせないわけです。」と述べておられます。
また、評論家の櫻井よし子さんは、「日本政府は、慰安婦問題についての米国議会の非難に関連して、1999年に、今回と同じくマイク・ホンダ議員らによって提案された対日企業戦時賠償請求訴訟の一件を想起すべきだ。これは、半世紀以上前の第二次世界大戦で日本企業が“不当に安い賃金や劣悪な就労状況”で働かせた人々に賠償すべきだというもので、賠償の主体は、現在米国で活動中の日本企業であるという内容だ。訴訟は2010年まで起こすことが出来るとされ、三井物産、三菱商事、川崎重工業などが訴えられた。賠償請求額は1兆ドル、なんと120兆円に上った。ブッシュ政権の登場でこれらの訴訟は無効とされたが、今回の慰安婦関連の非難は水面下で、間違いなくあの一連の対日企業訴訟とつながっている。」(櫻井、前掲)と言っておられます。
2 私のとりあえずのコメント
もともと、私が、河野談話での謝罪は(謝罪すべき実態があったかどうかを論ずるまでもなく、)謝罪は法的賠償責任につながることから、行うべきではなかったと考えていることはご承知のことと思います(コラム#1674)。
それはともかく、私は、強制連行の事実を認める形での新たな謝罪を安部首相が行うはずはないと信じているので、慰安婦問題で日本政府が米国で訴えられることはないし、万が一訴えられたとしても、却下か棄却されることは、ほぼ間違いないと考えています。
そもそも、「昭和26年のサンフランシスコ平和条約で<先の大戦における連合国の対日請求権は>解決済」(泉、前掲)であるという難問をクリアできたとしても、支那人等の強制労働(徴用)問題では、訴える相手が日本政府のほかに日本企業があったのに対し、慰安婦問題では相手が日本政府だけであり、ここは詳しい方に教えていただきたいが、米国内で日本政府を訴えることも、勝訴することも、勝訴判決を執行することも、いずれも困難なのではないでしょうか。
それにしても、この「訴訟産業事業活動説」は面白いですね。
この説で、カナダでの慰安婦問題糾弾の動きも説明できるかどうか、この点も検討課題だと思います。
なお、私の提起した、「フェミニスト・キリスト教原理主義者野合説」と「訴訟産業事業活動説」とは両立可能ですが、前者についての、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。
とにかく慰安婦問題については、小林よしのり著「戦争論2」の「総括・従軍慰安婦」を読んでみてほしい。
あらゆる関連本の中で一番良い。
この問題の全容も把握できる。
すでにあなたの、同趣旨の投稿は、太田掲示板上に転載されています。(同掲示板投稿#182)
このブログで、その左上でお知らせしているように、できるだけ投稿は、太田掲示板にお願いします。
なお、ご指摘の小林本(のインターネット版)は、官憲による強制的連行の有無という論点をめぐる資料としては極めて有益ですが、それ以外の論点にはほとんど触れていない、という限界があるように思います。
今回は、諸般の事情に鑑み、ほんのちょっと本掲示板でコメントさせていただきました。