太田述正コラム#1709(2007.3.28)
<慰安婦問題の「理論的」考察(その10)>(2007.5.1公開)
<その後の米英での動き(続き)>
その後、ロサンゼルスタイムスも、安部首相が、官憲による強制連行を否定しつつも、謝罪したと報じました(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-abe27mar27,1,4539575,print.story?coll=la-headlines-world
。3月28日アクセス)
他方、日本の識者である加瀬英明がニューズウィークのアジア(電子)版に日本政府のスタンスを擁護する論陣を張ったと朝鮮日報が報じました(
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200703/200703280028.htm
。3月28日アクセス)。
ただ、加瀬氏が、南京事件がでっちあげであると同じ論考の中で書いているらしいのは残念なことです。少なくとも英語圏の読者はそれだけで加瀬氏の書いていることを疑いの目で見ることでしょう。
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米国は先の大戦をビクトリア朝的倫理感を墨守したまま迎えました。
だからこそ米国は、日本の占領にあたって公娼制を廃止させ、更には売春防止法の制定寸前まで持っていった(コラム#1698)わけです。
ところがその米国で、まず、1950年代から、種々の新しい避妊法、とりわけピルの発明が女性を望まぬ妊娠の恐怖から解放し、その一方でマスターとジョンソンが性交渉の研究・奨励を行い、やがて離婚法の改正により愛なき結婚の解消が容易となり、さらに1970年代初頭からはハードコア雑誌・映画が解禁になります。
この結果、米国では男性と女性の関係が短時日で変わってしまいます。いわゆる米性革命(sexual revolution)です(コラム#1666)。
こうして、(性革命地域と性革命オフリミット地域とを截然と分けるゾーニングこそなされていたとはいえ、)ビクトリア朝的倫理感とは無縁であり続けた日本人ですら目をむくようなハードコア雑誌・映画等が、米国で溢れかえるようになったのです(注14)。
(注14)70年代後半から80年代前半にかけて、米国に出張した防衛庁関係者のおみやげの定番はトランクの奥に隠して密かに持ち込んだハードコア雑誌だった。また、1981年の日米次官級安全保障会議(日本からは外務審議官と防衛事務次官以下が出席)がハワイのホノルルで行われた時のこと、会議が終わった夜、防衛庁代表団は、次官以下がうちそろってハードコア映画を見に行ったものだ。ただし、原徹次官(大蔵省出身)は、お疲れの様子で、映画が始まってすぐ眠りに落ちた。当時の日本も米性革命の熱気に煽られていた。
それは、同時にフェミニズムが猖獗を極めた時代でもありました。
(以下、、
http://www-personal.umich.edu/~sdarwall/355l2796.htm、
http://www.mediacoalition.org/reports/mackinnon.html、
http://en.wikipedia.org/wiki/Catharine_MacKinnon
(いずれも3月20日アクセス)による。)
そしてフェミニズムは、両性間の関係の抜本的変革に敵対的な勢力に手を貸すことになるとして、あらゆる検閲に反対しました。
つまり、フェミニズムは、ポルノ解禁を含めた戦後の米性革命を是としたのです。
このポルノ解禁を是とする考えは、1970年にニクソン米大統領に対し、ジョンソン米大統領が1968年に設立した猥褻とポルノに関する審議会(Commission on Obscenity and Pornography)が、ポルノと非行や犯罪との間に因果関係なし、という結論を答申した(コラム#1667)時点で完全に市民権を得た感がありました。
ところがその米国で、1980年代に入って、ポルノは人権侵害であるとして、性革命に真っ向から異議申し立てを突きつけたのがマッキノンなのです。
マッキノンは、米国の女性の44%は生涯の間に一回以上強姦され、85%がセクハラを受け、25%から33%がパートナーから殴打され、38%の未成年が性的いたずらを受けるとし、それは、ポルノが、女性に対する強制的客体化、屈辱感の付与、暴力を表現し、認め、助長し、強姦、殴打、セクハラ、売春、子供への性的虐待をもたらした、すなわち男性の女性支配、女性の男性への服従を性を通じてもたらした、結果であると指摘します。
その上でマッキノンは、女性蔑視のポルノ(Misogynist Pornography)は禁止されるべきだとします。
女性蔑視のポルノとは、女性が、下記のうち一つ以上があてはまる形で登場する情報媒体を指しています。
痛みや屈辱を好む性的対象物
強姦されることに性的快楽を覚える性的対象物
縛られたり切られたり傷つけられたりなどされる性的対象物
蔑み、傷害、屈辱、拷問といったシナリオの中で、汚くまたは劣等で出血し、もしくは傷つけらる姿が、性的状況の中で描写される
支配、征服、暴力、搾取、所有、または使用のための性的対象物、もしくは隷属や露出(submission of display)の姿勢や態度を通じた性的対象物
(続く)
慰安婦問題の「理論的」考察(その10)
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