太田述正コラム#1733(2007.4.14)
<暮れゆく覇権国の醜聞(続)>(2007.5.14公開)
1 始めに
その後、英ガーディアンが、ウォルフォヴィッツの辞職を求める論説を掲載した一方で、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)がウォルフォヴィッツ擁護の論陣を張り、事態は、明確に現覇権国と前覇権国の対立の様相を呈してきました(注1)。
(注1)ホワイトハウス報道官は、念の入ったことに、3日間に二度までもブッシュ大統領の総裁擁護の意向を表明した(
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2057046,00.html)。
他方、米国の有力者で、これまで、総裁辞任を求めたのは、次期大統領候補の一人である、前上院議員のエドワーズ(John Edwards)くらいしかいない(
http://www.ft.com/cms/s/91d80f9c-e9f0-11db-91c7-000b5df10621.html)。
世界の二大経済紙である英ファイナンシャルタイムス(FT。私の1988年の在英当時の購読紙)と米WSJ(私の1974~76年の在米当時の購読紙)が真っ向から対立した形になったことも面白いですね(注2)。
(注2)FTは、どんな悪いことをしても身内をかばうというのは、マフィアの論理だとまで言ってブッシュ政権を批判し、改めて総裁の辞任を求めている(
http://www.ft.com/cms/s/91d80f9c-e9f0-11db-91c7-000b5df10621.html)。
欧州諸国の政府はもちろんメディアも、まだ表向きには何も言っていませんが、心情的には英国側に与していることは間違いありません。
と言うより、英国のメディアは欧州諸国の意向を代弁している、と考えた方がよさそうです。
そのあたりのことを、前回、触れなかった話やその後分かった話を織り交ぜてご説明しましょう。
2 新旧覇権国の対立
ガーディアンの上記論説(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2057105,00.html
。4月14日アクセス(以下同じ))は、2005年にウォルフォヴィッツが世銀総裁に就任することになった時に、戦後のブレトンウッズ体制下における世銀との双子の兄弟であるIMFの専務理事を欧州人が勤め、世銀総裁は米国人が勤めるという、慣行が崩れることを懼れて表だってウォルフォヴィッツの就任に反対しなかったことがそもそも間違いだったと指摘しています。
その上で同論説は、1万人も職員のいる世銀で、愛人同士は勤務してはいけないなどという内規はばかげているけれど、規則は規則であり、この規則を守るためと称して愛人を特別扱いした総裁は責められるべきであるし、総裁が、米国防省から連れてきた、能力の疑わしい側近2人を重用していることも問題だとし、これらは、腐敗撲滅を叫ぶ総裁の方針とは相容れない、とウォルフォヴィッツを批判しています。
また、総裁が、家族計画(人口抑制計画)を推進してきたこれまでの世銀の方針を事実上転換したことも批判しています。
そして、欧州諸国の政府は一致団結してウォルフォヴィッツを辞任に追い込まなければならない、と結んでいます。
他方、WSJは、やはり論説で、世銀内の守旧派が、総裁の腐敗撲滅と世銀のアカウンタビリティー確立に向けての努力に水を差すために取るに足りない問題を取り上げて総裁を辞任に追い込もうとしているが、そもそもこれは連中が総裁をはめるために設定した罠に総裁が見事にはまったということではないか、とウォルフォヴィッツを全面的に擁護しました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/13/AR2007041300788_pf.html)。
WSJは保守的な新聞であるところ、米国のリベラルを代表するニューヨークタイムスとワシントンポストまで、客観的報道に終始することで、ウォルフォヴィッツを擁護する結果になっています。
ワシントンポストは、総裁が辞任すべきかという議論は、ブッシュ政権とその他の世界との間の争いの代理戦争であるとし、ブッシュ政権が、2003年に対イラク戦を始めて以来、ボルトン(John R. Bilton)という国連批判者を国連大使として送り込んだことや、IAEAのエルバラダイ(Mohamed ElBaradei)事務局長・・後にノーベル平和賞を受賞・・が2003年初めにサダム・フセインがイラクの核武装を再び追求しているという証拠はないと宣言した時、同事務局長を退任させようと画策したことで、ブッシュ政権は世界中を敵に回してしまった、と指摘しています。
そしてこの論説は、世銀においても、総裁は、アフリカにとりわけ力を入れ、債務免除にも努める等、貧困撲滅のために真摯に取り組んできたし、その債務国及び世銀自身に対する腐敗撲滅方針も正しかったしいかにも米国人らしい方針であるとしつつも、腐敗撲滅をやりすぎたことで貧困撲滅に悪い影響が出てきていることや、腐敗撲滅方針が米国にとって戦略的に重要なイラク・パキスタン・アフガニスタンに対しては事実上適用除外とされていること、また、そもそも米国の対テロ戦争協力国に対して手厚い資金供与を行ってきたこと、更にはウズベキスタンに対してとった措置(既述)、等に対して世銀債務国や世銀内部から強い批判が出ている、と指摘しています。
3 つけたし:総裁の愛人リザについて
リザは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスとオックスフォード大学の学位を持ち、。アラビア語・フランス語・イタリア語・トルコ語・英語を操り、米国のCenter for Strategic and International Studiesに勤務するトルコ専門家である男性を夫にしており、息子が一人います(
http://www.nytimes.com/2007/04/14/washington/14riza.html?pagewanted=print)。
ですから、ウォルフォヴィッツ自身は現在独身ですが、彼女は不倫をしていることになるわけです。
彼女が国務省に出向した時の直属の上司は、チェイニー米副大統領の娘のエリザベス・チェイニー筆頭副次官補でした。
ちなみに、ウォルフォヴィッツは、ブッシュ父大統領当時、チェイニー父国防長官に国防次官として仕えた間柄です。
まさに、米国もネポティズムの社会ですね。
その後、チェイニー娘は、自分が設立を担当したところの、主として中東において民主主義を普及させることを目指す、「未来のための財団(Foundation for the Future)」に上級顧問として出向し、リザも後を追うように国務省から更にこの財団に出向して現在に至っています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/13/AR2007041302172_pf.html)。
暮れゆく覇権国の醜聞(続)
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