太田述正コラム#1735(2007.4.16)
<暮れゆく覇権国の醜聞(続々)>(2007.5.17公開)
1 始めに
現在、世銀の理事会がリザ問題・・Rizagateと呼ばれるに至っている・・への対応について検討中ですが、ますますウォルフォヴィッツ総裁の立場は苦しくなってきました。
世銀の出資国代表たる蔵相ないし開発担当相達、それに世銀関連国際機関の長の計47名で構成される世銀開発計画委員会(development committee)が厳しい言葉で総裁を批判し、総裁に不利な二つの新事実が明らかになり、そして、総裁が開き直り的発言を行ったからです。
以下、順次ご説明しましょう。
2 開発計画委員会による批判
世銀の開発委員会は、15日、「われわれは、世銀が効果的にその任務を遂行すること、そしてその信頼性と評判、及びその職員の士気を維持すること、を可能ならしめなければならない。世銀の現状をわれわれ全員は深く憂慮している。」という声明を発表しました。
米国もこの表現に同意したことは注目されます。
各国政府関係者中、(二度にわたって総裁支持を表明したブッシュ大統領を除けば、)総裁支持を明確に表明しているのは、世銀大口出資国の中では、米国の保護国日本の尾身財務大臣一人だけです。
米国のポールソン(Henry M. Paulson Jr.)財務長官ですら依然沈黙を守っています(注1)。
(注1)リベラル派からゴンザレス司法長官の辞任を求められている一方で、保守派からはボルトン前国連大使の職を守れなかったことを責められているブッシュ大統領が、最後まで総裁をかばいきれるか疑問の声が米国内であがっており、総裁はチェイニー副大統領とは親しいけれど、国務省内のライス国務長官周辺の人々からは好かれていないし、財務省内にも総裁の世銀におけるこれまでの実績に憂慮の念を抱いている人が多い、という背景がある。
カナダの財務大臣も同様です。
(英国を含む)欧州の主要諸国(注2)は、スペインが沈黙を守っているほかは、総裁に厳しいスタンスをとっています。
(注2)欧州諸国は、このところ、貧困諸国への援助をウォルフォヴィッツの世銀ではなく、欧州の諸機関を通じて行うようになっている。仮に彼が総裁の座にとどまれば、この傾向は一層促進されるであろうと噂されている。
フランスの蔵相は、世銀は、その任務に鑑み、「ガバナンスと倫理については、当然のことながら一点非の打ちどころのないものであることが求められる」と言明し、暗に総裁の辞任を求めています。もっとも、フランスが明確に総裁辞任を口にしていないことは不思議がられています。
ドイツの開発相や英国の開発相は、総裁に辞任を促しています(注3)。
(注3)先の大戦の敗戦国としてよく対比される日独だが、敗戦以降一貫して米国の保護国の日本と、いち早く米国から独立したドイツ(西ドイツ)との違いが、ここにも鮮明に表れている。なお、英国については、早ければ夏にも首相の座をブレア首相から引き継ぐ予定のブラウン蔵相が、もっと米国に対して独自性を発揮せよと労働党内彼の支持者達から迫られている、という背景がある。
オランダも同様です。
他方、発展途上国中、アフリカ諸国だけからは総裁支持の意向が表明されています。たとえば、リベリアやザンビアの蔵相です。これは、総裁がアフリカの貧困撲滅に特に力を入れることを標榜してきたことへのゴマスリといったところです。
3 不利な二つの新事実
総裁は、14日、世銀のホームページに2005年7月の世銀倫理委員会の文書等を公開しました。
総裁としては、きちんと内部手続きを経てリザの出向が決まったことを印象付けたかったのでしょう。
しかし、公開されたところの、倫理委員会の第一の文書は、出向させるにあたって、補償措置としてリザを昇任させる方法と昇給させる方法の二つがあると記しており、第二の文書は、この二つのうち昇任させる方を推奨したものであったというのに、総裁がリザを昇任させ、かつ昇給させたことから、むしろ総裁の独断専行ぶりを改めて印象付ける結果になってしまいました。
また、総裁が米国防省から世銀に連れてきた二人の側近の給与等の処遇について、総裁が世銀の人事の責任者と調整することなく決定したことも明るみに出ました。
4 総裁の開き直り的発言
火に油を注ぐことになったのが、15日にプレスに辞任問題を問い詰められて総裁が行った、「私は世銀の任務の重要性を理解しており、私はその任務を遂行できると信じている」との開き直り的発言です。
5 コメント
かなり決定的と思われるのは、英国のファイナンシャルタイムスとガーディアンに次いで、ついに米国のニューヨークタイムスまでが、しかも、単なる論説ではなく、16日付の社説で総裁の辞任を求めたことです。
(以上、
.http://www.ft.com/cms/s/e7fea16e-eb81-11db-b290-000b5df10621.html、
http://www.ft.com/cms/s/32e2166e-eb84-11db-b290-000b5df10621.html、
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,2057929,00.html、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/14/AR2007041401564_pf.html、
http://www.nytimes.com/2007/04/16/washington/16bank.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print、
http://www.nytimes.com/2007/04/16/opinion/16mon3.html?pagewanted=print
(いずれも4月16日アクセス)による。)
暮れゆく覇権国の醜聞(続々)
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