太田述正コラム#13040(2022.10.6)
<『海軍大将米内光政覚書–太平洋戦争終結の真相』を読む(その17)>(2022.12.31公開)

 「・・・米内海相直話 二0・八・一二・・・
二、軍令部が先方の放送傍受によって、参謀本部とともに上奏したことは軽率である。・・・
 なにを基礎にして上奏したかと質問したところ、軍令部は答えができなかった。
 きょうは一時間半ばかり、総長と(大西)次長を呼んで注意した。
 〔<実松>注〕8月12日午前零時45分ごろ、日本側は連合国側回答(国体問題についての了解付きでポツダム宣言受諾の8月10日電に対する)に関する米国放送を傍受した。
 陸海軍統帥部は、この放送を検討をした結果、即時受諾反対のこととし、梅津参謀総長と豊田軍令部総長は、はやくも12日午前8月20分に列立上奏をおこなった。)・・・
 高木<は、>・・・「もし<軍令部総長と次長が、上奏までしておいて、その上奏内容に>自信がないという口吻であれば、大臣は温情主義にでられないで、総長と次長を更迭され、小沢(治三郎、連合艦隊司令長官)を<新軍令部総長として>およびになったらよろしいと思います」と・・・所見<を述べた。>・・・
 〔<実松>注〕米内が軍令部の総長と次長に注意したとき、たまたま大臣室に居合わせた保科善四郎(軍務局長)は当時のもようを『終戦への決断』に書いている。・・・
 さすがの剛腹な大西も、ポロポロと涙を流し、首をうなだれ<、米内海相に>・・・お詫びを言った。・・・
 豊田大将も、硬直したように不動の姿勢であった<ところ、>・・・一言も答えなかった<が、>誠に済みませんと言いたげな様子に私には見えた。・・・

⇒ここだけは、米内を評価します。(太田)

五、・・・私は、言葉は不適当と思うが、原子爆弾の投下とソ連の(対日)参戦は、ある意味では天祐であると思う。
 国内情勢によって戦争をやめるということを、出さなくてすむからである。・・・
 
⇒ソ連の参戦を予期できなかった自分の不明への反省の弁が全くないばかりではなく、国内情勢云々という憶測の戯言を繰り返すのですから、米内の無責任さここに極まれり、といったところです。(太田)

 米内海軍大臣談 二0・一一・二 大臣室・・・
二、・・・12月に復員省になったら、一つの省にしてシビル(文官)を大臣にせよといったが、陸軍がグズグズいって反対したので2つになった。・・・
三、なぜ陸軍が、復員省(または局)を一つの省(または局)にすることに反対するのか、その真意がわからない。・・・

⇒こういう件でも、米内・・海軍と言い換えてもよい・・は、どうして疑問に思ったらそれを解明しようと思わないのでしょうか。
 国内の密接な関係のある別の組織のことが、こんな調子で分からないことばかりなのですから、国内動向や他国の動向に至っては、到底理解できるわけがありません。
 私が想像するに、陸軍は、対英米戦を戦う過程で、こういったことも含めたところの、海軍のひどさを徹底的に軽蔑するに至っていて、一緒に仕事をする気になど全くならなかったのではないでしょうか。(太田)

 最高戦争指導会議と終戦
 〔<実松>注〕米内光政は昭和20年11日、東京において、最高戦争指導会議と終戦について証言している。
 質問者は米海軍少将・・・<で>、列席将校は合衆国第5艦隊司令長官・海軍大将・・・、米海軍大佐・・・、米予備海軍少佐・・・<の3名>であった。
 『証言記録 太平洋戦争し・1』のなかの問答筆記はいう。・・・
問 ・・・陸軍と海軍が国策の上に及ぼしていた勢力の比較はどうですか。・・・
答 戦争末期になってからのことですか。
問 戦争中のいつの時期でも…。
答 政治的な方面ですか。
問 そうです、政治的な…。
答 政治的影響力について言えば、それは決定的に陸軍の方が強力でした。
 陸軍は、われわれには分析したり、測定したりできないある圧力を持っていました。

⇒米内/海軍は、疑問に思ってもそれを解明しようとしない以上、「分析したり、測定したりできない」のは当たり前です。(太田)

 多分同じようなことが、他の国々にもあることと思いますが…。

⇒少なくとも帝国海軍が模範とした、「海軍国」たる英国においては、そんなものはありません(典拠省略)。
 やれやれ。(太田)

問 その陸軍のわけのわからぬ力というのは、直接、海軍作戦に影響を及ぼすほどのものでしたか。
 つまり、海軍独自の作戦にまで影響するほどの…。
答 戦争も終りに近い頃のことですが、当時の戦局では、海軍が航空兵力の支配権を握るべきだと考えられていたのに結局、それを実現することができなかったことを記憶しています。」(174~179、183~184、199、213~214)

⇒新しく空軍を作るというのではなく、陸軍の航空兵力を海軍に吸収しようなどという話が纏まるわけがないでしょう。(太田)

(続く)