太田述正コラム#1799(2007.6.8)
<英サウディ不祥事(その1)>(2007.7.26公開)
1 始めに
 BBCとガーディアンが、サウディアラビア(サウディ)がらみの英国政府の不祥事を追及するキャンペーンを張っています。
 日本のメディアの電子版では簡単な報道しかなされていないので、少し詳しくご紹介しましょう。
2 不祥事の概要
 その不祥事とは、サウディの王子の一人であるバンダル王子(Prince Bandar bin Sultan)に対し、英国最大の軍需企業で英国政府丸抱えのBAEから、英国政府公認の下で賄賂が渡っていた、というものです。
 バンダルは、1962年以来サウディの国防相を務めていて現在皇太子(つまりは次の国王)であるところのサルタン王子(Prince Sultan)の息子であり、1995年まで22年間にわたって駐米大使を務めた人物であってブッシュ親子の友人であり、現在はサウディの国家安全保障会議の事務局長を務めています。
 さて、ガーディアンは2003年に、BAEが6,000万英ポンドの潤滑油(slush)基金を持っていて、武器を売り込むためにサウディのお歴々に贈答品や売春婦を提供しているというスクープを行ったことがあります。その時は、最大のターゲットはサウディの武器調達相のナセル王子(Prince Turki bin Nasser)であるというもっぱらの噂でした。
 
 今回の不祥事は、1985年にサッチャー首相の時に120機の戦闘機等の武器を20年間にわたってサウディに売る話がまとまったことに始まります。いわゆるアル・ヤママ取引(Al Yamamah(鳩) deal)です。サウディはその代金を石油で支払うことになりました。
 ただし、その具体的な取引内容は、すべて秘扱いとされました。
 その時、父親の国防相との間に立ってフィクサー役を努めたのがバンダルだったのです。
 BBCやガーディアンの取材によれば、BAEは、英国防省の了解の下で、バンダルのワシントンでの複数の銀行口座に準公式マーケティング・サービス経費名目で、少なくとも10年間にわたって、少なくとも1億2,000万ポンド(現在の交換レートでは2億4,000万米ドル)を振り込んだというのです。
 しかも、この振り込みは、2002年に、外国の公務員への「手数料(commission)」の支払いが英国で禁止されてからも続けられた可能性が大なのです。
 これらの銀行口座のいくつかは、バンダル個人が所有するエアバス機の経費をまかなうものであることが判明しています。
 もっとも、バンダルはサウディ政府の銀行口座のように見受けられる口座から、自分が個人的に使う経費を引き出している、とも指摘されています。
 どうやら、サウディにおいては、政府の公的口座と王族達の個人口座とが区別されていないようなのです。
 英国政府は、このような「手数料」がバンダルに支払われてきたことを一貫して否定してきました。
 今回のBBCとガーディアンの報道を受けて、バンダルは弁護士を通じて7日に声明を発表し、ワシントンの銀行の彼の口座はサウディ国防省の口座であって、これらの口座に振り込まれたカネは、サウディの財務省によって監査・監督されており、秘密の手数料でもなければ賄賂でもない、と弁明しました。
 もっとも、彼の叔父にあたるサウディのアブドラ国王(King Abdullah)は、必ずしもバンダル擁護に動いてはいないようです。
 歴代の英国防相達の何名かは、保守党と労働党とを問わず、この種の武器取引に賄賂は必要不可欠だと証言しています。そもそも、英国防省には、40年前からこういった賄賂を所管している部局まであるのだそうです。
 ヤママ取引以前の(1967年以来の)BAEとサウディとの三つの取引でも、サウディの主だった王族達に取引総額の最大15%の賄賂が支払われたというのです。
(続く)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<太田>
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