太田述正コラム#1843(2007.6.29)
<暗雲漂うパキスタン>(2007.8.8公開)
1 始めに
パキスタンで、反ムシャラフ大統領ひいては反軍のムードが高まっており、政変が近付いているのではないか、という観測がなされるようになってきました。
今回は、この暗雲漂うパキスタンをとりあげます。
2 暗雲漂うパキスタン
(1)軍部に対する反発の高まり
コラム#1815で、ムシャラフ大統領になってから、民間支配という意味での軍部の力が一層大きくなっていると申し上げたところですが、それに対するパキスタン国民の反発が高まっています。
きっかけは、3月9日にムシャラフが最高裁長官を職務停止にし、それに対しこの長官が抵抗したことでした。
それが今や、軍部の影響力の民間からの払拭を叫ぶ運動に発展してきたのです。
軍部、より端的言えば指で数えられる数の将軍のお歴々、がパキスタンの主なのか、それとも1億6,000万人の国民がパキスタンの主なのか、が問われているのです。
思い起こせば、パキスタンの独立以来の60年の歴史の半分以上は軍部による統治でした。
しかも、非軍人政権の時も、軍部のにらみはきいていました。
ムシャラフ以前の非軍人の歴代の三人の指導者のうち、一人は軍部に絞首刑にされましたし、残りの二人は外国に亡命を余儀なくされています。
いまだに陸軍参謀長を兼務しているムシャラフ大統領の統治は、これまでの軍部による統治とはひと味違っており、1999年に無血クーデターで政権を握って以来、戒厳令を布告するでなく、制服も愛用しているものの、背広も民族服も好んで着用していますし、仰々しい軍事パレードはやらないし、兵士の姿も街角で殆ど見られません。
パキスタン国民の軍部に対する反発が高まっているのは、一つには、パキスタンにとって仇敵であったインドとの緊張緩和が進展しており、これまでの軍部の最大の役割がなくなりつつある一方で、軍部の米国との関係の緊密さが反米ムードの強いパキスタン国民の不興を買っていることです。
しかし、何と言っても国民の反発の最大の原因は、コラム#1815で述べた、軍部の民間支配の一層の進展であり、インテリは、これが民間活力の減殺につながっているとして反発していますし、大衆は、これが所得格差や物価の上昇をもたらしているとして反発しているのです。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/06/26/AR2007062601826_pf.html
(6月28日アクセス)による。)
(2)浮き上がりつつあるムシャラフ
公然と囁かれ始めているのは、軍部が、ムシャラフを切ることで、軍部に対する反発をかわそうとするのではないか、という可能性です。
そもそも、ムシャラフの「先輩」軍人達の末路は、ムシャラフにとって不吉なものです。
1958年から1969年まで統治したアユブ・カーン(Mohammad Ayub Khan)将軍は孤立し、不人気となり病気になり、暴動が起こってヤヒア・カーン(Yahya Khan)将軍が代わって統治することになります。
ヤヒア・カーンは民政への復帰を唱え、パキスタン史上最も公正な選挙を行い、大統領に就任しますが、1971年に印パ戦争を経てバングラデシュが独立すると、軍部によって政権の座を逐われます。
その後、しばらくして今度は1977年にジアウル・ハク(Mohammad Zia ul-Haq)将軍が政権を奪取しますが、1988年に飛行機の墜落事故で命を落とします。
事故の原因は不明であり、爆弾が仕掛けられていたという説や、果物籠に毒ガスが仕掛けられていたという説まであります。
そのムシャラフは、陸軍参謀長も大統領も辞めようとする気配がありません。
そこで、パキスタン軍部の中に、ムシャラフに引導を渡して民政復帰を実現すべきだとする気運が高まりつつあります。
軍部がぐずぐずしていると、暴動がパキスタン各地で起こる可能性があります。
いずれにせよ、悩ましいのは、軍部がムシャラフを切るだけで国民が矛を収める保証がないことです。
(以上、
、http://www.nytimes.com/2007/06/28/world/asia/28pakistan.html?ref=world&pagewanted=print
(6月28日アクセス)による。)
3 感想
私は、コラム#10で、ムシャラフを高く評価しました。
少なくとも、彼が腐敗しているという話はほとんどありません。
しかし、権力の座に長くいると人間は誰でも、国民の声が聞こえなくなり、退くべき時も判断できなくなるのでしょう。
かつての宗主国英国のブラウン新首相あたりが、ムシャラフの説得に乗り出してくれるといいのですが・・。
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<太田>(2007.8.8)
2件会費が納入されていたことに気付かなかったと前回申し上げましたが、その片方は、既に会費納入済みの方が別の銀行口座に5,000円更に納入されたものであることが判明しました。よってこの5,000円はカンパ扱いとさせていただきます。
これに伴い、太田述正コラムの有料読者は100名、名誉有料読者が4名である、と再度訂正させていただきます。
ちなみに、まぐまぐでの読者が現在1153名なので、講読者数の総計は1257名になります。
他方、カンパは1名増えて44名、総額も5,000円増えて31万円ということになります。
暗雲漂うパキスタン
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