太田述正コラム#2017(2007.8.23)
<退行する米国(その1)>
(本篇は即時公開します。)
1 始めに
8月22日、ブッシュがとんでもない演説をやらかしました。
その抜粋をまずはお読み下さい。
2 ブッシュ演説の抜粋
・・私が今言った敵とはアルカーイダのことではないし、攻撃とは9.11のことではない。また、帝国とはオサマ・ビンラディンが夢見る過激なカリフのことではない。それは1940年代の日本帝国の軍部(war machine)のことであり、真珠湾奇襲のことであり、帝国を東アジア全体に押しつけようとした試みのことだ。
最終的に米国が第二次世界大戦で勝利し、その後米国はアジアで更に二つの陸上戦争を戦った。・・<誰が>日本が最強かつ不動の同盟国へと変身することを、そして韓国が朝鮮戦争の後復興して世界で最も強力な経済の一つを持つ国家になることを予想できただろうか。 ・・
われわれが極東で戦った諸戦争と今日われわれが戦っている対テロ戦争との間には違いが多々ある。しかし、一つの重要な類似点は、核心にあるのがイデオロギー闘争だという点だ。日本の軍部や朝鮮の共産主義者達は人間世界に正しい秩序をもたらすという容赦なきビジョンに突き動かされていた。
彼らが米国人達を殺したのは、彼らがイデオロギーを他の人々に押しつけようとしたところ、その行く手にわれわれが立ちふさがったからだ。・・これら、過去における敵と同じく、イラクとアフガニスタン、そして他の場所でわれわれに戦争をしかけているテロリスト達は、自由・寛容・異論の圧殺を鋭意目指すところのその政治的ビジョンを普及させようとしているのだ。・・現在のイデオロギー闘争はまだ始まったばかりだが、われわれは過去のそれがどう終わったのかを知っている。・・日本をしてその敗北を民主主義へと転化することを助けた米国を導いた理想と国益と同じものがわれわれをアフガニスタンとイラクに引き続き関与をさせている。
<また、>韓国人がその全体主義的な隣国に併合されることを拒絶する防衛戦略が、中東を含む世界中の発展途上国のモデルとなったアジアの虎を育て上げることを助けた。
米国のアジアにおける犠牲と頑張りが、米国を攻撃することなく米国と平和共存することを欲する人々の住むアジアをより自由でより繁栄し、そしてより安定した大陸にするという結果をもたらした。
第二次世界大戦が始まった時点では極東には民主主義国家が、オーストラリアとニュージーランドの二つしかなかった。しかし、今日ではアジアの大部分の国は自由であり、その様々な民主主義は地域の多様性を反映している。
日本が降伏した後、多くの人は日本が民主主義へと変身することを助けるなどナイーブな発想だと思ったものだ。当時も、そして今も、自由とは無縁である人々があるということを言う人がいる。
日本の文化は民主主義と生来的に相容れないと主張する者もいた。元米駐日大使のジョセフ・グルー(Joseph Grew)は、ハリー・トルーマン大統領の下で国務次官をしていた時、大統領に対し、「日本では民主主義は未来永劫機能しません」と述べた。
日本人も同じだった。大勢の日本人が民主主義は機能しないと信じていたのだ。他の日本人は、米国が日本人にその理想を押しつけていると批判したものだ。例えば当時の日本の副総理は、日本の女性に選挙権を与えることは「日本の政治の進歩を遅らせる」と主張した。
マッカーサー将軍が回想録に興味深いことを記している。「私が女性への選挙権付与を支持していることには批判が多い。多くの米国人やいわゆる専門家達は、日本の女性は夫への従属という伝統に深く染まっているため、政治的に独立して行動することはできないと言っている」と。・・<しかし、>結局日本の女性には選挙権が与えられ、39人もの女性が日本で行われた最初の自由な選挙において議席を獲得した。今日では、日本の防衛相は女性だし、つい先月には日本の上院に記録的な数の女性議員が選ばれた。
ちょっと信じられないかもしれないが、中には国民的宗教である神道が余りに狂信的でありかつ天皇制に根ざしているがゆえに民主主義は日本では成功しないと言った人もいた。リチャード・ラッセル(Richard Russell)上院議員は、日本人の信仰を攻撃するとともに、天皇を裁判にかけない限り、「民主主義をつくり出すためにわれわれがとる措置のすべてが失敗することを運命づけられている」と語ったものだ。また、東京にいた国務省のある人物は、「天皇制が消滅しない限り日本は真に民主主義になることはありえない」と喝破したものだ。
<しかし、>神道が民主主義と相容れないと言ったこれらの人々は間違っており、幸いなことに、当時の米国や日本の指導者達はこのことが分かっていたので、神道を弾圧することはせず、米占領当局は日本人とともにあらゆる信仰に係る宗教的自由を確立するように努めた。また、天皇の位を廃止することはせず、米国人は日本人とともに民主主義的な政治システムにおいて天皇が占めるべき場所を見出すように努めた。
これらの努力の結果、すべての日本市民が宗教の自由を獲得し、天皇は退位することなく日本の民主主義は強化された。これは、民主主義が日本文化の良い点(cherished part)を包摂した(embraced)からこそなのだ。
そして今日、懐疑主義者達の批判にもかかわらず、日本はその宗教と文化的伝統を保持し続け、同時に世界の偉大な自由社会の一つとして屹立しているのだ。
要するに専門家だって時には間違えるということだ。
ある歴史家が興味ある発言をしている。「・・これらの大専門家達の言い分が通っていたとすれば、民主主義革命をもたらすという観念そのものが、初期の段階で嘲けられ死んでいたことだろう」と。
とにかく、・・民主主義の日本は日本の人々に平和と繁栄をもたらした。その日本の貿易と投資は地域の他の経済の離陸を助けた。<今では>日米同盟は太平洋全域の自由と安定の留め金(lynchpin)だ。
さて、総括するので耳をそばだてて聞いて欲しい。
日本は、20世紀のイデオロギー闘争における米国の敵から、21世紀のイデオロギー闘争における米国の最強の同盟国へと変身を遂げたのだ。
(以上、
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2007/08/print/20070822-3.html
(8月23日アクセス)による。)
3 ガーディアン・ブログへの私の参戦
実は、上記ブッシュ演説のメインは、ベトナム戦争と対テロ戦争の比較なのですが、
この演説に関し、ガーディアンはさっそくブログを立ち上げており(
http://commentisfree.guardian.co.uk/matthew_yglesias/2007/08/dont_know_much_about_history.html
)、日本に係る議論も行われていることから、私も参戦することにしました。
本シリーズの最後で、私の投稿に対する反応も含めて解説をしますが、私の投稿内容を、とりあえず英文のまま掲げておきます。
<ガーディアンのブログへの1047の投稿>
。
Japan was a liberal democratic monarchy with a thriving economy already before the WW2.
Even during the WW2, Japan’s parliament, based upon universal suffrage (not including women), functioned effectively, checking the administration and the military.
(Read for example, Gordon M. Berger, Parties out of Power in Japan 1931-1941, Princeton University Press 1977.)
In fact, Japan was diametrically opposite to Nazis Germany.
That is the single most decisive reason South Korea and Taiwan, which were Japanese colonies, could establish functioning liberal democracy eventually, and even achieve economic prosperity.
It is quite interesting that Philippine which was a colony of the US, could neither establish functioning democracy nor achieve economic prosperity up to now.
The WW2 was forced upon Japan because the racist US, who new nothing about East Asia, assisted the corrupt Fascist Chinese Nationalist Party and also Stalinist Chinese Comunist Party.
The consequenses were devastating.
Taiwan to be ruled harshly by the Nationalist Party dictatorship, China to be ruled by Mao who are to kill astronomical number of Chinese, North Korea to be ruled by the cruel Kim Dynasty, South Korea to be devastated by the Korean War, and so on.
(注)Philippineにsを付け忘れた。また、Mao are ではなく、Mao is でなければならない。お笑いのほどを。
<1321の追加投稿>
“Building ‘democracy’ is possible if you study the area you occupy intensively and extensively in a scientific way free from prejudice and also respecting the native culture like what Japanese had done concerning Taiwan and Korean Peninsular.
Read Lee Teng-hui (former president of Taiwan,)’s testimony, if it is available in English.
Simply holding election is not democracy.
If occupation of Phillipines by Japan lasted for 10 odd years without the duress of war, then Phillipines could have established a functioning democracy.
Study the Phillipines occupation by Japan if you have time and curiosity.
The Alliance of liberal democratic Japan with Nazis Germany was an alliance of convenience, just like the alliance of the liberal democratic US, UK with Stalinist Russia.
Liberal democracy and empire building can coexist.
The US and UK built empires, and Japan did the same thing.
Considering the fact that Japan and the Anglo-Saxons are natural allies, the afore mentioned alliance configuration in WW2 was a deviation of history and nothing but a tragedy.
The destruction of Hiroshima and Nagasaki by atom bombs were slaughtering of hundred thousands of civilians and constitute war crimes.
Besides they were unneccessary follies.
(Read Tsuyoshi Hasegawa, Racing The Enemy: Stalin, Truman, & the Surrender of Japan, Belknap/Harvard University Press, 2005)
(続く)
退行する米国(その1)
- 公開日:
呆れるくらい多数の事実歪曲がちりばめられてますね。
対テロ戦争の釈明をするにしても、なぜこのタイミングでこんな例を引いたのでしょうか?
アメリカ保守の単なる思い込みにしてもタチが悪いですが、ウラの意図があるのではないかと心配になります。