太田述正コラム#2029(2007.8.29)
<退行する米国(その7)>
6 退行する米国
(1)始めに
ところで、日本に触れていない投稿の中で、一つご紹介しておきたいものがあります。
「ブッシュが昨日<演説で>言ったことは、大学入学資格検定試験(GCSE)を受けた学生なら不合格ものだ。
ワシントンでは深刻な頭脳流出が起こっているらしい。
もしも、米国民が自分達の大統領について深く恥じ入り、こんな類の男を権力の座につけた深刻な過ちを自覚しないならば、米国がみんなが書いたり思ったりしてきたよりはるかに早く没落することは必定だ。
米国民にとってスローガンは、「二度と決して<こんな男を大統領にしてはならない>」であるべきだ。ジョージ・ブッシュは何とも救いがたい人物であることを昨日天下に示したのだ。」(注7)
(注7)http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=22283943&comm_id=2428880に転載したComment No. 773067。米国憲法を改正して大統領リコール制を導入すべきだという声が米国で出てきている(
http://www.csmonitor.com/2007/0829/p09s01-coop.htm
。8月29日アクセス)のは、ブッシュ演説以前から、ブッシュに対する嫌悪感が米国の知識人の間でどれほど高まっているかを示している。
よくぞ言ったり。私も全く同感です。
ブッシュはプロパガンダのためなら、意識的・無意識的に歴史的事実をねじまげることを厭わない政治家であることが、この演説によってはっきりしたからです。
プロパガンダのためなら、意識的・無意識的に歴史的事実をねじまげることを厭わない政治家、と言われて思い出しませんか。
ヒットラーがその典型ですよね。
そうです、ブッシュはまさにファシストであることがはっきりしたのです。
(2)ブッシュ家のテキサスは世界の脅威
実は、リンド(Michael Lind)が2004年に’Made in Texas: George W. Bush and the Southern Takeover of American Politics’という、今にして思えば予言的なブッシュ論を世に問うています。
テキサスは西部ではなく南部、しかも深南部(Deep South)に属するのであって、テキサス出身のブッシュ家は、南北戦争の時の南部連合、就中その主導者であったアングロ・ケルト(Anglo-Celtic=Scots-Irish(コラム#624))の系譜に連なるところの、ディクシークラット(Dixiecrat)・・南部で、かつて民主党支持だったが、1948年に設立された州権党(States’ Rights Party)の結党等を通じて共和党支持に転じた人々・・であり、ブッシュ父もブッシュも白人至上主義者(white supremacist)にして圧政的な反動主義者(oppressive reactionary)だというのです。
その状況証拠としてリンドは、以下の諸点を挙げています。
一、ブッシュ家の家と牧場があるテキサス州クロフォードは、かつての黒人リンチ多発地帯のただ中にある。
二、そこから18マイル離れたワコ町にテキサス・レンジャーズ球団の記念館(Hall of Fame)があるが、その会員は黒人差別主義的なならず者や殺人者であると思っているメキシコ系テキサス人(Mexican-Texan)やメキシコ人が多い。
三、南部連合の6人の将官はワコの住人だったし、ワコやその(クロフォードを含む)周辺から南軍17個中隊が編成された。
四、1870年代にテキサス州知事のコーク(Richard Coke)は厳格な黒人分離法制(Jim Crow laws)を黒人に押しつけ、後に連邦議員になってからは、黒人に選挙権を与える法案(Force Bill)に反対した。
五、1916年にはワコでおぞましい人種犯罪が起きている。
六、1920年代にはワコはKKK(Ku Klux Klan)の強力な根拠地だった。
七、1930年代には、民主党員だったハレー(J. Evetts Haley)はフランクリン・ローズベルトの政策に反対し、そのハレーは1956年に黒人分離を掲げてテキサス州知事選に出馬し、1964年にはジョンソン大統領及びその市民権法案(Civil Rights Act)に対し、本まで書いて批判した。
その上でリンドは、ディクシークラットのテキサスは、「農業・畜産・石油・鉱業といった非近代的経済に立脚した<米国で最も遅れたしかも反動的な>社会であり、勤労者は教育程度が低く健康面での保護や安定した仕事を享受していない。・・このテキサスは、米南部における上下関係が厳格な<綿花>プランテーション・システム<に由来するところの>、白人・ラティノ・黒人の多数が低賃金で働いている一方で、寡占的で無情な金持ちの白人諸家族と彼らが雇用する専門職の人々が経済・政治・とほんのちょっとの学問的・博物学的文化を支配している、という過酷なカースト制の有毒な副産物である」とし、これらのテキサス人は、宗教原理主義者であるとともに、「他の南部諸州以外には、アングロサクソン世界では全く見られないところの軍事的諸価値の虜となっている人々であり、・・すこぶるつきの地方主義者であり、ワシントンを敵とみなしている」と指摘します。
リンドは、だからこそ、ブッシュ家は、逆累進課税、有限天然資源の濫掘、ニューディール的セーフティネットに代わる宗教的慈善、といった経済・社会政策を追求してきたのだし、ブッシュ現大統領は、唯一の超大国としての米国の地位を守るため、9.11同時多発テロに藉口して、外交を蔑ろにし、条約や国際的取り決めを無視し、イラクが米国やその同盟国に直接的脅威を与えていないにもかかわらず、対イラク戦を計画し、先制攻撃的にこれを遂行したのだと言うのです(注8)。
(注8)リンドは、生まれてから大学を卒業するまでずっと東部にいたブッシュ父より、ブッシュ現大統領のディクシークラット的テキサス性はずっと筋金入りだとしている。ちなみに、ブッシュは、両親が信徒である英国教会から自分で原理主義的キリスト教に転じている。またリンドは、ブッシュの対外政策は、ネオコンの影響で一層過激化したとも指摘している。
そしてリンドは、ディクシークラットのテキサスは、こうして米国だけでなく、世界の繁栄と平和に対する脅威となっていると警告を発したのです。
市民権法案を推進したジョンソン大統領だってテキサス出身ではないか、との反論に対しては、リンドは、ジョンソンはドイツ系米国人の自由主義・反奴隷感情が横溢し、ビールと歌と勉学を好む地域で育ったのであり、黒人リンチを好んだテキサス人一般とは全く違う、と切り返しています。
ただし、白人至上主義のはずのブッシュが二人も黒人の国務長官を任命したではないか、との反論に対しては、リンドは、直接的な再反論はしていないようです。
(以上、特に断っていない限り
http://www.weeklystandard.com/Content/Public/Articles/000/000/014/024nesep.asp、http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9C06E2D9103FF931A25752C0A9659C8B63&sec=&spon=&pagewanted=print、
http://books.guardian.co.uk/guardianhayfestival2003/story/0,,963661,00.html、
http://www.newstatesman.com/200304070003
(いずれも8月28日アクセス)による。)
(続く)
退行する米国(その7)
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