太田述正コラム#2033(2007.8.31)
<退行する米国(その9)>
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<バグってハニー>
>人気とり目的のために黒人二人をあえて立て続けに起用した、という意地悪な見方もできるのかもしれません。
まあ、それでもいいのと違いますかねえ。個人的な信念はどうあれ、政治的な正しさとは何かを考えて、国益に合致して行動することができればいいのではないかと。その点において、従軍慰安婦にまつわる安倍首相の言動は拙かったですねえ。結局、元慰安婦のハルモニを嘘つき呼ばわりして恵んでやった金を 取り返すつもりもないのに、中途半端に慰安婦を否定する発言をしたのではないかと。世界は首相の個人的な信念の表明ではなく、日本国民を代表した意見だと 受け止めますからねえ。
<太田>
贔屓の引き倒しにもほどがありますよ。
イラクだけでも、米兵や英兵に何千人もの死を、そして何よりも、一説によれば、約1年前までの段階で既に65万人もの大量死をイラク人にもたらした(
http://en.wikipedia.org/wiki/Lancet_surveys_of_mortality_before_and_after_the_2003_invasion_of_Iraq
。8月31日アクセス)ところのブッシュ大統領のヒットラー的無能さ、この形容が厳しすぎるとすればサダム・フセイン的無能さ、に比べれば、安倍首相のお坊ちゃん的無能さなど可愛いものではありませんか。
<バグってハニー>
ナオミ・ウォルフのも詭弁だと思いますねえ。表面的な類似点だけに着目して米国を貶めているだけだと思います。「Homelandがナチス用語」だなんてまさしく字面が同じだというだけですよねえ。
グアンタナモに関しては連邦裁が疑義をはさみ、大統領の裁量を裏打ちする軍事権限法を上下両院が制定したわけで(太田コラム#1431)、三権は 機能しているわけです。(ただし、太田先生はこれこそまさしく米国がファシスト国家に成り下がりつつある動かぬ証拠だと解釈しているのだと思います が…。なんとなくウォルフの展開も読めるような。)
ヒトラーとブッシュの決定的な違いは何かというと、ブッシュは憲法の規定に従って確実に大統領職から退き、次の大統領が民主的な手続きを経て選ばれるということにあると思います。イラク戦争は国民にはずいぶん不人気で、イラク戦争に批判的な民主党から大統領が選出されることが確実視されているわけ です(大統領候補の組み合わせによってはヒラリー・クリントンは必ずしも安泰ではないそうですが)。
そして、ウォルフの存在自体が米国がファシスト国家であることを否定しています。一国民が「大統領はファシストだ!」なんて新聞で大っぴらに批判できるような国は断じてファシスト国家じゃないですよ。
一方、太平洋戦争末期の日本では竹槍事件というのが起きます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E6%A7%8D%E4%BA%8B%E4%BB%B6
これは東京日日新聞(現在の毎日新聞)の新名丈夫記者(37歳)が本土決戦に備える陸軍の戦術を批判した記事(
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/takeyarijiken-2.htm
)で、東條首相を批判したとも受け取れる内容であったため に、無理やり前線に送り込まれそうになったという事件です。新名記者は海軍にコネがあったために命拾いしますが、辻褄を合わせるために召集された、無関係な同世代の人々が巻き添えを食って硫黄島で犠牲になるという悲惨な結末を迎えています
戦争に反対するどころか、やんわりと戦術を批判するだけでも命懸けだったわけです。ウォルフの記事と読み比べてみてください。今の米国がファシスト国家なのであれば、ルーズベルトはもっとファシスト的ということになるでしょうし、戦時中の日本は間違いなくファシスト国家ということになるでしょうね。太田先生にとっては悩ましい選択ですね。
<太田>
Wolf→ウォルフ、でも正しいのですが、日本では通常、Wolf→狼→ウルフ、であることからウルフと表記したいと思います。
このウルフの見解等については、基本的に以下のコラムの記述にゆだねますが、一点だけ。
コラム#2030で、ウルフの見解として、「米国では、第二次世界大戦の時等においても日系人の収容所送りといった人権抑圧が行われたが、今回の脅威、及びこの脅威との戦いに関しては、時間と空間において無制限であるという点がこれまでの戦争の際の脅威とは異なっており、各種人権抑圧が恒常化してしまう可能性が高い。」を紹介しましたが、これが大事なポイントです。
先の大戦においてナチスドイツが援用した共産党とユダヤ人の脅威と同様、対テロ戦争においてブッシュ政権が援用している「全球的カリフ主義」の脅威は時間と空間において無制限であり、戦時人権抑圧が恒久化する可能性が高いのに対し、先の大戦時において日本が援用した脅威は(支那のことをさておけば、)米英(鬼畜米英!)の軍事力であり、日本が勝利するか敗北するかで早晩決着がつくことがはっきりしており、プレスの自由の制限等の戦時の人権抑圧が恒久化する可能性は低かった点が決定的に異なります。
なお、ファシスト体制の典型であるナチスドイツ体制と似ても似つかぬ先の大戦下の日本の体制について言及したコラム#2026も、改めて参照してください。
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三、ならず者集団の活用
イタリアの黒シャツ隊に倣ってつくられたナチスドイツの茶シャツ隊、すなわち突撃隊(Sturmabteilung=SA)はお咎めなしに、社会民主党や共産党の関係者を襲って暴力をふるい、ドイツ市民を恐怖に陥れた。
米国では9.11同時多発テロ以降、政府が雇う軍事会社が幅をきかすようになった。
イラクでは軍事会社がイラク人の囚人に拷問を加えたりジャーナリストを妨害したりイラク市民に発砲したりしているが、米占領当局は、これら軍事会社が訴追されないとする布令を布告している。
カトリーナ災害にみまわれたニュー・オーリンズでは、国内安全保障省が軍事会社に警備を委託したが、市民への発砲事件を引き起こしている。
また、2000年の大統領選挙の際のフロリダでの投票再集計場に似たようなシャツとズボンを着用した若い共和党支持者達が多数集まり、威嚇した。
四、国内監視システムの構築
全体主義国家には、自ら市民を監視するとともに隣組同士を互いに監視させるところの秘密警察がつきものだが、米国でも当局の手で、市民の電話を盗聴し、Eメールを読み、国際資金取引を調べ上げることが行われ始めて現在に至っている。
五、市民団体の敵視
米国では反戦団体や環境保護団体にはことごとく政府の工作員が潜入しており、活動状況を調査している。
また、国防省の対諜報野外活動庁(Counterintelligence Field Activity =Cifa) は「潜在的テロ脅威」に関する情報収集をすると称してありとあらゆる政治的活動を監視している。動物の権利を擁護する活動すら「潜在的テロ脅威」の範疇に含められている。
六、市民の恣意的勾留・放免の実施
米国の航空安全当局は、要注意人物リストを作成しており、リスト掲載者は、航空機への搭乗を拒否される場合がある。
リストには、対米批判を繰り返しているベネズエラのチャベス政権のメンバー等のほか、リベラルのエドワード・ケネディ上院議員まで載っている。
あるプリンストン大名誉教授の憲法学者は、同大学でブッシュが種々の憲法違反を犯していると指摘した講演を行ったところ、すぐリスト入りし、搭乗を拒否された。
(続く)
退行する米国(その9)
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