太田述正コラム#2039(2007.9.3)
<退行する米国(その12)>
<補足>
 前出のジャクソン英陸軍大将(昨年8月統合参謀総長で退官)の証言を追加しておく。
 米国はイラクに関し、軍事ばかりに力を入れて国家建設や外交を疎かにしている。
 ブッシュ大統領がイラク占領行政を国防省にやらせたのは問題だった。そのため、せっかく国務省がつくったあらゆる計画が無駄になってしまった。
 その国防省は、イラクのような規模の国について必要な兵力の半分もイラクに配備しなかった。
 その上、フセイン政権打倒後、イラク軍を廃止してしまったのは浅慮も甚だしい。イラク軍等の治安機関を残したまま、多国籍軍の指揮下に入れるべきだったのだ。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-bankrupt2sep02,0,3179559,print.story?coll=la-home-center
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/02/AR2007090200491_pf.html
(どちらも9月3日アクセス)による。)
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 起こったのは深刻な腐敗です。
 米国はイラク復興にこれまで300億米ドル以上を投入してきましたが、そのうち少なくとも88億米ドル以上が消えてしまっています。
 そして、恐ろしいことに、この腐敗を内部告発した米国人は、ひどい目に遭っているのです。
 内部告発者Aは、本国のFBIにタレコミをしたところ、現地米軍に3ヶ月以上牢屋に入れられ、心理的・物理的拷問を伴う尋問を受けました。
 ここまで行かなくても、内部告発者は、勤務先で解雇されたり左遷されたり同僚から口をきいてもらえなくなったりするし、また、その勤務先を訴えても、米国政府は一切助けてくれません。
 内部告発者Bは、米陸軍工兵軍団(US Army Corps of Engineers。コラム#853)の最高位の非軍人契約担当官でしたが、あるイラク復興関係米企業が広範囲の詐欺を行っていると2005年に米議会で証言したところ、すぐ左遷され、小さい部屋をあてがわれ、ほとんど仕事らしい仕事がない状況となり、誰も口をきいてくれなくなりました。
 内部告発者Cは、勤務していたことがあるイラク復興関係米企業が請求書をでっちあげて公金を懐に入れていると裁判に訴えたところ、連邦陪審がこの企業に課徴金を科す決定をくだしたところまではよかったのですが、その後連邦地区裁判所は、これがイラクの暫定統治当局(Coalition Provisional Authority=CPA。当時イラクはまだ主権を回復していなかった。コラム#190)の公金であるところ、CPAが米国政府の一部であるとの証明が内部告発者によってなされていない(?!)として、この決定を取り消しました。
 これは昨年のことでしたが、爾後、内部告発者は誰も同様の訴えを裁判所に提起しなくなってしまいました。
 ところで、内部告発者の支援をするア・クイ・タム訴訟(a qui tam lawsuit=国王のために訴える者は自分のためにもなる訴訟)なる訴訟制度が連邦法(Federal False Claims Act)で定められているのですが、これは、リンカーン大統領当時につくられた訴訟制度であって、北軍への納入業者が欠陥製品を納める事案が多発したことから、市民が誰でも連邦政府に代わって納入業者を訴えることができるようにしたものです。
 訴えがなされた場合、連邦政府は、訴訟に参加することができ、参加した場合は、勝訴すると訴えた市民は政府が被った損害の何パーセントかの3倍の損害賠償額をもらえるのです。
 ところが、そのような前例がいくらでもあるにもかかわらず、イラク復興関係米企業がらみのア・クイ・タム訴訟が2004年以来少なくとも12件提起されているというのに、連邦政府が参加したケースは全く出ていないのです。
 (以上、AP電をキャリーした
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/09/01/2003376778
(9月2日アクセス)による。)
 (3)米民主党の劣化
 ブッシュ政権が米国をファシスト国家に変貌させつつあるとしても、昨年の中間選挙では民主党が勝利し、下院でも上院でも多数を占め、また、来年の米大統領選挙では、民主党の候補が勝利する可能性が高い上、9.11同時多発テロのようなことがまた起こる可能性は低いので、ブッシュ政権が導入した人権抑圧措置が恒久化する懸念はほとんどない、という反論が聞こえてきます。
 甘い認識だと言わざるをえません。。
 というのは、その民主党もまた、御多分に洩れず劣化が甚だしいからです。
(続く)