太田述正コラム#2041(2007.9.4)
<退行する米国(その13)>
2003年に米国が対イラク戦を始めるにあたって、米議会では、民主党の議員で開戦に反対の議員もいましたが、党として、議会の宣戦決議(米憲法第1条第8節)を求める声は出ませんでした。
2001年の対アフガニスタン戦は、9.11同時多発テロという緊急事態下の自衛権の発動とみなす余地があったけれど、対イラク戦は事情を全く異にします。
共和党議員達だけではなく、民主党議員達も、軍の最高指揮官としての大統領をチェックするという基本的な憲法感覚が希薄になっているのではないか、と言わざるをえません。
(以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-cuomo3sep03,0,983313,print.story?coll=la-opinion-rightrail
(9月4日アクセス)による。)
その後、民主党は上下両院で多数を握りましたが、議会が大統領を弾劾できる(米憲法第2条第4節。第1条第2節に基づき下院が訴追し、第1条第3節に基づき上院が判決を下す)権限を行使しようとする気配は全くありません。
ニクソン大統領のウォーターゲート疑惑に対してはもとより、クリントン大統領の偽証等の疑惑に対してすら弾劾手続きが発動されたというのに、民主党は、ブッシュ大統領が、9.11同時多発テロ以降、テロリストを監視するためという名目で、外国情報監視法(Foreign Intelligence Surveillance Act=FISA)違反であるところの米国人に対する令状なしの盗聴行為を国家安全保障庁(National Security Agency=NSA)に行わせた(上述)ことに対してさえ、弾劾手続きを発動しようとするどころか、ブッシュの行った違反を追認するFISA改正を行う始末です。
(以上、
http://www.nytimes.com/2007/09/02/books/review/Gillespie-t.html?pagewanted=print
(9月2日アクセス)、及び
http://www.slate.com/id/2173106/
(9月4日アクセス)による。)
ニューヨークタイムスは、リーズン誌の編集長のギルスピー(Nick Gillespie)の、共和党は言うもがな、民主党も脳死状態(brain-dead)だとする論考を掲載したくらいです。
彼が、民主党のなげかわしさの例証としてもう一つ挙げているのは、下院議長のペロシ(Nancy Pelosi)が推進し、先般採択された農業法であり、カネに全く不自由していない農民への補助金を継続するというので、財政規律を追求する保守派だけでなくリベラルの環境保全派まで怒らせてしまったことです。
ギルスピーは、民主党は、所得格差が広がるばかりの米国、人々が一層安全に暮らせなくなってきている米国を何とかしようと真剣に考えているようには見えない、と嘆くのです。
(以上、ニューヨークタイムス上掲による。)
われわれ日本人としては、民主党が多数を制した米下院で、初めて、あの愚昧きわまる慰安婦決議が採択された(コラム#1890)ことが思い起こされます。
この分では、民主党のヒラリー・クリントンやオバマが次の大統領になったとしても、何の期待も抱けないと思った方がよさそうですね。
(4)米国のファシズムの特徴
以上、米国がファシスト国家になりつつあることを色んな角度から論じてきましたが、20世紀のファシズムと比較して、米国のファシズムの特徴はどこにあるのでしょうか。
私は、富者のファシズムであること、キリスト教原理主義に立脚した自由民主主義をイデオロギーとするファシズムであること、の2点が米国のファシズムの特徴であると考えています。
富者のファシズムである点からご説明しましょう。
(続く)
退行する米国(その13)
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