太田述正コラム#1897(2007.8.7)
<原理主義的キリスト教に飲み込まれる(?)中共>(2007.9.8公開)
1 始めに
われわれは中共の経済成長にばかり目を奪われていますが、実はその陰で、中共では原理主義キリスト教徒が爆発的に増えつつあります。
アジアタイムスのスペングラー(Spengler)匿名論考に触発されて、このことをお伝えしようと思い立ちました。
2 原理主義的キリスト教に飲み込まれる(?)中共
(1)背景
19世紀に半植民地状態になってしまった支那では、儒教等に由来する伝統的な信条が失われ、中国共産党の権力掌握以降、それに取って代わった共産主義/毛沢東主義的信条もまた、トウ小平の経済開放政策の下で権威を失ってしまいました。
その上、沿岸部を中心とする大都市圏と農村部との成長ギャップによって農村部から大都市圏への人口の大移動が生じ、いわば根無し草になった人々が多数発生していることもあり、中共の人々は拠るべき新しい信条を渇望しています。
中共当局は、儒教的信条を人々に再注入しようとしており、これに呼応して放映された、現在42歳の女性である北京師範大学の于丹(Yu Dan)教授のTV論語講座はバカ当たりし、その内容をまとめた本『于丹〈論語〉心得』も既に300~400万部売り上げてベストセラーになっています。
昔から支那にあった仏教やイスラム教やカトリシズムの信徒もそれぞれ増えつつあります。
イスラム教徒は現在2,000万人から3,000万人と言われていますが、北西部の辺境地帯に集中しており、しかもどちらかというと経済発展について行けない人々のための宗教、という趣があります。
カトリック信徒は1949年に330万人いたのが、現在では1,200万人に増えた言われていますが、この伸びは人口全体の伸びとほぼ同じにとどまっています。
(2)原理主義的キリスト教徒の爆発的増大
ところが、プロテスタントの信徒は、1949年には90万人しかおらず、カトリック信徒の3.5分の1に過ぎなかったのに、今では1億1,100万人と言われる中共のキリスト教徒(注1)の90%の1億人に達し(注2)、カトリック信徒の3.5倍になっているのです。まさに爆発的な増大です。
(注1)中共の総人口は現在13億人であるところ、うち1億人がキリスト教徒だということは、中共が既に米国、ブラジルに次ぐキリスト教大国であることを意味する。
(注2)こんなに多くなく、7,000万人だ、いや4,000万人しかいない、とする説もある。ただ、いずれの説も、爆発的に数が増えつつあることを認めている。
しかも、プロテスタントの信徒の大部分は原理主義的キリスト教徒(Evangelicals and Pentecostals)です。
中国共産党員は現在7,500万人ですから、この数がいかに多いかが分かろうというものです。
中共の原理主義的キリスト教徒の多くは、キリスト教の歴史は西漸の歴史であると考えています。
すなわち、キリスト教の中心は、エルサレムからアンチオキア(Antioch。アナトリア半島の南の付け根に位置する都市。セレウコス朝が4世紀に建設。)へ、それから欧州へ、更に米国へと西漸してきたのであって、それが今や支那に中心が移ろうとしており、中共の原理主義的キリスト教徒は、西のイスラム圏に福音を伝え、キリスト教の世界制覇を完結させる役割を担っていると考えているのです。
現在中共では、毎日キリスト教徒が1万人ずつ増えていると見られており、2050年までには中共のキリスト教徒は2億1,800万人と、その時の推計人口の16%を占めるという予測があります。
そうなれば、中共は米国に次ぐキリスト教大国になるはずです。
(以上、
http://ncrcafe.org/node/1252/print、
http://www.atimes.com/atimes/China/IH07Ad03.html
(どちらも8月7日アクセス)による。)
3 感想
このような趨勢がずっと続けば、中共が米国を経済規模で抜くのが早いか、米国を原理主義的キリスト教徒の数で抜くのが早いか、といったところです。
それどころか、今世紀末までに中共の総人口の過半が原理主義的キリスト教徒で占められる可能性すら排除できません。
既に韓国のキリスト教徒・・やはりその大部分は原理主義的キリスト教徒・・は総人口の30%に達しており、なおそのシェアを伸ばしつつあります。
それに脱北者の過半はキリスト教徒になっています。
ですから、統一朝鮮全体がキリスト教国になる可能性だってあるのです。
そうなれば、日本はロシア、統一朝鮮、中共、フィリピン、そして米国と回りをことごとくキリスト教国で囲まれてしまうかもしれません。
しかも、中共と米国がいずれも原理主義的キリスト教国となり、その両国が手を結ぶ、という悪夢が現実になっているかもしれないのです。
日本の世界史的使命の一つは、あらゆる原理主義を排し、世俗主義を広める、ということであると私が考えていることはご存じの方が多いと思います。
日本がこの世界史的使命を果たすことは、即日本の国益につながる、ということがお分かりいただけたでしょうか。
原理主義的キリスト教に飲み込まれる(?)中共
- 公開日:
あの、私も日本人ですが、キリスト教原理主義です。日本は信仰の自由が認められている国ですが、
私のように、日本生まれの日本育ちの日本在住の
キリスト教原理主義は、戦前の日本が、キリスト教信者にしていたように、踏み絵を踏まされて、レイプやむごたらしい拷問に合わされて、仏教や神道への改宗を迫られたりするんですか?
周辺国やキリスト教に対する認識は正鵠を得ていますね。反キリスト者にしてはよく現状について勉強しています。
結局、日本では自画自賛で仏教や神道は正統であり、キリスト教は異分子という敵対感情でキリスト教を見下げるという傾向は右翼や伝統主義者にほぼ共通しています。初代文部大臣暗殺、高橋是清暗殺、浅沼暗殺、本島元長崎市長暗殺は右翼のキリスト教に対する思想的・霊的敗北です。その延長で実際に太平洋戦争で敗北しました。今後も、その頑なな反キリスト姿勢を継続し、新たな国家的敗北をするであろうことは残念でなりません。反韓国、反米国、反中国、反西洋・・・・、キリスト教に敵対しどこと友人になるのでしょうか。戦時中のABCDライン包囲網以上の孤立です。
右翼は愛国を説き、亡国に導く欺瞞であることは近代日本史で明らかです。彼らより遙かにキリスト者内村鑑三、新島襄が愛国者でした。
もはや、江戸時代や戦時中のように右翼やエスノセントリストはキリスト教徒を迫害出来ません。もし、これまでと同じように暗殺や迫害をすれば思想的敗北だけでなく、キリスト教の日本における大発展に貢献することでしょう。韓国におけるキリスト教の大前進の大きな原因は期せずして戦前日本政府の同国における弾圧であったこと、中国のキリスト教の発展が無神論唯物主義共産党の迫害であったことから自画自賛の右翼・エスノセントリストは学ぶことがあるのではないでしょうか。
仏教や神道に国際的提携がないのに対しキリスト教はエスノセントリストには見えない国際的連携があります。しかも、弱小な日本の教会でさえも戦前よりは遙かに強いのです。
聖書に見る神の方法はかならず神に敵対する勢力を利用するということです。そう言う意味ではあなたも大いに聖書主義のキリスト教の善進に大いに貢献されることでしょう。祝福をイエスの御名によってお祈りします。