太田述正コラム#2034(2007.8.31)
<防衛次官人事問題とは何だったのか(その1)>(2007.9.14公開)
(本シリーズは、「フォーラム21」(2007.9.15号(134号))用原稿の下書きです。)
1 始めに
ブッシュ大統領の頭の中は、9割方イラクやアフガニスタンを中心とした安全保障問題が占めていることでしょう。
その米国の保護国である日本の安倍首相の頭の中に、安全保障問題などほとんどないはずです。
しかし、日本の米国からの自立、今はやりの言葉で言えば日本のガバナンスの回復、を考えている日本人であれば、やはり安全保障に関心を持つ必要があります。
つい最近まで世間をにぎわせた防衛次官人事問題は、安全保障的観点からゆるがせにできない問題を含んでいます。
この問題を考えるためには、日本が現在直面している課題が何であるか、就中防衛省が現在直面している課題が何であるか、をまず理解する必要があります。
2 日本が現在直面している課題
日本の戦後体制は、戦前、先の大戦をめがけて構築された総動員体制の継続であり、唯一違う点はそれが軍隊抜きの総動員体制であることです。
日本の総動員体制の特徴は、それがボトムアップと情報共有という特徴を持つ「組織」を主とし、「市場」を従とする、一種の社会主義的体制であるというところにあります。
やや誇張して申し上げますが、ボトムアップとは、トップが御神輿のように何もせずに組織構成員によってかつがれていることです。その旧軍等における病理的発現形態がいわゆる下克上です。
また情報共有とは、トップ以下、組織構成員全員が、組織の目標や資源等に関する情報、つまりは戦略情報を共有していることです。
ボトムアップだからこそ情報共有が必要になるわけです。
このような総動員体制下の組織は、組織構成員の士気を高めるというメリットはあるものの、意志決定が遅く、危機管理には向いていないというデメリットがあります。
しかも組織構成員全員が情報を共有することから、情報が漏れやすいという欠点もあり、およそ軍隊には向いていません。
先の大戦において、旧軍が、米英側の準備が整っていなかった開戦初期を別にして、いかに拙劣に戦ったか(注1)が思い起こされます。
(注1)『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫)参照。
しかし、このような組織は、軍隊以外の通常の企業であれば、いわゆる護送船団行政の下で極めて効果的に組織の目標を達成することができることから、戦前期も戦後期も、日本の企業、ひいては日本経済は高度成長することができたのです(注2)。
(注2)総動員体制について詳しくは、拙稿「「日本型経済体制」論 ――「政府介入」と「自由競争」の新しいバランス」(「日本の産業5 産業社会と日本人」(筑摩書房1980年6月)に収録)参照のこと。なお、コラム#40、42、43でその概要を紹介した。
さて、昨今のはやり言葉である日本の「改革」とは、経済のグローバル化を踏まえ、この日本の総動員体制を解除して日本を資本主義化させることです。
資本主義化させるとは、日本の総動員体制を、市場を主とし組織を従とする体制へと変革する(注3)とともに、組織を権限と情報がトップに集中するトップダウン型のものへと変革することです。
(注3)アングロサクソン型資本主義の方が欧州型資本主義より市場のウェートが大きい。日本は、市場のウェートをどの程度にするのかをまだ決しかねているように見える。
3 日本の防衛省が現在直面している課題
以上を踏まえると、日本の防衛省が直面している課題はどういうことになるのでしょうか。
(続く)
防衛次官人事問題とは何だったのか(その1)
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