太田述正コラム#2062(2007.9.14)
<海自艦艇インド洋派遣問題(その1)>
1 始めに
読売新聞が9月8、9日の両日実施した世論調査では、テロ対策特別措置法によって海上自衛隊のインド洋派遣を延長し、給油活動を継続することの是非については、「賛成」29%、「反対」39%、「どちらとも言えない」が29%であったところ、毎日新聞は12、13両日に行った世論調査では、首相が辞任理由に挙げた海上自衛隊のインド洋での給油活動の継続について、「賛成」が49%で、「反対」の42%を上回り、高村正彦防衛相は、「安倍晋三首相の辞任表明は善しあしは別として、国民が活動は国益上重要だと理解するのに役立ったのではないか」と語りました(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070910it14.htm
(9月11日アクセス)及び、
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070914k0000m010125000c.html
(9月14日アクセス))。
話題になっているこの問題をおさらいしておきましょう。
2 海自艦艇は何をやっているのか
(1)何をやっているのか
以前(太田述正コラム#22で)、インド洋派遣自衛艦は、米軍艦艇等への給油等の補給業務のほか、インド洋上では米軍などを攻撃する恐れのある不審飛行物体の発見、アルカーイダやタリバン残党の洋上逃走の監視、そしてイラクへの禁制物資搬入が疑われる船舶の発見、の三つの業務を行っており、米国は補給業務はさして評価しておらず、後の三つの業務を海自艦艇がやってくれていることこそを高く評価している、という趣旨のことを記したことがあります。
フセイン政権が打倒された現在では、給油の等補給業務という軽易な業務のほか、不審飛行物体の発見、テロリストが乗っている船舶の発見、麻薬(アフガニスタン製)や武器を積載している船舶の発見、といった重要な業務を海自艦艇がやっていると見てよいでしょう。
この私の主張については、何せ遠く離れた海の上で行われていることなので、直接的な根拠があるわけではないのですが、間接的根拠は、以前(上記コラムで)挙げたもののほか、以下の通りです。
(2)その間接的根拠
ア データ通信システム
第一の間接的根拠は、「海自から補給を受けた米艦船などは、インド洋でテロリストの移動や武器の流通・拡散の阻止活動に従事している」と防衛省自身が述べていることです(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2007082202042900.html
。8月23日アクセス)。
補給艦以外の海自艦艇・・イージズ艦等の護衛艦・・と米海軍は、共通の暗号を使用した共用性のあるデータリンクシステム(リンク)でつながれており、米海軍側は、海上自衛隊側が得た情報を自動的に吸い上げるしくみになっています(太田述正コラム#57)。この吸い上げられた情報は、米艦艇等によるテロリストの移動や武器流通・拡散を阻止する活動に活用されているはずである、ということになります。
イ 説得力に乏しいパキスタン政府の「陳情」
小池百合子防衛相(当時)がパキスタンを訪問した8月22日、ムシャラフ大統領が「自衛隊の活動(注)がパキスタンの(対テロ作戦)参加継続には不可欠だ。ぜひとも活動の延長をお願いしたい」と特措法の延長を要請し、イクバル国防相は「日本の支援がなければパキスタンが活動を続けることは難しい」と述べたと報じられています(
http://www.sankei.co.jp/seiji/seisaku/070823/ssk070823000.htm
。8月23日アクセス)が、何とも説得力に乏しい「陳情」です。
(注)海自補給艦による補給実績だが、7月26日現在で、米、英、パキスタンなど11カ国の艦船に769回、約48万キロリットルの燃料を給油。艦船搭載ヘリコプター用燃料を64回、約940キロリットル、水を113回、約5,170トンそれぞれ補給し、総経費は約220億円に上っている。
確かにパキスタン政府にとって、燃料が無償で提供されることは魅力ですし、米海軍の補給艦から燃料を給油してもらうより、日本の補給艦から燃料を給油してもらう方が国内世論の反発が少ない、というメリットはある(
http://www.asahi.com/politics/update/0911/TKY200709110520.html
。9月12日アクセス)のですが、それだけのことなら、米国や日本からこの燃料見合い分の無償資金協力を得れば足りるはずです。
これは、恐らく米国政府から、そう「陳情」するようにパキスタン政府が頼まれたに相違ないのです。
シーファー米駐日大使が8月3日、「パキスタン海軍の駆逐艦は高品質な油が必要だ。日本が参加しなければ、米国だけでなく、パキスタンが活動を続けられるかということに影響を与える」とウソまで言ったことで、米国は馬脚をあらわせてしまいました。
というのは、海自補給艦が給油しているパキスタン海軍艦艇は英国製のガスタービン艦であり、高品質な燃料が必要であることは事実らしいのですが、吉川栄治・海上幕僚長が11日、日本の燃料でなければパキスタンの艦船が動かないことはないと思うと述べた上で米国など日本以外の国による補給も基本的には可能だと語り、事実上このシーファー発言を否定したからです。
(以上、朝日上掲による。)
米国政府がこんな見え透いたウソまでつくのは、パキスタン政府による「陳情」がいかにも説得力に乏しいことに忸怩たる思いがあるためであり、米国が海自艦艇に続けて欲しい業務が、給油などではないことを示している、と私は思うのです。
これが第二の間接的根拠です。
ウ メルケル独首相の小沢民主党代表との会談
日本を訪問したメルケル独首相が、8月30日、小沢民主党代表と会談した際、日本はアフガニスタンにおける対テロ戦への支援、つまりは海自艦艇のインド洋派遣、を続けるべきだと述べた(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2007/08/31/2003376595
。9月1日アクセス)ことが、第三の間接的根拠です。
(続く)
海自艦艇インド洋派遣問題(その1)
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