太田述正コラム#2066(2007.9.16)
<海自艦艇インド洋派遣問題(その2)>
実は、メルケル首相の本当の発言は、かなりニュアンスが違うのです。
彼女は、「もし日本が国際社会でより大きな役割を果たそうと思っているのなら、より大きな責任を果たさなければならない」と言ったのです(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2007/08/31/2003376595
。9月1日アクセス)。
これは、海上自衛隊による給油等の補給活動という軽易な貢献に加えて、アフガニスタン本土における陸上自衛隊ないし航空自衛隊による貢献を求めた、と受け止めるのが自然です。
小沢氏も、そう受け止めたからこそ、わざわざ、アフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF。コラム#561、1899、1991)は国連の決議に明確に基づいているとは言えないので、日本はISAFには参加しない旨を言明した(台北タイムス上掲)(注2)に違いないのです。
(注2)ISAFが国連安保理決議1386という明確な根拠に基づいていることからすれば、これはあってはならない発言であるし、そもそも、先月行われたシェーファー米駐日大使との会談の際の、「国連安保理決議1386に基づく・・ISAF・・への参加は可能だ」との小沢氏自身の発言(コラム#1899)と矛盾する。テロ特措法の延長反対という一点を除き、小沢氏は自衛隊の対テロ戦への貢献問題で、その都度思いつき的に発言しているとしか思えない。ちなみに、ドイツはNATO率いるISAFに3,000名の兵力とトルネード戦闘機6機を提供している(台北タイムス上掲)。
ドイツも海自補給艦から給油を受けています(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E6%B4%8B%E6%B4%BE%E9%81%A3
。9月16日アクセス)が、ドイツ海軍、ひいてはメルケル首相は、海自艦艇のインド洋派遣の隠された目的を知らないのでしょう。
(4)対イラク戦参加艦艇への給油等?
海自艦艇による給油等の補給活動について、米第5艦隊(注3)のホームページで、イラク戦争の作戦名である「OIF(イラク自由作戦)」の表題のもとに、「日本政府は8662万9675ガロン 以上、7600万ドル相当以上の燃料の貢献をしてきた」などと書かれ、末尾にアフガニスタン戦争を意味する「不朽の自由作戦(OEF)」の開始以来 とただし書きはあるものの、全体としてはイラク戦争に参加する艦船に給油したとも読める書き方をしていたことが、日本で政治問題化しかけたため、米国防総省はその記述を削除するとともに、釈明を行いました(
http://www.asahi.com/politics/update/0911/TKY200709110518.html
(9月12日アクセス)、
http://www.asahi.com/politics/update/0914/TKY200709140391.html
(9月15日アクセス)、
http://alcyone.seesaa.net/article/53612856.html
(9月16日アクセス))。
(注3)実は、1980年代に私が日米共同演習に関わる仕事を当時の防衛庁でやっていた頃は、米海軍にとって第5艦隊とは、海上自衛隊の通称だった。「なるほど、だから5が欠番だったのか、それなら1、4は何だ。1は英海軍だろうが、4はどこだ?」と頭を悩ましたものだ。
しかし、こんなことが政治問題化するなんて噴飯ものです。
「(1)何をやっているのか」に記したことからもお分かりのように、インド洋でパキスタン沖に展開している米艦等の行っている業務は、アフガニスタンにもイラクにも共通する、いわば汎用性のある業務ばかりであり、特定の艦艇がアフガニスタン用に業務をしているのかイラク用に業務をしているのか、本来その艦艇に聞いたって分からないはずだからです。
それに、この海域に所在する米艦は、すべて米第5艦隊、及びその上級司令部である米中央軍の指揮を受けており、中央軍司令官または第5艦隊司令官の命があれば、ただちに業務を変更したり、パキスタン沖海域を離れて別の海域、例えばペルシャ湾、に赴かなければならないのであり、そんなことを日本が詮索できる立場ではないことを考えればなおさらです。
実際、そんなことなど日本政府自身、と言って悪ければ海上自衛隊自身、全く気にしていない証拠に、海自補給艦は、米英の補給艦にも給油をしてきたところです(ウィキペディア上掲)。米英の補給艦がいかなる国のいかなる艦艇にその燃料を給油しようと自由であることは言うまでもありません。
3 以上のほかに理解して欲しいこと
(1)アフガニスタンこそ対テロ戦争の中心
米軍は行きがかり上イラクに依然重点を志向していますが、対テロ戦争の中心は一貫してアフガニスタン及びその周辺です。
これに関連して重要なことは、今や、米国はアルカーイダ等のイスラム過激派の主たる攻撃対象ではなくなっていることです。
なぜなら、英国や西欧諸国のイスラム教徒の方が、米国のイスラム教徒に比べて人口比が大きいし、より疎外されていて、イスラム過激派へのシンパが多いため、英国や西欧諸国における方が、テロ活動等を実行しやすいからです。
このイスラム過激派の最大の拠点は、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯であり、そのアフガニスタン情勢は、タリバンの反転攻勢によって悪化しつつあります。
だからこそ、ドイツ等の西欧諸国は、イラクには派兵しなかったり、イラクからは撤兵しつつも、アフガニスタンにはむしろ兵力を増派してきている、という経緯があるのです。
(以上、
ンhttp://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,2167942,00.html、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-klein13sep13,0,1378807,print.story?coll=la-opinion-rightrail
(どちらも9月14日アクセス)による。)
ですから日本が、新たな自衛隊による貢献抜きで、海自艦艇をインド洋から引き揚げるならば、それは米国を怒らせるだけでなく、それ以上に英国や西欧諸国を怒らせることになるのです。
(2)インド洋における海自プレゼンスの意義
今年4月中旬に房総沖で米日印3か国による初めての海軍演習が実施されましたが、今月初頭には、米日豪印4か国が初めて合同でインド洋で海軍演習を行いました。(シンガポールも参加しました。)
この演習には、合わせて26隻の艦船が参加し、米国とインドは空母を派遣し、日本からは、護衛艦2隻と哨戒機2機が参加しました。
これは、民主主義国家である上記4か国による軍事提携関係(Quadrilateral Initiative)樹立を踏まえて行われたものです。
先月の安倍首相や小池防衛相(当時)、更には米太平洋軍司令官のキーティング(Timothy Keating)海軍大将の訪印や、7月のオーストラリア国防相の訪印、先月のオーストラリア海軍司令官の訪印は、すべてこの海軍演習の実施をめがけての政治的デモンストレーションであったと理解すべきなのです。
この演習の直接的名目は、シーレーンの安全確保のための参加各国の防衛面での関係強化ですが、真のねらいが、情報開示が不十分なまま軍事力を増強しつつあるところの非民主主義国家たる中共への牽制にあったことは公然の秘密です。
(以上、
http://blogs.yahoo.co.jp/huckebein0914/48615417.html、
http://news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1189224676/l50x
(どちらも9月16日アクセス)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/6968412.stm
(9月4日アクセス)、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/09/09/2003377972
(9月10日アクセス)による。)
以上から容易に想像できることは、日本が恒常的にインド洋において海自艦艇のプレゼンスを図ることが期待されていることです。
給油などというイチジクの葉は取り去って、海自艦艇が補給艦を伴いつつ、インド洋で堂々と情報収集・監視活動ができるようになるのはいつのことなのでしょうか。
(3)特措法システムそのものがナンセンス
このほか、日本及びその周辺以外における自衛隊の行動の態様や期間を法律でしばるという特措法システムそのものがナンセンスであり、そんなことをしている限りは、自衛隊はいざという時、何の役にも立たない、という根本的な問題があるのですが、この話の詳細は、別の機会に譲りましょう。
(完)
海自艦艇インド洋派遣問題(その2)
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