太田述正コラム#2068(2007.9.17)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続)>
 (本篇は、即時公開します。)
1 始めに
 イスラエル空軍が今月6日にシリア北部で行った空襲のターゲットについて、3つの説があると(コラム#2060で)申し上げたところですが、どうやら「北朝鮮がらみの核施設」説に収斂しつつあります。
2 ほぼ明らかになった事実
 表向きはセメントだけ積載だが、北朝鮮の核開発用資材も積載した1,700トンの、北朝鮮旗を掲げた貨物船(1965年就役)がレバノンのトリポリ港経由で9月3日、シリアのタルトゥス(Tartous)港に入港した。
 この核関連物資は、シリア北部のユーフラテス川畔の「農業研究センター」に運ばれたが、そこではウラン抽出が行われることになっていた。
 この数ヶ月間、北朝鮮は同じようなことを繰り返し行ってきた。
 また、北朝鮮の技術者達がシリアに派遣されているが、彼らが核開発を支援している可能性がある(米国国務省核不拡散担当のセンメル副次官補職務代行)。
 米国は約6ヶ月前に上記の予兆を探知していた。
 イスラエルの諜報機関モサドも上記の予兆を探知し、オルメルト首相に今春末報告していた。
 イスラエル政府は、シリアが核開発に成功し、核弾頭を北朝鮮製のスカッドCに搭載するようなことになることは絶対避けなければならないと決意した。
 そこで、イスラエルは6日未明、マーヴェリック空対地ミサイル(AGM-Maverick)と500ポンド爆弾を搭載した F-15とF-16戦闘機からなる8機編隊を地中海上空から超音速でシリア北部に侵入させ、シリアのレーダーと防空ミサイルを回避しつつ、「農業研究センター」を爆撃し、これを完全に破壊した。
 帰投する際、この戦闘機編隊は、トルコ領内へ、切り離した予備燃料タンクを落下させた。
 イスラエルは、この編隊を掩護するため、シリア高空に電子偵察機も侵入させた。
 また、空軍コマンド・チームを爆撃の数日前に現地に潜入させ、当日、レーザー・ビームを「農業研究センター」にあてて、戦闘機編隊を誘導させた。
 イスラエル政府は本件について完全黙秘を貫いているが、米国政府筋はかなり積極的にリークしている。
 これは、北朝鮮との核交渉の成り行きに懸念を持っている米国内の勢力に対し、米国が北朝鮮をきちんと監視していることをアピールするためだと考えられる。
 他方、北朝鮮が核開発用資材をシリアに密輸出してきたのは、シリアの懇請に答えると同時に、6か国協議の過程で破棄させられることとなる資材をあらかじめ隠匿しカネに替えるため、と考えられる。
 北朝鮮外務省が11日、イスラエルによるシリア空襲について、「非常に危険な挑発であり、シリアの主権に対する侵害で地域の平和と安保に脅威となる行為だ」と異例の激しい非難を行ったことは、北朝鮮の狼狽ぶりを示していると考えられている。
 なお、シリアは国連安保理にイスラエルの領空侵犯を訴えたが、常任理事国、非常任理事国を問わず、この訴えは完全に黙殺されている。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070917000001
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903949.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903975.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903955.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903966.html
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2170766,00.html
(いずれも9月17日アクセス)による。
3 感想
 自民党総裁選の報道ばかりで、日本の主要プレスの本日付の電子版がこの話を全く報じていないのはどういうわけでしょうか。
 日本の世論は、拉致問題を除き、北朝鮮にも安全保障にも依然として本当の意味での関心など持っていないということを日本のメディアはよく知っているということなのでしょうね。