太田述正コラム#2003(2007.8.16)
<米国の相対的衰退>(2007.9.18公開)
1 始めに
タイトルを見て、また米国経済の相対的衰退の話かと思われた方が多いかもしれません。
そうではなくて、米国民の平均寿命と平均身長の相対的低下の話をしたいのです。
2 平均寿命の相対的低下
この20年間で米国人の平均寿命は、世界で11位から42位に落ちました。
ちなみに、米国の黒人の平均寿命は73.3歳であるのに対し、白人は77.9歳であり、黒人男性だけとると69.8歳でしかありません。
しかも、米国人の健康体であり続けられる平均年齢は60歳という驚くべき低さです。
その最大の原因は、米国には医療保険に入っていない人が4,500万人もいる(コラム#1784)ことであり、保険に入っている人も、保険でカバーされない部分が多々あることです。実に、上位1%の富裕層を除き、米国人は誰でも事故に遭ったり病気に罹った結果破産するリスクを抱えているのです。
肥満も米国人の平均寿命の相対的低下をもたらしている大きな原因です。米国のほとんど三分の一の成人は肥満体であり、これは世界最悪です。(ちなみに、米国人の喫煙率は低い方です。)
このほか、米国の乳児死亡率も新生児1,000人あたり6.8人と決して少なくありません。
(以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2147617,00.html、
http://www.nytimes.com/2007/08/12/opinion/12sun1.html?pagewanted=print
(どちらも8月13日アクセス)
3 平均身長の相対的低下
米国の成人の平均身長は、かつては男女とも世界一高かったけれど欧州諸国に抜かれてしまい、今では男性は9位、女性は15位に落ちてしまいました。
男性はオランダ人男性より平均で約2インチ(1インチ = 2.54cm)も低いのです。
ただし、上述したように、米国は肥満体の人の割合が世界一高いだけに、平均体重では男女とも世界一を維持しています。
ちなみに、独立戦争の頃は、英領北米植民地の人々の平均身長は英本国の人々より約2インチ高く、1850年代頃の米国人の平均身長はオランダ人を始めとする欧州諸国の人々より約3インチ高かったのです。
そして米国は、平均身長世界一の座を第二次世界大戦後まで維持し続けるのです。
米国の富と力、それと米国人の身長は完全に相関していた、ということです。
ところが、米国人の平均身長の伸びは1950年代から停滞を始め、1970年代には欧州諸国に次々に抜かれ始めました。その後再び米国人の平均身長は伸び出したけれど、欧州諸国の伸びには追いついておらず、差は開くばかりです。
現在でも米国は実質世界一の平均所得を誇っていますが、身長では欧州諸国にかなわないわけです。
この原因としては、西欧や北欧諸国は福祉国家であり、全国民的な社会経済的セーフティネットが完備していて、米国の自由市場志向経済に比べて、子供達や青年達により生物学的に高い生活水準を提供できているからであると考えられています。
また、欧州諸国に比べて、米国の子供達がTVを見過ぎており、スナックやファーストフードを食べ過ぎていることも原因として指摘されています。
このほか、欧州諸国に比べての米国の、乳児死亡率の高さ(上述)、低体重新生児の多さ、貧困家庭で育つ子供の多さ、予防接種率の低さ、も原因として指摘されています。
とはいえ、まだはっきりとした原因は分かっていません。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/08/12/AR2007081200809pf.html
(8月13日アクセス)による。)
4 感想
米国の相対的衰退は、意外な所にまず現れましたね。
米国の識者は、寿命や身長の相対的低下に危機感を募らせており、このこともあって民主党大統領候補の多くが国民皆医療保険制度の導入を唱えていると承知しています(典拠失念)。
それにしても、日本人の平均寿命は世界一だというのに、平均身長は、データが得られる国々との比較では、中共、シンガポールよりは高いけれど、依然世界最短水準にとどまっている(
http://en.wikipedia.org/wiki/Human_height
)のはどうしてなのでしょうね。
米国の相対的衰退
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