太田述正コラム#2080(2007.9.23)
<新悪の枢軸をめぐって>
1 始めに
ブッシュ政権は、イラク・イラン・北朝鮮を悪の枢軸と呼びましたが、イラクのフセイン政権打倒後は、シリアがイラクに代わり、シリア・イラン・北朝鮮が新悪の枢軸と目されて現在に至っています。
この三者をめぐる、最新の動きをまとめてみました。
2 最新の動き
(1)始めに
最初に、読者との対話を掲げておきます。
<読者(KS)>
私は専門家ではないので、米国によるイラン空爆はない、との太田様の分析(コラム#2074)に関して明確に反論することはできませんし、するつもりもありません。
ただし、軍部上層部が軍の最高司令官である大統領に対して反旗を翻すことが、米国のイラン攻撃に対する抑止力になりうるか、については疑問を感じます。
私はより本質的な問題として、イラン空爆の日本への石油供給の影響は如何か?ということに関心があります。
仮にイスラエルがイランの核施設と思われる施設への限定空爆を行ったとして、この空爆が日本への石油供給に影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか、それともないのでしょうか?
<太田>
イスラエル空軍機のシリア攻撃について、アラブ諸国は沈黙を保っています(典拠省略)。
核疑惑が報じられ、しかも対イラン核施設等への攻撃の予行演習を兼ねて行われたといった報道がなされているにもかかわらずです。
というより、だからこそ、アラブ諸国は、アラブの国であるシリアが攻撃を受けても、(少なくともシリアが主張しているように領空を侵犯されても)沈黙を保つことによって、事実上イスラエル側に立った、ということだと私は理解しています。
イラン国民の大部分はアラブ人ではありませんし、イラン国民の大部分は、アラブ諸国では少数派のシーア派です。
ですから、イスラエルのイランの核施設等への攻撃に対し、イランがペルシャ湾の封鎖を行ったりすれば、アラブ諸国、とりわけ湾岸諸国は強く反発し、イランに対して軍事力を行使するとまでは思いませんが、米軍による封鎖解除、及びそれに関連する対イラン攻撃には積極的に賛成するのではないでしょうか。
また、イランが、イスラエルに対する報復としてはいささか的はずれですが、イラク内の過激派やアフガニスタンのタリバンに手を回してイラクとアフガニスタンの米軍等に攻撃をしかけさせるようなことがあれば、ファロンだって喜んで対イラン攻撃の指揮をとることでしょう。
すなわち、イランとしては、せいぜい報復としてイスラエルに地対地ミサイル攻撃を加えるぐらいでお茶を濁さざるを得ない、と思うのです。
以上から、イランによるペルシャ湾封鎖はないし、いわんや湾岸諸国の石油施設への攻撃などありえない、という結論になります。
また、イスラエルが攻撃したとしても、イランの核施設等が破壊されるだけなのですから、イランの石油関連施設は被害を受けず、イランにおける石油生産・石油輸出には影響は出ないでしょう。
(2)イラン
ファロン米中央軍司令官は21日、イランの革命防衛隊が強力かつ精緻な徹甲路傍爆弾の部品をアフガニスタンの叛乱分子に供給しているとし、これが続くようなら「断固とした対応をとる(act decisively)」と述べました。
この発言は、ブッシュ政権内の対イラン強硬派のガス抜きをするために、とにかくイラン非難声明を出す必要があったけれど、イランがイラク国内の過激派を支援していることを証明できないので、より根拠のある上記事例を持ち出してイランを非難する、というねらいでなされた、と私は見ています。
イランがイラク国内の過激派を支援していることの証明を米国ができていない証拠として、20日にイラクのタラバニ(Jalal Talabani。クルド人)大統領が、駐イラク米国大使宛に、米軍がクルド地方において、過激派に武器を提供し、訓練を施しているとの容疑で拘引した自称商業使節のイラン人をただちに解放するように求める書簡を送ったことが挙げられます。
タラバニは、拘引されたイラン人はクルド地区への正規の商業使節である上、イランが拘引に怒ってクルド地区との国境閉鎖を口にしており、閉鎖されればクルド地区は大きな経済的打撃を受けるし、そもそもクルド地区で勝手に米軍が外国人を拘引するのは遺憾である、と記しているのです。
このことと、ファロンの側近がわざわざ後で、ファロンが「断固とした対応をとる」と言ったのは軍事行動をとることを示唆したものではなく、アフガニスタン領内での、違法物資の差し押さえ活動を強化する可能性に言及しただけだと述べたことと、ファロン自身が、発言の際、イランはアフタニスタン西部に対して開発援助を行っていてこれには助かっているとも述べていることから、ファロン発言がガス抜きであったことは明らかだと思うのです。
(以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-afghan22sep22,1,3783082,print.story?coll=la-headlines-world、
http://www.cnn.com/2007/WORLD/meast/09/22/talabani.letter/index.html
(どちらも9月23日アクセス)による。)
(3)北朝鮮とシリア
北朝鮮が射程約435マイルのスカッドDミサイルをシリアが開発するのを助けたのは確かなのですが、シリアが核装備計画も追求しているかどうかは、ブッシュ政権内でかねてより議論が続いてきたところです。
ボルトンが国務次官当時、2002年から2003年にかけて、米国政府としてシリアの核計画に公式に言及すべきだと主張し、それに対し諜報諸機関が確証がないとして反対したことが知られています。
この主張のために、米連邦議会議員等は2005年にボルトンが正式に国連大使になることに反対したのです。
ボルトンは、今回のイスラエル空軍機によるシリア攻撃によって、自分のこの主張が裏付けられたと述べていますが、米国政府もイスラエル政府も公式には何も言わないので、真偽の程を確かめようがないという状況が続いています。
最近の目新しい話としては、米政府筋から、この夏、北朝鮮とシリアの間で2つ以上の技術貿易に係る協定が締結されているところ、これが核と関係したものであった可能性がある、という疑惑が語られたことくらいです。
ニューヨークタイムスに、米国のアジアにおける密接な同盟国の2人の上級の外交官が、米国からいつも北朝鮮情報をもらっているが、今回の件では何もくれないとこぼしている、という話が出ています。
これは、恐らく日本の外交官なのでしょう。
この記事は、米国政府のこのようなガードの堅さは、情報の確度に自信がないせいか、それとも情報源の秘匿のためなのか分からない、と記しています。
謎は深まるばかりです。
6か国協議における米国の出方を注視しましょう。
(以上、
http://www.nytimes.com/2007/09/22/world/middleeast/22weapons.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print、
http://www.chosunonline.com/article/20070922000017
(9月23日アクセス)による。)
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コラム#2081(2007.9.23)「ミャンマー動く(続)(その1)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
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昨日、ミャンマーにおける反政府活動は、新たな次元に達したことが判明しました。
僧侶達とアウンサン・スーチ女史との連携の兆しが現れたのです。
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ヤンゴンで22日、雨の中を反政府デモに参加した少なく見積もっても約2,000人の僧侶達のうち約1,000人が、・・軟禁中の民主化運動指導者アウンサン・スーチー女史の自宅に向かいました。
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女史が大勢の人の前に姿を見せたのは、2003年5月の拘束以来初めてであり、僧侶達が、反軍事政権の象徴である女史と連携する兆しが現れたことで、反政府の機運が一気に広まる可能性が出てきたのです。
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翌23日の日曜日には、約10,000人の僧侶達がデモを行い、このデモを守るように約10,000の一般市民が人垣をつくりました。
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軍部が頭を抱えているらしいことは、24日に開催を予定していた20人の地域軍司令官達による四半期ごとの会議を取りやめたことからも窺えます・・。
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僧侶達はミャンマーに50万人近くいると見られています。
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・・僧侶達は喜捨を受けて生活をしているために、ミャンマーの状況が一番良く分かっています。
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次はスーチー女史についてです。
(続く)
新悪の枢軸をめぐって
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