太田述正コラム#2117(2007.10.11)
<海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その4)>
以前(コラム#1998で)、
「「軍隊(armed forces)」について、英語版のウィキペディアでは、「国家の軍隊は、・・その政府(governing body)の外交及び内政を推進する(further)ためのものである」としています。・・防衛省が沖縄の普天間基地移設計画に伴い、移転先とされている辺野古の海で実施される事前調査に海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」を出動させたことに対し、防衛庁は明確な法的根拠を示すことができないことを問題視する声があるが、困った話だ。法的根拠がなければ動いてはいけない警察とは異なり、本来軍隊は法的根拠なくして動けなければ存在意義はない。」
と申し上げたところです。
海軍について申し上げれば、一般国際法により、いかなる国の海軍であれ、公海上で自国の艦船等はもちろんのこと、他国または国籍不明の艦船等であっても、その緊急事態に遭遇した時には、自らの艦艇や航空機を使って救援の手を差し伸べることができます。
つまり、海軍は、自国の領域外で、海賊等の海上犯罪に対処する国際警察的役割を果たすことが認められているのです。
(以上、
http://ww2.pstripes.osd.mil/01/may01/ed052101a.html
(10月11日アクセス)による。)
さて、(コラム#2113で、)
「・・2002年1月16日、国連安保理決議1390が採択され、全国連加盟国に対し、上記両勢力に係る資金凍結と要員の入国/通過の防止を求めるとともに、上記両勢力に対する軍事物資や軍事に係る技術的助言・支援・訓練の直接的間接的提供が国内から行われたり自国民や自国船舶・航空機によって行われることの防止を求めました。」
と申し上げたように、2002年1月16日以降は、タリバンやアルカーイダに係る資金・要員・軍事物資等の移動が違法となったのですから、各国海軍は、一般国際法に則り、違法行為であるところの、それらのインド洋の移動を、国際警察的に取り締まることができるようになったわけです。
ですから、海上自衛隊は、この国際警察的取り締まりを給油等によって後方支援することはもとより、国際警察的取り締まりに直接従事することも国際法的には可能なのです。 これは個別的ないし集団的自衛権の行使とは全く関係ないので、日本国憲法に抵触することもありえません。
日本だけの問題として、国際法上も憲法上も可能な活動が、国内法上の根拠がないと自衛隊はできないという問題があるわけですが、既に前年の11月2日からテロ特措法によって活動根拠が与えられていたことはご承知の通りです。
そうだとしても、一、11月2日から1月16日までの2ヶ月半に行われた海自による給油等をどう考えるか、ということと、二、海自が給油等を行った艦艇が、アフガニスタン本土における不朽の平和作戦に関与した場合にこれをどう考えるか、という問題は残ります。
この2ヶ月半は、厳密に言えば更に、2001年12月5日の(カルザイ(Hamid Karzai。1957年~) を暫定大統領とする)アフガニスタン移行政府(Transitional Administration) 成立(
http://en.wikipedia.org/wiki/Hamid_Karzai
。10月11日アクセス))以前と以後に分かれるのであって、「以前」については、米国だけは個別的自衛権を発動し、その他の国々は米国のために集団的自衛権を発動してアフガニスタンのタリバン政権打倒のために戦い、「以後」については、(国連軍であるISAFは別として、)米国も含めてアフタニスタン政府のために集団的自衛権を発動してタリバンやアルカーイダ等と戦ったということになり、インド洋で各国海軍が行った海上阻止行動等もそれぞれの一環に位置づけられことになります。
いずれにせよ、まず一についてですが、「以前」にせよ、「以後」にせよ、この間に行われた海上阻止行動従事艦艇への給油等(「等」は給水です。念のため)が仮に日本による集団的自衛権の行使であって許されなかったとしても、海上阻止行動が国連のオーソライズを得た1月16日をもって遡って許されるものとなった、と私は考えます。
次に二についてですが、海自が給油等を行った艦艇による海上阻止行動と、アフガニスタン本土に係る個別的ないし集団的自衛権発動の軍事活動・・艦載機による作戦または巡航ミサイルによる攻撃・・とのためにそれぞれどれだけの燃料が使用されたかを見極めることが理論的にも実際的にも不可能である以上、仮に当該艦艇がかかる作戦または攻撃を行ったとしても、海自による給油等の(集団的自衛権行使なる)憲法違反性は阻却される、と私は考えます。
なお、空母だけが問題になっていますが、空母以外の水上戦闘艦艇の多くもトマホーク巡航ミサイルを搭載しており(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AF_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)
。10月11日アクセス)、事情は基本的に同じであることに注意する必要があります。
(続く)
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有料版のコラム#2118(2007.10.11)「ナチスの犯罪と戦後ドイツ(その2)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その4)
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