太田述正コラム#2123(2007.10.14)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続x5)>
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<弁慶船長>(2007.10.11)
 開戦前夜。
NYフィルが北朝鮮に行くことになったという。
 そこまでなりふり構わず、北との妥協を目指す裏には、かなりの確率でイラン攻撃が予定されているはずだ。
 日米開戦前、ドイツのソ連侵攻までは、日米諒解案の交渉にもアメリカ側に相当の真剣さがあったように、アメリカは本当に叩きたい敵に集中するためには、第二の敵と妥協する可能性がある。北朝鮮はいま、それをうまく読み込んで、アメリカの妥協を引き出した。
 アメリカの眼中には、六カ国協議における日本の立場など、まったく見えていない。都合のいいときだけ日米同盟というアメリカを、どこまで信頼できるのか、それを見切ることのできる新しい日本のリーダーがどこにいるのだろうか。
<太田>
 米国によるイラン攻撃は少なくともブッシュ政権下ではない、という見通しを私はこれまで累次(最近ではコラム#2070、2074で)申し上げてきているところです。
 私と同様の見方が、日本でも
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137071/?P=1
(10月10日アクセス)でなされています。
 他方、ブッシュ政権の最近の対北朝鮮政策についてはどう考えるべきなのでしょうか。イスラエル空軍機のシリア攻撃とのからみで、改めて解明してみたいと思います。
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1 始めに
 イスラエル空軍機のシリア攻撃について、ついにターゲットが何であったのかが明らかになりました。
2 シリア空爆のターゲット
 空爆のターゲットについては、シリアのアサド大統領が10月1日、「<空爆されたのは>建造中の軍事施設でまだ使用されてはいなかった。・・建造中なので中には誰もいなかった。兵士もいなかった。中には何もなかったのだから、われわれは<イスラエルがどうして空爆したのか>理由が分からない。はっきりしないのだ。・・ターゲットになった健造現場にはいかなる防備も防空システムも施されておらず、<空爆後、>放射能は出ていないし緊急措置がとられたということもない。・・われわれは北朝鮮と関係を持っているが、このことは秘密でも何でもない。・・われわれはいかなる意味でも核兵器には関心はない。」と語りました(
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,2181459,00.html
。10月2日アクセス)。
 通常、こういう話の全部がウソだということは稀です。
 どの部分が本当でどの部分がウソなのか、それが14日付のニューヨークタイムスの記事で明らかになりました。
 米国とイスラエルの政府筋からの情報に拠って書かれたこの記事のツボは以下の通りです。
 9月6日の空爆のターゲットは、北朝鮮の寧辺(ヨンビョン。Yongbyon)の原子炉そっくりの建造中の原子炉だった。
 イスラエルによる1981年のイラクのオシラク(Osirak)原子炉の空爆は、この原子炉が稼働する寸前だったのに対し、シリアの建造中の原子炉が完成するのはまだ数年先のことだった。
 だから、イスラエル政府がこの原子炉を空爆したいと米国に伝えた時に、米国政府はこれに反対した。(もっとも、オシラク原子炉の空爆の時も、当時の米レーガン政権は、イスラエル政府を非難した。)
 というのも、シリアは核拡散防止条約に調印しているものの、建造の初期段階の原子炉の存在を明らかにする義務はないし、発電のためであれば、そもそも原子炉を建造することは認められているからだ。
 イスラエルの狙いは、シリアはもとよりイランにも核保有は絶対に認めないとの意思を伝えることにあったと考えられるが、シリアを除き、いかなるアラブ政府も、そしてイランまでもがこの空爆を非難していないことは、イスラエルの狙いが一応奏効したということかもしれない。(シリア以外では北朝鮮だけが非難した。)
 シリアは、以前から研究用の小さな原子炉を持っている。
 これまでシリアは、本格的な原子炉をアルゼンチンやロシアから購入しようとして果たせていない。その都度イスラエルはシリアを非難したが、軍事行動をとるとは言わなかった。
 アサド大統領は、今年初め、シリアに核保有願望があることを一般論として述べている。
 なお、北朝鮮の原子炉そっくりだとはいえ、北朝鮮が原子炉そのものを売ったのか、設計図をシリアに渡しただけなのか、また、北朝鮮の専門家が空爆時に現地にいたのかは定かではない。北朝鮮からの技術の移転が数年前に行われた可能性もある。
 なるほど、これが真相だとすると、最近北朝鮮がシリアに核協力をしたという可能性は低く、だから米国が6カ国協議の場で北朝鮮を追いつめなかったのだな、と腑に落ちます。
3 シリア空爆と米対北朝鮮戦略
 ニューヨークタイムスは、10月10日付の記事(
http://www.nytimes.com/2007/10/10/washington/10diplo.html?pagewanted=print
(10月11日アクセス)と、上述の記事で、チェイニー副大統領等のブッシュ政権内タカ派が、シリアの核保有に北朝鮮が協力していることが明らかになった以上、6カ国協議に臨む米国のスタンスは見直しが必要であるし、来月米国のアナポリスで開催が予定されている中東和平会議へのシリアの招待もまた見直されるべきであると主張している、と報じています。
 日本では一般に、ブッシュ政権内のタカ派は北朝鮮の体制変革(transformation)を追求する路線であるのに対し、ハト派は北朝鮮に核保有を諦めさせ、その見返りに体制存続を認める路線であるとされ、ブッシュ大統領はタカ派からハト派に乗り換えた、と考えられています。
 しかし、私は必ずしもそう考えてはいません。
 何度も申し上げてきているように、ブッシュ政権の対北朝鮮戦略は、基本的にぶれることなく、政権内のコンセンサスに基づいて推進されている、と私は考えています。
 チェイニー副大統領やボルトン元米国連大使は、対北朝鮮悪役をあえて演じている、と見ているわけです。
 改めてその根拠を、ごく最近のワシントンポストと朝鮮日報から挙げてみましょう。
 ワシントンポストは10月12日付の社説で、ブッシュ政権と韓国のノムヒョン政権が、来るべき数ヶ月間で北朝鮮の体制変革が実現するかのように振る舞っていることに釘を刺すとし、北朝鮮がウラン濃縮計画とシリアへの核協力の全貌を明らかにし、IAEAによる北朝鮮の核計画の監査体制が確立し、その上で北朝鮮の核計画が完全に廃棄されて初めて北朝鮮の体制変革が実現する、と記しています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202101_pf.html
。10月14日アクセス)。
 これは、米国では、北朝鮮の核計画の完全な廃棄と北朝鮮の体制変革がイコールであると考えられていることを示しています。
 私自身、なるほどそうだと思います。
 また、朝鮮日報の10月13日付の記事(
http://www.chosunonline.com/article/20071013000029
。10月14日アクセス)は、「米国が南北首脳会談以後の韓国の行き過ぎた行動を警戒する動きがさまざまな面で明らかになっ<た>」と記しており、米国が、北朝鮮が核計画の完全廃棄に向けて動いているかどうかを慎重に見極めながら対北朝鮮戦略を一歩ずつ進めていることが窺えるのです。
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 有料版のコラム#2124(2007.10.14)「海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その6)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/  ・・
 (本篇は、コラム#2119の続きでシリーズの最終回ですが、都合により非公開扱いにします。)
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<バグってハニー>
>また、これに関連し、「ときわ」が、ペコスに補給したのと同じ日に米イージス艦ポール・ハミルトンにも燃料を直接提供しており、 そのペコスがイラク戦争に参加した可能性があるという指摘もなされており、防衛相は、そのポイントは、ポール・ハミルトンが巡航ミサイルのトマホークを搭 載していた艦艇なのかどうかだとして、その点を米側に照会したいと国会で答弁しました・・。
 ポール・ハミルトン、イラク開戦時にトマホーク発射してますね。
 第五艦隊の“消えた”ウェブページから
http://nofrills.up.seesaa.net/image/5th-oif.png
On March 21, the night of “shock and awe,” 30 U.S. Navy and coalition warships launched more than 380 TLAMs against significant, real-time military targets of interest. The U.S. ships which launched Tomahawks were USS Bunker Hill (CG 52),・・・ USS Paul Hamilton (DDG 60),・・・USS Cheyenne (SSN 773) and two Royal Navy submarines, HMS Splendid and HMS Turbulent.
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 まあ、先生的にはトマホークを発射してようがしてまいが関係ない、ということなんでしょうが。給油から一ヶ月近くたった艦艇の作戦行動を縛ろうとするなんておこがましいですよね。
<太田>
 長々と神学論争にお付き合いいただき、恐縮です。
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4 終わりに代えて
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 政府と民主党の間の神学論争が延々と続いています。
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 この問題の核心は、政府・自民党の安全保障政策のホンネとタテマエが乖離している上に、何がホンネであるかについても、実のところはっきりしていないことです。
 これは、政府・自民党の安全保障政策が一貫して、米国の要請(指示)と世論との板挟みの中で落としどころを探す、というものであったところから来ています。
 
 平行して、民主党内でも神学論争が続いています。
 ・・。
 こちらの問題の核心も、・・民主党にいまだに党としての明確な安全保障政策がないことです。
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 私に理解できないのは、国会で誰も燃料を無償で提供していることを問題にしていないことです。
 そもそも世界の議会の原点とも言うべきイギリス議会は、国王(行政府)を戦費の承認の是非を通じてコントロールするものであった、ということを肝に命じて欲しいものです。
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 ・・米国防総省の諮問機関・国防科学委員会の・・シュナイダー氏は、日本に以下のような苦言を呈しています。
 「給油活動<は>1999年の日米防衛指針(ガイドライン)関連法成立後の・・日本の大きな政治的変化の産物・・だと評価<しているところ、>・・問われているのはその変化が長期的なものなのか、それとも一部の政治指導者の時代に限ったものだったのかということだ・・。控えめな給油活動も続けられない<というの>なら、・・米国と日本、豪州<等の国々>で21世紀の新たな同盟構造を模索しているが、日本にいかなる関与を期待できるのか疑問をもたらす・・さらに、・・日本が安全保障上の役割を受け入れることが困難なら、なぜ・・国連安保理常任理事国・・になる必要があるのか」・・と。
 神学論争をやっているヒマはないのです。
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 私は、インド洋でこれまで実施してきた無償の給油活動は止めさせ、その代わり、海自艦艇をOEF-MIOの一環としての海上阻止行動の本体に参加させることを提言します。
 ただし、インド洋派遣自衛艦には補給艦を随伴させることとし、他国が給油を求める時はこれに応じてもよいが、あくまでも有償(原価)で提供することとするのです。
 もっともそうなれば、ほとんど給油を求める国はなくなると思いますが・・。
 これは、民主党が小沢下ろしを行った上で、この案で党内コンセンサスを形成することが前提になります。
 こうでもしない限り、民主党は再び世論から見放されることでしょう。
 (私は、ISAFへの参加は、自衛隊関係の法整備が十分でない現状においては、隊員にとってリスクが大きすぎるので差し控えるべきだと思っていることを申し添えます。)
(完)
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