太田述正コラム#2063(2007.9.14)
<退行する米国(続々)(その2)>(2007.10.15公開)
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<バグってハニー>
<退行する米国(続々)>シリーズ の途中でまた水を差すようで悪いのですが…。
ガーディアンのブログは読んでますか?かなり興味深い展開を見せています。
http://commentisfree.guardian.co.uk/category/the_shock_doctrine/
8日:ナオミ・クライン(一枚目)が新しい本の抜粋を4回に分けて掲載。
10日:ジョナサン・フェンビー(二枚目、中国が専門)が出撃。クラインに対して「お前の天安門事件の解釈はおかしい」。
同日:ジョン・ロイド(ロシアが専門)が出撃。クラインに対して「お前のソ連崩壊後の解釈はおかしい」。
11日:ゲーリー・ヤング(アメリカが専門)が出撃。「ハリケーン・カトリーナ後の対応は確かに酷かった」とクラインを援護射撃するも投稿子に「それって自由主義経済と関係ないじゃん」と突っ込まれる。
12日:クライン自身が反撃。フェンビーに反論を試みるも、どうにもしどろもどろ。投稿子に反論になっていないと突っ込まれる(例えば、 Chaz1の投稿)。さらに、フェンビー御大が乗り込んできて言いたい放題。「クラインが黙っているのに俺がどんどん書いてもいいのかなあ」もう、この おっさんやる気満々です。投稿子「クライン、出て来い!」
同日:ジェレミー・シャヒル(民間軍事会社に関する本を出している)が出撃。イラク戦争に関してクラインを援護射撃(まあ、そりゃそうでしょうなあ)。しかしながら、投稿子の反応は低調。
13日:コナー・フォーリー(三枚目、国連等で人権問題に関わる、ブラジル在住)が出撃。クラインに左翼のお仲間・強力な助っ人が現れたかと思いきや「クラインの南米(特にブラジル)の政治状況の解釈はおかしい。これでは左翼の先行きが危ぶまれる。」ありっ?
同日:シーマス・ミルン(ガーディアンのエディター)が出撃。ロイドとフェンビーの反論に、見るに見かねてクラインに助け舟を出す。まあ、そりゃ そうでしょうねえ。販促のためにクラインの抜粋をガーディアンに載せているのにあちこちのブログで投稿子に「買わなくてよかった」とか書かれてしゃれに なってないです。ミルン曰く「クラインを陰謀論者・パラノイアと非難するのは安易過ぎる」。投稿子「お前は正気か」
今後の予定:
クラインは今日、第二弾の反撃を投下する予定になっています。あらかじめ投稿子から募集しておいた質問に答えることになっています。今後の展開から目が離せません。
<太田>
全く「水を差」してなんかいないじゃありませんか。
私がクラインの今度の本の中身を紹介した部分への批判は、あなたが紹介した範囲におけるガーディアン・ブログでのやりとり中にはほとんど登場していませんよ。
(カトリーナの時の措置の話は、ピンボケです。学校の民営化は「自由主義経済」と当然関係大ありだからです。)
なお、私自身、以前(コラム#500で)「カナダ人のアンチ・グローバリスト、ナオミ・クライン(Naomi Klein。1970年~)・・の論考は極めて鋭いものの、・・イデオロギー色が前面に出過ぎているものが多い。」と記していますよ。
吾ながら見る眼があるねえ。
私としては、クラインの言っていることで自分で納得できる部分だけを紹介しているつもりです。
私が紹介した部分でクラインをきちんと批判するガーディアン・ブログでのやりとりが出てきたら、ぜひ教えてください。
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3 原理主義的自由主義経済学と米本国
ブッシュ政権の行政管理予算局長のダニエルズ(Mitch Daniels。1949年~。現インディアナ州知事)は、「政府の仕事はサービスを提供するのではなく、サービスが提供されるように取り計らうことであるとの一般論は、論証抜きで正しいと私は思う」と述べた。
原理主義的自由主義経済学が初めて大々的に適用されたのが、レーガン大統領による航空管制官組合への攻撃であり、航空会社の規制解除だった。
20年経つと、航空輸送システムのすべてが民営化され、規制解除がなされ、スリム化され、空港の保安関係の仕事の大部分が薄給で非熟練にして非組合員たる契約労働者によって実施されるようになった。
さて、ブッシュ政権だ。
9.11同時多発テロは、原理主義的自由主義経済学かぶればかりのブッシュ政権に絶好の機会を与えた。
それまで行われてきたのは既存の公営企業の民営化だったが、この時以降ブッシュ政権が行ったのは、行政権力の強化とその執行の民間セクターへの委譲だった。
すなわち、ブッシュ政権はまず、米国民がパニックに陥ったことに乗じて、行政府の警察・監視・勾留・戦争遂行権限を飛躍的に強化した。
軍事史家のベースヴィッチ(Andrew J. Bacevich)(コラム#715)はこれを回転クーデター(a rolling coup)と呼んだ。
こうして強化された行政諸権限は次に即、民間セクターにこれらの諸権限を利潤をあげながら行使させるべく委譲されたのだ。
ニューヨークタイムスは、今年2月に、「何も公の議論や正式の政治的決定がなされないまま、契約業者達が事実上政府の第4権(fourth branch)になった」と記したところだ。
この回転クーデターの司令塔となったのが、米国防省に新しく設けられた国防ベンチャー触媒イニシアティブ(Defence Venture Catalyst Initiative =DeVenCI)と対諜報野外活動(Counterintelligence Field Activity =Cifa)という二つの部局と、新設の国内安全保障省だ。
DeVenCIは安全保障情報を政治的コネのあるベンチャー資本家達に流し、彼らをして監視用機器等を開発・製造させる役割を負っており、Cifaは、CIAの向こうを張る部局であり、その予算の70%を契約業者に委託して執行させている。
2005年の国防予算のうち2,700億米ドルが契約業者への委託経費だが、これはブッシュ政権の初年に比べると1,370億米ドルも増えた勘定だ。
また、国内安全保障省では2001年9月から2006年までの間の委託経費の総額は1,300億米ドルに登っており、これはチリやチェコのGDPを上回っている。
このほか、既存の諜報諸機関の民間委託経費も増えている。
過去、経済において新展開があった場合は、フォード革命にしてもITブームにしても、それがいかなる結果をもたらしたかについて、山のように分析がなされ議論がなされたものだが、原理主義的自由主義経済学がいかなる結果をもたらしたかについては、ほとんど分析も議論もなされていない。
もちろん、愛国法、無期限の勾留、拷問、extraordinary rendition(コラム#730)をめぐる憲法論議は行われているが、これらに係る行政府の機能が商業契約として実施されていることについては全く分析も議論もなされていないのだ。
わずかに、戦時不当利得や贈収賄・背任や政府による契約業者に対する監督不行届に関する個別的事案についての議論が行われてきただけなのだ。
(以上、
http://books.guardian.co.uk/shockdoctrine/story/0,,2165953,00.html
(9月11日アクセス)による。)
(続く)
退行する米国(続々)(その2)
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