太田述正コラム#2139(2007.10.22)
<防衛省不祥事報道に思う(続々)>
1 始めに
 22日の朝までの報道の要点と、今後の課題をまとめてみました。
2 報道の要点
 (1)ゴルフ以外の接待疑惑
 「<守屋前次官の>次女が受験しようとした大学院は、米国のニューヨーク州にある。この大学院を運営する大学は93年、山田洋行のオーナーから寄付された100万ドルをもとに奨学金制度を発足させた。日本人留学生は山田洋行の選考などを経たうえで、優先して奨学金を支給される仕組みになっている。・・この寄付が縁となり、元専務は大学の幹部らと親しくなった。そうした関係もあって、元専務は、次女のために推薦状を書いたという。 次女が受験に備えて渡米したのは、2年近く前だという。このとき、元専務は部下とともに空港へ出迎え、次女を同大学のキャンパスに案内した。レストランで食事のもてなしもしたという。ただ、大学院に行く前に英語力を高める必要があるとして、次女はまず語学学校に行くことになった。この時も同社の関係者らが日用品の買い物を手伝ったという。前次官による元専務への依頼は、自衛隊員倫理規程に違反する疑いがある。同規程によると、自衛隊員が利害関係者から無償で役務の提供を受けることや供応接待を受けることを禁じているだけでなく、第三者のために、そうした行為を利害関係者にさせることも禁じている。」
http://www.asahi.com/national/update/1021/TKY200710210170.html
(10月22日アクセス。以下同じ)
→守屋氏は、カネさえもらわなければ、業者からどんな便宜供与を受けてもよい、という感覚のようですね。1971年にわれわれが役所に入った頃の時代にタイムスリップしたようです。時代が変わったことは知っていても、どうして変わったのかが分かっていないと見えます。
 なお、山田洋行のオーナーの100万ドルの原資の大部分は防衛省(庁)経由で手にした国民の税金でしょうが、せめて国内の教育施設か福祉施設に還元して欲しかったですね。(太田)
 (2)業者への便宜供与
 「守屋前次官・・は七月上旬・・防衛省の次期輸送機(CX)のエンジン納入をめぐり、・・元専務寄りの発言をした・・。部下から入札手続きの説明を受けると、かなり強い口調で「どうして日本ミライズではいけないんだ」という趣旨の発言をしたという。当時の防衛省幹部は「以前は、代理店が一社ならば、随意契約を結ぶのは当たり前だった。守屋前次官は入札方式の変更をよく理解していなかったのではないか」とし、「日本ミライズと随意契約を結べばよいと言ったととられても仕方がない発言だった」と語る。入札の参加条件は(1)営業年数や売上高などの実績に基づく格付けがA~Cランク(2)GEの代理店であること-の二点で、八月に二回入札があったが、条件の両方を満たす業者はなく、二回とも不調に終わった。その後防衛省は、DランクでGEの代理店だった日本ミライズと随意契約する方針を決めたが、前次官の退職後は、契約に関する手続きは止まっている。・・防衛省が開発を進めるCXの試作機用エンジンは米国メーカー製。納入予定は計6基で、すでに5基は、日本での販売代理店を務めていた山田洋行と約39億円で随意契約した。・・ 守屋前次官は共同通信の取材に「(元専務が)独立の際には相談を受けたが、どのエンジンを選ぶか口を出したりはしない」と話している。」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007102290070627.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007102201000041.html
→守屋氏は、随意契約を極力避けるべき時代になったことは知っていても、どうしてそうなったかがやはり分かっていないようですね。
 それにしても、「相談を受けた」と請託があったことをあっさり認めてますが、これは呆れるべきか誉めるべきか。恐らく守屋氏は、この請託を受けた時点以降に、元専務ないし日本ミライズから便宜供与を受けていないし、日本ミライズのために便宜も図っていない(不正な行為ないし相当な行為をしていない)ので収賄罪でつかまることはないと思っているのでしょう。(太田)
 「敵のレーダーなどをかく乱させる自衛隊の装備品納入をめぐり、米国メーカーの代理店だった防衛・航空分野の専門商社「山田洋行」(東京都港区)が6年前、約1億8000万円の過大請求をし、旧防衛庁が調査していた・・。調査の最中、当時同庁防衛局長で担当外だった守屋・・前・・次官・・に対し、山田洋行側が直接経緯を報告していたことも判明。・・過大請求していたのは、防衛庁と山田洋行が2001年3月に契約した「チャフ・フレア・ディスペンサー」計24セット(契約金額約8億1000万円)。契約後、米国に駐在している防衛庁職員が別契約の同じ装備品と比較したところ、単価に開きがあったため、01年12月に直接、米国メーカーに問い合わせた。その結果、本来契約前に山田洋行を通して防衛庁に提出されるはずのメーカー作成の見積書が提出されず、山田洋行がメーカーの用紙を勝手に使って見積書を作成し、防衛庁に提出していたことが分かった。」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007102101000452.html
→「米国に駐在している防衛庁職員」は、過大請求そのものを問題視したのではなく、本質的なことには目をつぶってもっぱら形式的な瑕疵を追及することを旨としている、日本会計検査院が指摘することを懼れただけだと思ってください。
 本件では、仮に山田洋行の請託が証明されたとしても、守屋氏は職務権限がなかったと言い逃れできますし、第一もう時効にかかっています。それにしても、本件がその後どうなったのか、追及すべきですね。(太田)
 「前次官が在任中の今年6月、 元専務が独立して設立した商社の資金繰りのため重機メーカー会長に数億円の巨額融資を依頼した宴席に同席していたことが・・分かった。元 専務は前次官の影響力を利用しようとしたとみられる。守屋前次官は業者側の接待を受けただけではなく、業者同士の巨額の交渉にも同席していたことになる。<ただし、>交渉は不調に終わった・・。」
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071022AT1G2101621102007.html
→コメントの要はないでしょう。(太田)
 (3)調達のやり方
 「石破茂防衛相は・・、(防衛省は)いろいろなものを調達するが、必ず商社が入る。こういう国はそんなにない。 調達のやり方自体に相当問題がある」と述べ、商社が介在する装備品調達の仕組みを抜本的に見直す考えを示した。」 
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=321261&media_id=4
→かつて防衛庁長官であった頃には、「こういう国はそんなにない」ことを知らなかったのか、知っていて改革に取り組まなかったのか、石破氏は明らかにする責任があります。
 石破さん。商社を介在させる理由が、防衛省(庁)幹部の天下り先を確保するとともに、防衛省(庁)幹部が各種便宜供与を受けるためであること、そしてそこに政治家がからんでいる場合がほとんどであることくらいはお気づきだと思いますが、自民党政府の閣僚を勤めていてこの政官業癒着体制そのものにメスを入れられるわけがないでしょう。
3 今後の課題
 私自身もできる限り戦いますが、日本のミニコミ紙や直販誌や独立系週刊誌等はぜひ以下の課題に取り組んでください。
 ・主要マスコミが何ヶ月も本件を報道しなかった理由の追及
 ・民主党が何ヶ月も本件を追及しようとしなかった理由の追及・・日本共産党、出番ですよ!
 ・検察が、昨年来捜査を続けているというのに、いまだに具体的な立件への動きを示さない理由の追及・・日米関係ないし自民党政権への配慮から、主要マスコミを巧みに誘導してついに主要マスコミに報道させることに成功した?後は日米関係ないし自民党政権がどうなろうと、それは主要マスコミや野党の責任であり、検察はよけいな心配をしないで立件に取り組めるし、野党が関係者を証人として国会喚問してくれれば偽証罪でも本件に切り込めて助かると思っている?
 ・本件の「黒幕」であるGEの追及
 ・時代感覚がかくも欠如しており、脇もすこぶるつきに甘い守屋氏がトップになれる防衛省の構造的退廃の原因究明と是正
 ・自民党系の政治家の防衛利権寄生状況の究明
 ・防衛省、ひいては全省庁の天下り構造の一層の解明
等々
—————————————————————–
太田述正コラム#2140(2007.10.22)
<私のTV出演>
→完全非公開です。