太田述正コラム#2193(2007.11.24)
<雑感(続々)>
1 1万円札論争
 コラム#2191で私が冗談半分で1万円札を拾った話をしたところ、意外なことに掲示板上で活発な議論が戦わされています。
 ネチズン・・この言葉の響きが良くないので使わないでくれというメールも来てますが・・には「真面目」な方が多いのですねえ。
 私は大学時代に刑法の授業で、ささいな「犯罪」は犯罪とは言えないとし、その理由として、余りにささいな「犯罪」は犯罪の構成要件に該当するとすら言えないし、その域を超えるささいな「犯罪」は可罰的違法性がないから、と教わりました。
 ここでちょっと脱線させてください。
 私は刑法は、後に最高裁判事を務められた団藤教授と、その後若くして亡くなられた藤木教授に教わりました。どうでもいいけど成績はどちらも優でした。
 私は後に留学することになり、大学時代の先生の推薦状の提出もスタンフォード大学から求められたのですが、私は法学部ではゼミを全くとっていなかったため、面識のある法学部の先生が一人もおらず、頭を抱えました。(フランス法の山本教授(コラム#2193)はお辞めになっていたか亡くなられていたかでした。)
 そこで、カイロ時代に家族ぐるみで親しくしていた、ご主人が民間企業にお勤めの一家の奥様aさんのすぐ下の妹が団藤教授の奥様bさんであることを知り、aさんに口添えを頼んだところ、彼女の一番下の妹であるところの一橋大学の同じく刑法の福田平教授の奥様cさんにまず話をしてくれ、そのcさんがbさんに更に話をしてくれました。ところが、bさんから、「団藤は面識のない学生の推薦状はお引き受けしません」とお断りをくらってしまいました。
 こんな回りくどい方法をとらず、私が直接ご本人に面会を求めるべきだったのかもしれないけれど、いずれにせよ、それはないぜ団藤さん、私に会えば面識ができるじゃないか、あんたは学生が可愛くないのかよ、と意気消沈しました。
 その結果やむをえず、推薦状は駒場時代の語学担任であった小林善彦教授(フランス語。その後学習院大学教授。ルソーの研究家でもある)からもらうことにしました。
 あの時、快く受けて下さった小林先生、改めて御礼申し上げます。
 
 もとい!
 現在なら、(判例を調べたわけではありませんが、)1万円程度なら、たとえネコババしたとしても、占有離脱物横領罪としての可罰的違法性はないのではないかと思料されます。
 しかし、そんなことより、もっと大事なことがあります。
 それは、ささいなことでも警察の手をわずらわせて当たり前だ、という皆さんの感覚はいかがなものか、ということです。
 少し前に、英米のどの新聞か忘れましたが、東京駐在の外人記者が自転車を乗り逃げされ、警察に届けもせずにいたところ、しばらく経ってからこの自転車が別の場所で放置されているのを警察が発見し、登録番号を確認して自分の所に戻されてきたことに驚嘆した、という記事を書いていました。
 ただしこの記事には、こんなことまで警察が手間をかけていていいのか、という揶揄が込められていました。
 今時、東京の交番なんて、どこでもおおむね開店休業状態であり、落とし物の届け出は署まで行かなければならない。
 その私の手間と、この落とし物の事務処理にかかる警察の手間を考えれば、届け出なんて控えるべきなのです。
 それはともかく、落とし物を届けても、警察官がそれを横領することなどありえないと信じられる日本は素晴らしいではないか、とおっしゃるのですか?
 いやあ、どうでもよいことはきちんと処理してくれる日本の警察ですが、その実、無実の人を有罪に仕立て上げ、他方で重大な犯罪からしばしば意識的無意識的に目をそらせている疑いが強い、少なくとも世界は日本の警察をそう見ている、ということを以前(コラム#2172で)申し上げました。
 だからこそ、ささいな事務処理からは警察を解放することによって、より重要なことに警察を専念させる、と言うより、専念しないで済ます言い訳を警察から奪うべきなのです。
 結論的に申し上げれば、あの1万円札を私はネコババしたって問題はないのだけれど、いわんや、拾ったという事実をネット上で公表し、遺失主が申し出ればお返しするとまで申し上げているのですから、全くもって何の問題もない、ということなのです。
2 危機管理感覚
 それにしても、昨夜、一万円札を早く警察に届けなさい、という忠告の電話が、6年くらい前からのコラム(無料)読者から、ハンドルネームとご本名を明らかにしてかかってきたのには驚きました。
 投稿にも散見されましたが、この方も権力側が私を陥れる材料をつくるために、あえて1万円札を道路に置いておいた可能性がある、とおっしゃるのです。
 ちょっと待って下さい。
 そんなことができるほど政府・自民党に危機管理能力があるのであれば、私はこんなに政官業癒着批判や政権交代論をぶったりしませんよ。
 この一ヶ月余り、これほど声高に政府・自民党批判、就中額賀さん批判をテレビ等で唱えている私に、脅迫電話やメールどころか、無言電話すらかかってこない、というのは連中の危機管理能力の欠如以外のなにものでもないのです。
 防衛省キャリアだってひどいものです。
 6年半前に私が当時の防衛庁を批判して飛び出してから、これまで危機管理的観点からの接触が一度もないのですよ。
 今回の朝日の記事が出る前にも、私はさんざん予告めいた言動を行っているにもかかわらず、私から情報をとろうとする動きを全くとろうとしない防衛省キャリアの後輩達です。これは私が予想した通りだとはいえ、改めて彼らのノーテンキぶりに呆れかえっている次第です。
3 日立製作所シリーズの再掲載
 全く私の個人的事情から、しばらく伏せ字にしていた日立製作所シリーズをブログに再掲載しましたので、興味のある方は目を通してください。(コラム#646~650、651、653、655)
 現時点で、私のコラムの有料・無料購読者だけで2631名を数え、これに一日あたりのブログ訪問者数3000~5000人を加えれば、相当の数に達します。
 この中には日立製作所の社員の方も必ずいらっしゃるはずです。
 その方々は、日立製作所の総務部門に、私がコラムに関連シリーズを再掲載したという事実と以下に記す私の決意をお伝え下さい。
 このシリーズをお読みになれば分かるように、私はIT部門を統括する役員の方からの感謝状を求めています。
 まだいただいていない以上、私はこれを求め続けますし、当時も申し上げたと思いますが、感謝状は必ずいただくつもりでおります。
 今年中に前向きのお答えを日立製作所から得られないのであれば、来年から、シリーズ中の匿名部分をすべてオープンにした上で、要求をエスカレートさせます。
 エスカレートといっても、感謝状のレベルを、日立製作所の代表権を持つ役員の方からのものへと格上げする、というだけのことですが・・。
 これは、いささか口幅ったい申し上げようながら、日本の政官業の癒着体制の打倒を目指す私の戦いの一環でもあります。
 日立製作所さん、よくよくお考えになってくださいね。
4 蛇足
 12月7日(金)と14日(金)の日テレ「太田総理・・」に連続して出演します。
 収録は、それぞれ3日(月)と10日(月)です。
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太田述正コラム#2194(2007.11.24)
<額賀さん大好き(続x3)(その1)>
→非公開