太田述正コラム#2290(2008.1.9)
<「不都合な真実」というけれど,「真実」って何?:消印所沢通信22>
<消印所沢>
 前略 所沢です.
 ごぶさたしております.
 やっと1篇送信できました.
 スロー・ペースでどうももうしわけございません.
 まあ,守屋次官事件以降,大変賑わっているようですので,当方がペースダウンしてもさほど問題ないかな?と(笑
<太田>
 お久しぶりです。
 このところ、内容がどんどんシリアスになっていますね。
 消印所沢のバグってハニー化か?
 ところで、ニューハンプシャー州の予備選についてCNNは僅差でクリントンのトップ当確を打ち出しましたね。
 いよいよ米大統領選予備選の成り行きに目を離せなくなりました。
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<消印所沢>
    –「不都合な真実」というけれど,「真実」って何?–
 えー,皆さんの中にも,映画好きな方は多いかと思います.  当方もさすがに今はできませんが,学生のころは毎週のように映画館に,あるいはカネを節約するために試写会に行ったものです.
 マイナーな節約映画館商法としては,地域コミュニティなんかでやっている無料または格安の上映会なんてものもあります.  これの場合,古い映画だったり,お堅い映画だったりすることが多いんですが,黒澤映画をタダ同然で鑑賞できたりすることもあります.  黒澤映画は「7人の侍」も好きなんですが,「羅生門」という作品もなかなか趣があります.  ある事件を巡り,証言がそれぞれ違っていて,真実は藪の中,というのが筋書きなんですが,三船敏郎の演じる野盗や,被害者自身の証言を伝えるイタコなど,それぞれ個性的です.
 そういえば,近くの市民ホールでは「不都合な真実」をこの前やっていました.  残念ながら見には行けませんでしたが,まあ,この映画は有名になりましたから,筋立ては皆さんご存知でしょう.
 でもね,いったい「真実」とは何でしょう?
 「真実は二つある」と言ったのは,初訪米時のミハイル・ゴルバチョフでしたか.  実際,物事には様々な側面があって,「真実」と簡単に断定できないような事柄が少なくありません. (マスコミはその点を,側面の一つだけを乱暴に切り取って紹介して済ませてしまうせいか,そうした単層的な見方が少なからず蔓延しているようで,なんだかなあという気がします)
 例えば「二酸化炭素排出量が増えて,地球が温暖化している」という点は,まず真実と見て間違いないでしょう.  ですがその先,じゃあどうするんだ?ということになると,京都会議を見ても分かるように各国の責任の押し付け合い.  ある人はアメリカが悪いといい,ある人は中国が悪いと言い合っています.
 しかし統計を見ると,にわかには誰が悪いと決め付けられないことが分かります.
 こないだ,科学技術庁があった時代の地球環境に関する統計資料を読んだのですが,まず,アジアについて 「世界の中で最もエネルギー需要の伸びが大きく,今後の拡大の可能性が最も高い」 とすでに予想されていたりします.  つまりずっと問題は放置されてきたわけでして,誰が悪いということになれば,みんなが悪いというしかないでしょう.
 それからまた,国民の生活水準が上がると,必然的に一人当たりのSOx,NOx,CO2排出量もどうしても上昇してしまう.   これらを減らすためには,生活水準を下げるしかない.  よほどの技術革新があれば別でしょうが,現状,そんなものが起こる可能性は低いでしょう.
 じゃあ,地球温暖化は先進国のせいかと言えば,必ずしもそうとも言えない.  例えばGDP当たりのSOx,NOx,CO2排出量は途上国のほうがはるかに高い.  エネルギー使用の効率が悪いわけです.  手元の資料で最も高い伸びを示しているのがアフガーニスタンで,10年で倍増していたり.  さらには途上国では盗電なども横行して,余計に効率を押し下げています.  ここまで来ると,地球環境問題なんだか,治安問題なんだか,その境界すらも怪しくなってきますね.
 おまけに統計自体にも「真実」を巡る問題があります.  独裁国家の発表する数字をそのまま鵜呑みにしていいのかという点がまず一つ.  また,植物性燃料については,森林伐採によって,光合成で分解されるはずだったCO2がその分減らなくなるわけですが,その数字を入れるか入れないかの問題もある.
 そんなこんなを,数字の羅列を見ながら感じたわけで.  これじゃ国際的な排出量規制を巡って,各国の意見が対立するのも道理だと愚考します.  これだけ「真実」の見方が色々できるのでは,纏まるほうが不思議.
 結局のところ,地球の中だけでのやりくりは限界があるんで,もう宇宙に活路を求めるしかないんじゃないか,という気がします.
(終劇)
<参考文献>『世界各国の人間環境1 アジア・オセアニア編』(日本総合出版機構,1972年)
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太田述正コラム#2291(2008.1.9)
<原理主義的自由主義と精神疾患>
→非公開