太田述正コラム#2247(2007.12.20)
<NLPで役人を辞めた私(その1)>(2008.1.27公開)
1 始めに
 私が役人を辞める直接の契機となったのは米海軍空母艦載機によるNLP(Night Landing Practice)です。
 (夜間の空母への着艦がむつかしいのでNLPが重要なのですが、NLPを含む、着艦訓練全般をFCLP=Flight Carrier Landing Practiceと言います。)
 NLPなんてしょっちゅう問題になっているではないかと思われるかも知れませんが、私が仙台防衛施設局長をしていた2000年の9月に三沢基地等で行われたNLPは異常でした。
 そのあたりの事情が分かる施設庁長官宛て書簡のご披露から話を始めましょう。
 ちなみに、横須賀を母港とする米空母の艦載機は神奈川県の厚木基地を母基地としていますが、厚木基地周辺の市街地化に伴い、騒音を発することから同基地でのNLPの実施が困難になったため、日本政府は硫黄島の基地を整備し、硫黄島でのNLP実施を米側に求めてきたものの、硫黄島が厚木から遠距離にあるため、米海軍は硫黄島でのNLP実施を快く思っていなかったという事情があります。
 また、アターバック准将は三沢基地司令兼三沢米空軍司令であり、ハイ大佐は三沢米海軍司令です。
2 異常なNLP
防衛施設庁長官
大森敬治様
前略
・・・
 次にNLPの件です。
 三沢における今般のNLP(より正確には昼の分を含むところのFCLPですが、NLPという言葉を使わせていただきます)の「特徴」は以下の通りです。
1 (硫黄島NLP基地の整備が完了した時点以降において、)硫黄島の代替としてではなく、計画公表・実施されたという意味で、(事実上、)全く新しい形態のNLPであること。
2 その必要性に関し、
 一、在日米軍中央は、「キティーホークの着陸誘導装置の更新後のテストのため」と言い、
 二、星条旗新聞は、「ア キティーホークの着陸誘導甲板員の訓練のため、イ そのためだけにわざわざ硫黄島に行くのは経費の無駄である」と紹介し、
 三、三沢の米海軍司令のハイ大佐は、「長期間使用されなかった(三沢基地所在の)NLP用着陸誘導装置のテストのため。(この装置は、車輪がついていて動かせる点で、空母のものとは異なる)」
と私に説明しました。
 一は、空母の突然の出航に伴うNLPではないと言うわけですから、むしろ硫黄島で実施することに問題のないことを言っているに等しく、(三沢等で実施しなければならないことの)説明になっていません。
 二は、甲板員の訓練だとしても、そのためには、艦載機が実際にNLPをやる必要があるわけであり、いずれにせよ、硫黄島で実施すれば、日本政府がその(追加的)経費を負担することになっており、やはり説明になっていません。
 (ちなみに、私はNLPに係る経費負担の日米協定締結時の担当者(現在の岡崎君の立場)であり、米海軍が、日本政府からカネなどもらわなくてよい(=カネをいくらもらっても硫黄島ではいやだ)という姿勢であったことが思い起こされます。私が個人的に信頼関係を築いてあった当時の在日米海軍司令官に、私の執務室まで足を運んでもらった上で直談判し、最終的に米海軍の説得に成功した経緯があります。)
 三は、ハイ大佐の苦心の弁明なのでしょうが、三沢で実施されたNLPの規模は、着陸誘導装置のテストの域を超えたものであることは明白であり、成り立ちますまい。
 (いずれにせよ、誘導装置を硫黄島に運んでテストを行うことも不可能ではないと思われ、その経費についても、恐らく日本政府が負担できると思われますので、硫黄島で実施できたのではないでしょうか。)
 (アターバック准将でさえ、今般の三沢でのNLPの「異常性」を示唆していたことに、長官もお気づきになったことと存じます。)
 では、一体何のために米海軍は今回の(非代替)NLPを実施したのでしょうか。種々の、しかもいずれも説得力のない説明が乱れ飛んでいることは、目的が別のところにあることを示唆しています。
 私の推測は、
 (1)硫黄島におけるNLPが米海軍にとって耐え難いにもかかわらず、三宅島等における抜本的措置を講じない(講じられない)日本政府への抗議、
 (2)三沢を、NLPの本格的分散実施基地とする瀬踏み、の二つの目的です。
 ((2)の目的だけだとは考えられないのは、単に「硫黄島の代替としての」三沢基地の使用頻度を次第に増やしていく方法・・既に米海軍が他の本土基地で試みてきており、(NHKによる報道がなされはしましたが、)より「安全」かつ「巧妙」な方法・・を、をあえて米海軍がとらなかったからです。なお、(1)については、背景として、NLP以外でも米海軍の神経を逆なですることを日本政府が行った(行っている)可能性・・コストシェアリングの削減問題である可能性が高い・・があります。)
 私が申し上げたいことは次の二点(実質的には一点)です。
 一つは、上に記したような推測(、憶測だとお叱りを蒙るかも知れません、)を私にさせるようなことでは困るということです。そんなことで、どうやって三沢の人々に三沢でのNLPの必要性を説得できると言うのですか。施設本庁から、地元に対する説明材料をいただけないのであれば、せめて背景事情くらいは内々明かしていただきたいものです。(ウソをつかないですみます。)
 二つは、三沢及び、当て馬にされた厚木等の地元での強い反発は、今般のNLPの「強行」が米海軍の自滅的愚行であったことを示しましたが、そのような米海軍の愚行を止められなかったところに、日本政府(この場合、防衛施設庁と名指しさせていただきます)と米海軍との信頼関係の深刻な欠如がうかがわれます。(逆説的に言えば、だからこそ、(1)が出てくるわけです。)これも私の「憶測」に過ぎず、最近たまたま米海軍の関係者に分からず屋が増えただけだ(=米海軍の方が一方的に悪い)とお叱りを蒙るのかもしれません。しかし、相手が分からず屋なら、その対処の仕方はむしろ簡単だと私は考えるのですがいかがなものでしょうか。
 今回も、歯に衣を着せずに物を申しました。意のあるところをお酌み取りいただき、ご宥恕願えれば幸いです。
草々
                                   
                         平成12年10月2日
                         仙台防衛施設局長
                           (署名)
(続く)