太田述正コラム#2340(2008.2.2)
<活字メディアへの登場(続)(その2)>
 
活動は会員企業の便宜供与
 私も守屋も会員でした。そこでは麻雀、スキー、山登りなどいろいろ同好会的な活動もしていました。ゴルフは最近やってないようですが、私がいた頃は年1回週末にコンペをやっていまして、会費はたしか1万円だったと思います。また、同好会などを行う場合、会員企業の社員寮を使い社員と同じ金額で使わせてもらうなど、まさに企業から便宜供与を受けているわけです。
 官庁も多くはそうですが、業者の場合、すべて人事部門が指名して浩志会に行かせています。行きたくなければ断ることができるタテマエですが、まず拒否する人はいないでしょう。
 守屋がいろいろ飲み食いしたり勉強したいということならば、こういう場とか、純粋にプライベートで勉強する場があるわけですから、そこでお茶を濁していればよかったものを、目に余ることをやってしまったわけです。 守屋は馬鹿です。
 彼の場合、英語はまったくわからず、アメリカのことも皆目見当がつかず不安だったのでしょう。彼は、宮崎元伸さん(山田洋行元専務)がアメリカについていろいろ教えてくれたので付き合ったと言っています。それは自分の心の中で正当化する理屈であったかもしれませんが、しかし半ば本音でしょう。
 浩志会には官側が選んだ業界1位ないし2位の企業が入っています。
 ですから守屋はアメリカとか世界のことを知りたければ、こういう場で勉強すれば良かったのです。ゴルフをするのが目的だったら別ですが。
会員企業の特権的地位
 私は最初から、浩志会は官と業の癒着構造の象徴のようなものだという認識を持っていました。けれども魅力はありました。当時は会費はタダで、幅広いネットワーキングができました。いろいろな人と知り合えるし、いろいろな話を交わせますから、私は若い頃はそれなりに熱心な会員でした。
 ところが時代がすっかり変わってしまいました。
 一つには護送船団方式の時代が終わったことです。もともとあった業界区分はめちゃくちゃになっているし、長銀や雪印など超一流の企業でもつぶれる時代になってきました。
 秩序がなくなってきている時代に官側がどういう基準で浩志会の会員企業を選ぶのかが難しくなってきています。
 かつては銀行は東大卒のエリート社員を大蔵省に派遣し、その意向を知ることによって経営を行ってきました。いわゆるMOF担(モフタン、銀行の大蔵省担当の意味)が活躍したわけです。
 浩志会で勉強会や同好会活動を通じて官僚と親しくなれば、会員企業の幹部社員は、電話一本で、あるいは、ちょっと訪ねて官僚と話ができる、ということになるわけです。ですから会員企業には浩志会に入っていなかった同業他社に比べて特権的地位が与えられていると言っていいでしょう。それは、浩志会に入れた企業と入れなかった企業を差別的に取り扱っていることになります。しかし、もはやこんなことが許される時代ではなくなったのではないでしょうか。
 時代が変わったと言えばもう一つ、私は必ずしもいいことだとは思わないのですが、公務員倫理法ができ、その中身がどんどん厳しくなってきたことです。今や、官僚と業者が飲食をともにして様々な活動を行う浩志会は、どう考えても公務員倫理法違反です。公務員倫理法違反が許されないのであれば、浩志会の存続もまた許されなくなったと言うべきでしょう。
―- 守屋氏は国会で2人の政治家の名前を出しました。太田さんも久間章生氏(前防衛大臣)・額賀福志郎氏(現財務大臣)の名前や14人のあっせん利得議員のリスト保有を明らかにしています。検察はどこまで政治家に迫れるでしょうか。
政治家一人程度の立件か
 これは私個人がどう思うかということではなく、昨年から記者と話している感触からは必ずいくという雰囲気です。「日米平和・文化交流協会」(※注2)常勤理事の秋山直紀さんをまず逮捕して、それから政治家一人くらいは挙げるのではないかということです。 いずれにせよ、検察は問題の本質には切り込まないことでしょう。
 問題の本質とは、防衛省が幹部を山田洋行に天下りさせ、その代わり受注額を保証してやっていることです。しかしそっちには目を瞑る。そこまで手をつっこんだら官僚機構から総スカンを食らい、検察の存立基盤が揺らぎかねません。ですから、守屋や宮崎さんや秋山さん、それに政治家一人程度に立件の範囲をしぼろうとするのです。
 守屋について言えば、浩志会の会員である官僚も守屋も、飲み食いやゴルフで経費をきちんと負担していない点では同じです。しかしそれだけで守屋を立件したら浩志会的なものの存立にも関わってきますから、何が何でも金を貰ったことにしたい、そのために、守屋が次官就任祝いをもらったことや奥さんが数百万円の金を貰ったことに目をつけ、奥さんを逮捕までしたのです。
 何もしないと検察は世論からバッシングを受けますから、よくやっていると世論を納得させる必要がある。守屋らの立件はいわば国民向けの一種のショーなのです。こうして守屋たちだけを悪者にして幕を閉じる。守屋が国会で名前をあげた政治家一人くらいを挙げれば十分世論は納得するとふんでいるのでしょう。
桁が違う天下り便宜供与
 守屋がゴルフをただでやったとか金を貰ったことだけが取り沙汰されていますが、守屋が受けた年間の便宜供与が200万円だとして、時効にならない5年間を合計しても1000万円です。一方、山田洋行はOB一人雇うのに年平均800万円をかけているわけです。いわば800万円の「闇年金」を与えて仕事をしないOBを顧問にしていたのです。これが10数名いましたから、単純計算でも守屋が受けた便宜供与と比べて桁が違います。
 この天下りの問題に検察はまったく手をつけようとしません。検察だってヤメ検(弁護士)になるコースだけでなく企業にも天下りしていますし、他の官僚たちが怒るので天下りには絶対切り込まないというわけです。
―- 駐留米軍再編費用のうち3兆円を日本側が負担し、そのうちグアム移転に7000億円ということです。日本はいつまで負担をつづけるのでしょうか。また、移転施設の建設利権の獲得のために日本企業の争奪戦が始まっているということですが。
安上がりな日本駐留
 アメリカが直接建設したら安く上がるところを、日本企業を噛ませようとしたため経費が膨らんでしまったということでしょう。
 問題は、まず、どうして日本が米軍の駐留経費を負担してきたのかということです。外国に軍隊を駐留させる場合、駐留する側が金を支払う方が普通なのに、話があべこべです。次に日本国内の駐留経費ならともかく、どうして日本がアメリカ国内のグアムの分まで負担しなければならないのかということです。もう一つは、そもそも沖縄にいる海兵隊は存在意義があるのかということです。
 対テロ戦争ということで最近でこそ国防費を増やしていますが、アメリカは冷戦が終わってから基本的に大幅な軍縮を行ってきました。その時に沖縄の海兵隊は真っ先に削減対象になってしかるべきだったのですが、日本が金を出してくれる、こんなに安上がりに維持できるのだったら存続させようということになったのです。それが今度はグアムに移転することになって、それも日本に金を出せという。
 この移転は変なのです。
 つまり司令部をグアムに移し実働部隊を沖縄に残すということなのですが、ほんらい司令部はできるだけ実働部隊の近くにあってしかるべきなのです。それを離してしまうということは、沖縄で海兵隊を使う構想がないということを意味します。中東に実戦部隊を送る以上は、アメリカ本土よりも中東に近い沖縄やグアムに置いたのがいいに決まっていますが、実際に実働部隊にお呼びがかかったときには派遣先の中東で司令部と実働部隊をドッキングさせるので、司令部を沖縄に置く必要がないのです。
 以上が在沖海兵隊の一部グアム移転の背景です。アメリカの「植民地人」である日本人の人の良さと日本人が矛盾に目を瞑っていることを逆手にとって、やりたい放題のことをやっているのがアメリカなのです。
遅れついでに移転はパーに
 基地移転をふくむ駐留米軍再編は14年までとなっていますが、大幅に遅れるでしょう。基地移転のきっかけは普天間問題でしたが、それさえまったく進んでいないのです。この際、遅れついでに全部パーにしてしまえばいいのです。
 たとえ民主党が政権を取っても、彼らは安全保障をまったく勉強していませんから、これまでの政府のやってきたことを継続せざるを得ないでしょう。民主党に安全保障政策がないから、私は01年の参院選に民主党から立候補したのですが、落選して以降、教えると何度言っても拒否されました。本当に勉強したくないということもあるのでしょうが、へたに勉強すると党が割れるということなのでしょう。
(注2)社団法人「日米平和・文化交流協会」 
    「日米両国の文化の交流を行い、両国の親善を図る」ことを目的
に1947年設立。68年に外務省認可の公益法人に。かっては文化活
    動が軸であった。しかし秋山直紀氏が主導するようになって「防
    衛」が色濃くなった。秋山氏は日米の軍需産業と政界とを結ぶパ
    イプ役として暗躍。
おおた・のぶまさ 評論家。東大法学部卒業。防衛庁入庁。同期に守屋武昌前防衛事務次官。仙台防衛施設局長を最後に退官。現在、国際問題や安全保障の専門家としてインターネットを中心に活動。
(完)
——————————————————————-
太田述正コラム#2341(2008.2.2)
<仙台時代の積算ミス問題>
→非公開