太田述正コラム#2273(2008.1.1)
<社会新報新年号について>(2008.2.8公開)
1 始めに
 社会新報の2008年新年号(1月1日号)に私の文章が載ったのでそれを転載するとともに、この文章と抱き合わせで掲載されたインタビュー記事を要約紹介し、更にこの記事に対する私のコメントをご披露しましょう。
2 私の文章
 「山田洋行による見積もりの偽造が取り沙汰されているけれど、それは輸入品に国際相場があるからだ。国際相場がない純国産装備やライセンス生産装備については、言い値で防衛省が買っているのが現実だ。防衛省には積算・原価計算能力がない。第一、見積もりを値切ったら天下りの数が減るだけなので、値切るインセンティブが全く働かない。
 輸入した方が安いのにわざわざライセンス生産をするのは、色々理屈はつけられていますが、要は、値段をつり上げることができるので、それが業者にとってはもちろんのこと、天下りを増やしたい防衛省にとっても、更には防衛利権にたかる政治家にとってもよりうまみがあるからです。 ライセンス生産は、戦闘機等を将来国産化するためのノウハウ蓄積につながるという言い訳は、米国自身が日本による戦闘機国産化の試みを粉砕したことで破綻しています。 もっと問題があるのは、米国にとってどうでもよい二線級装備であるからこそ日本が国産を認められてきた装備です。 値段がつり上がっているだけではありません。 輸入装備やライセンス生産装備なら性能が国際的に保証されていますが、国産装備の大部分の性能に疑問符がつきます。 それどころか、訓練で使うだけでも自衛隊員にとって危険な国産装備が少なくないのが実情です。 これに加えて、装備の輸出が全面的に禁止されていることも、価格面や性能面で国際的に見劣りしない純国産装備の出現を妨げていると言ってよいでしょう。 山田洋行がらみでCXのエンジンのことばかりが取り沙汰されていますが、いまどき輸送機を国産すること自体を疑問視する声が出ないのは不思議でなりません。」
 ちなみに以上は私の原稿の全文であり、紙面では最初の小段落は落とされています。
 なお、この文章には「元仙台防衛施設局長 太田述正さんのコメント」として「国際的に見劣りする国産装備ライセンス生産が利権を生む」という見だしがつけられています。
3 清谷信一さんの指摘と私のコメント
 (1)清谷信一さんの指摘
 上掲の私の文章は、タブロイド判紙面の見開き2頁にわたる特集「日本の防衛調達品はなぜ割高になるのか」の中で取り上げられているのですが、特集のそれ以外は、軍事ジャーナリストの清谷信一さんのインタビューで占められています。
 清谷さんはなかなかいいことを言っておられます。
 まず、日本と欧米の装備調達の値段を比較することがいかにむつかしいかを指摘されています。
 ライセンス料を上乗せするかどうか、あるいは保守・部品付きかどうかで値段が変わってくるし、「戦闘機を100機1兆円で買うから、その代わり代金の30%を自国に投資をしろ」といったオフセットを付けるか否かでも値段が変わってくるというのです。
 また、いつの時点の交換レートで評価するかで、或いは同じ例えばF-15戦闘機でも型式搭載品によって、値段が全然違うというのです。
 更に、海外メーカーから(商社を介在して)購入する一般輸入か米国防省から直接購入するFMS(=Foreign Military Sale)かでも値段が異なってくるというわけです。
 その上で清谷さんは、日本の防衛省の装備品輸入が高くなる最大の理由は、商社を介在させているからというより、予算制度上、一括して契約しない単年度方式がとられてきたからだと指摘します。(ただし、2007年度から部分的に他年度方式が始まった。)
 そして、商社を介在させないとなると、国防費が日本とほぼ同じ英国では、国防省の外局であるDE&S(Defence Equipment & Support)が装備調達を担当しているところ、DE&Sは約2万9,000人の要員を抱えているのに対し、日本の防衛省の装備施設本部と内局の経理装備部を合わせても装備調達要員は850人に過ぎず、日本は要員を2万8,000人も増やさなければならなくなる。他方、日本での防衛専門商社や総合商社の防衛部門の要員は2000人くらいであり、日本はある意味、極めて効率的な装備調達を行っているという見方もできると指摘します。
 
 (2)私のコメント
 清谷さんの商社擁護論は、要するに日本型経済体制擁護論なのですが、日本の経済体制の再アングロサクソン化が図られつつある現在、なかなか通りにくいでしょうね。
 しかも、その商社、就中防衛専門商社の腐敗が亢進しているという現状があります。
 そもそも、防衛省は軍事官庁であることを考えれば、もともと装備調達に商社など介在させてはいけなかったのです。
 清谷さんも指摘しているのですが、そもそも商社が(海外の)装備の情報を独占的に掌握し、防衛省はその性能も価格も本当のところは全く分かっていない現状は嘆かわしい限りです。 
 この点でも自衛隊は軍隊ではないということです。
 昨今、軍隊機能の外注化の動きが諸外国において盛んですが、まともな軍隊で装備調達機能を外注化した軍隊はないことを肝に銘じるべきでしょう。
 防衛省は、陸上自衛隊を削ってでも装備調達機能を強化すべきだと思います。