太田述正コラム#2360(2008.2.12)
<唯一の超大国米国の黄昏(その2)>
3 ロサンゼルスタイムス
(1)論考の紹介
ロサンゼルスタイムスが掲げたのは、スレート誌のコラムニストのカプラン(Fred Kaplan)による概要以下のような論考(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-op-kaplan3feb03,0,5685813,print.story
。2月4日アクセス)です。
現在行われている米大統領予備選で対外政策がほとんど話題になっていないのは、どの候補者も、米国が10年、20年前に比べて相対的に弱化しているという事実や、この事実を踏まえて新しい対外政策を見出さなければなならないという事実に触れたくないからだ。 米国の弱化を促進したのはブッシュ大統領だが、米国の弱化の始まりは冷戦の終焉だ。 冷戦が終わり、米国が唯一の超大国だと指摘した者もいたが、むしろ、超大国概念は成り立ち得なくなったと考えるべきなのだ。
冷戦期の50年は、米国は世界の半分以上の国に対し、威令が行き届いていたけれど、これは単に米国が強大であったからだけではなく、共通のソ連という敵がいたから、米国の同盟諸国は自分達の国益より米国の国益を優先させたということなのだ。
冷戦終焉後、米国の同盟諸国は、次第に自分達の国益を優先させて行った。
ドイツとフランスは国連での対イラク戦決議に反対したし、トルコは対イラク戦で米軍が自国領内を使うことを拒否したが、全くお咎めなしだった。
ブッシュはかつてエジプト大統領のムバラク(Hosni Mubarak)に人権侵害を行うなと警告したものだが、人権侵害は続けられた。しかし、やはりお咎めはなかったばかりか、最近ブッシュが中東を訪問した際、ムバラクの民主主義への貢献を称えたときている。
要するに米国は超大国ではなくフツーの大国(ordinary world power)になったということなのだ。
これは米国民にとってまことに手慣れない居心地の悪い状況ではあるが、多極化ないしはアナーキー化しつつあるボスなき世界において、米国は一上級中堅幹部でしかないことを米国民は自覚しなければならない。
(2)コメント
単純にして明解な論考だと思います。
フツーの大国となった米国にとって、いつまでも米国が超大国のつもりで属国であり続けようとしている日本など、下駄の雪(泥?)以外の何物でもないでしょう。
日本人の皆さん、早く決心して日本をフツーの大国にしましょう。
4 所見
21世紀の終わりがどうなっているかどうかは分かりませんが、私は、21世紀前半はフツーの大国となった米国を兄貴分とする自由・民主主義圏と中共圏の対峙の時代であると見ています。
これは米プリンストン大学の政治・国際問題教授のアイケンベリー(G. JOHN IKENBERRY)の見解でもあります。
問題は、この対峙が、自由・民主主義圏と中共圏の抗争をもたらすのか、自由・民主主義圏への中共圏の統合をもたらすのかです。
アイケンベリーは、核兵器の登場によって大国間の戦争がほとんど不可能になったことと、戦後米国をリーダーとする自由・民主主義圏によって開かれた、かつルールに則った、そして統合された国際政治・経済システムの構築が成功裏に行われたことによって、先の大戦における枢軸諸国がそうしたように、中共はこのシステムと敵対するより、このシステムへの統合を目指すであろうという楽観的な見通しを持っています(注1)。
(以上、
http://www.nytimes.com/cfr/world/20080101faessay_v87n1_ikenberry.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print
(2月9日アクセス)による。)
(注1)アイケンベリーは、「ローズベルトはウィンストン・チャーチルが反対したにもかかわらず支那(China)を国連安保理の常任理事国にしようとした。当時のオーストラリアの駐米大使は、先の大戦中、初めてローズベルトに面会した時のことを日記に次のように記している。「彼は、ウィンストンとの支那をめぐる累次の議論を通じ、ウィンストンが支那について40年時代に遅れていると感じたと述べた。チャーチルは支那人のことを’Chinks’ とか’Chinamen’と呼び続けたけれど、これは極めて危険なことだと感じたというのだ。ローズベルトは、40年ないし50年経て支那が極めて強大な軍事国家に様変わりすることは大いにありうるとして支那と友好関係を維持したかったのだ。」と。
アイケンベリーはローズベルトの先見性を評価しているのだが、そもそもローズベルトの念頭にあった支那は中華民国の支那であって中共の支那ではなかったはずであるし、なるほど現在中共は軍事大国となってはいるけれど、これはローズベルトのまぐれ当たりに他ならないと言うべきだろう。
しかし、私はここまで楽観的にはなれません。
(続く)
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太田述正コラム#2361(2008.2.12)
<新著断章(続)>
→中身は、防衛庁調達実施本部不祥事についてだが、非公開。
唯一の超大国米国の黄昏(その2)
- 公開日:
チャイナ(中国)の軍事大国化の行方については非常に興味があります。
例えば東シナ海ガス田においてチャイナが日本に譲る(日本と協調する)可能性はあるのでしょうか?
チャイナ、少なくとも軍は、いわゆる第一列島線内海域のガス田を拠点として制海、制空権を掌握する戦略であって、日本側と協調する可能性はゼロではないかと思われるのですがいかがでしょうか?
一方、福田総理は、ガス田におけるチャイナとの協調、取り決めを福田政権の成果に仕上げようとなし崩し的な妥協を進めているようにも見え、日本の安全保障上も極めて危うい外交を進めている可能性も感じられます。
中共は,人民解放軍こそが本体だったわけで,そこから生み出された党官僚,政府官僚達が,主導権を握りかける度に,叩き潰された歴史を持っています。
文革です。
今胡錦涛の政府が,おそるおそる軍から主導権を奪い取る過程にあります。
彼らが虎の尾を踏むことになれば,再び大混乱すらあり得るのです。
中国軍に配分されている予算は,近代化の名目で軍幹部達を利権付けにして行っているという訳です。
実質戦力としてそれほどの脅威にはならないでしょう。
CIAがそれを煽り立てるのも,自国の軍事予算の確保と,生意気な同盟国を脅して黙らせておくためなのですから。