太田述正コラム#2292(2008.1.10)
<オバマ大頭領誕生へ?(続)(その1)>(2008.2.15公開)
1 始めに
8日のニューハンプシャー州での予備選挙の結果は予想外のものでした。
負けるはずであったクリントンがオバマに勝ってしまったのですから・・。
一体どうしてこんなことになったのか、探ってみましょう。
2 みんな予想を間違えた
投票日の2日前の6日までに行われた世論調査は、オバマが少なくとも8%の差をクリントンにつけているものばかりでした(
http://www.nytimes.com/2008/01/10/opinion/10kohut.html?ref=opinion&pagewanted=print。1月10日アクセス(以下同じ))。
投票日に行われた出口調査でも、なお、オバマ有利という結果が出ていました(
http://www.guardian.co.uk/uselections08/story/0,,2238311,00.html)。
ジャーナリストもことごとくオバマ勝利を予想していました。
投票日の8日の朝、ワシントンポストの記者のアチェンバック(Joel Achenbach)に至っては、同紙の電子版に「オバマは勝利の列車に乗っているとみんなが思っているが私もそうだ。彼はクリントンをなぎ倒すだろう。この群衆を見よ。彼らのエネルギーを感じるだろう」という雄叫びを挙げたほどです(
http://www.nytimes.com/2008/01/10/us/politics/10media.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print)。
当然、オバマ陣営は、勝利を確信していました。
彼らが実施した世論調査ではオバマが14%もリードしていたからです。
クリントン陣営でさえ、密かに、負けを予想してオバマとの差を一桁に抑えられたらいいなと語り合っていたといいます。
というのは、彼らが実施した世論調査でもオバマが11%リードしていたからです。
クリントン自身が7日に声を詰まらせたのは、無理からぬものがあったのです。
(以上、
http://www.guardian.co.uk/uselections08/hillaryclinton/story/0,,2238238,00.html
、及び
http://blogs.ft.com/rachmanblog/2008/01/the-tears-of-ne.html
による。)
3 どうして間違ったのか
(1)世論調査以降に変化が起こったという説
世論調査以降に変化が起こったという説があります。
5日に実施された民主党候補者同士の討論会・・クリントンがうまく立ち回った・・や7日の前述したクリントンの声をつまらせた場面・・女性達の同情をかった・・が世論調査に反映されていなかったというのです(前掲
http://www.guardian.co.uk/uselections08/story/0,,2238311,00.html)。
しかし、この説は、出口調査でもなおオバマがリードしていたというのですから成り立たないと私は思います。
(2)女性票がクリントンへとシフトしたという説
かなり多いのが、女性票がクリントンへとシフトしたという説です。
つまり、アイオワ州の党員集会でクリントンがオバマに敗れたことで、男女差別の時代を生き抜いてきた年配の女性達がクリントンに同情し、彼女たちを中心に女性票がクリントンにシフトしたというのです(
http://www.nytimes.com/2008/01/10/us/politics/10women.html?pagewanted=print、
及び前掲
http://www.nytimes.com/2008/01/10/opinion/10kohut.html?ref=opinion&pagewanted=print)。
しかし、この説も、そんなことは世論調査や出口調査に反映済みであったはずですから成り立たないのではないでしょうか。
(3)投票用紙の候補者の順序がこの結果をもたらしたとする説
これまでのニューハンプシャー州での予備選を研究してきたスタンフォード大学教授のクロスニック(Jon Krosnick)によれば、この州では投票用紙の一番最初に記載される候補者は一番最後に記載される候補者より3%多く得票してきたという実績があるところ、前回までは投票区域ごとに候補者記載順を変えた投票用紙を用いてきたけれど、今回は全投票区域で同じ投票用紙が使用され、クリントンが一番最初に記載され、オバマが21名の候補者のうち一番最後近くに記載されていたため、クリントンがオバマに2~3%の差をつけた、というのです(前掲
http://www.guardian.co.uk/uselections08/story/0,,2238311,00.html)。
しかし、この説そのものがいささか眉唾物ですし、仮にこの説が正しいとしても、それが出口調査に反映されていなかったことを説明できません。
(4)隠された黒人差別感情がこの結果をもたらしたとする説
一番多いのが、隠された黒人差別感情がこの結果をもたらしたとする説です。
これは「ブラッドレー効果(Bradley effect)」と呼ばれている現象です。
この言葉は、1982年のカリフォルニア州知事選挙で、黒人のロサンゼルス市長のブラッドレー(Tom Bradley)が白人の対抗馬に対して世論調査では常に大幅にリードしながら意外にも選挙に敗れてしまったことから生まれました。
白人の投票権者は、黒人の候補者がいる場合は、世論調査員に対してホンネを隠すというのです。
(続く)
オバマ大頭領誕生へ?(続)(その1)
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太田さま、いつも愛読させて頂いております。
今回の予備選に関しては、昨年の段階から拙ブログでも詳細をお伝えしてきましたが、エントリーで書かれているニューハンプシャーに関しては、米国政治のアナリストが異口同音で頷いている結論があります。
それはこの州の前知事で、現在は今秋選出の上院議員の席を狙っている、ジーン・シャヒーンという女性です。ヒラリーの勝因は先月すでに前後編に分けて詳説してありますので、ぜひご一読ください。
クリントン帝国の逆襲・ヒラリーの勝因分析
http://beiryu2.exblog.jp/6943611/
続・帝国の逆襲 ヒラリー7つの勝因
http://beiryu2.exblog.jp/6946728/