太田述正コラム#2010(2007.8.19)
<米国とは何か(続x3)>(2008.2.21公開)
1 始めに
 日本と違って英米の新聞の電子版は書評欄を公開しており、しかも書評は日本の新聞の書評よりはるかに長文で内容も充実しています。
 当然競争も激しいのでしょう、最近では、出版前の書評をよく目にします。
 本篇は、ニューヨークタイムスに載った米ジョージア大学歴史学助教授のミーム(Stephen Mihm)の’A Nation of Counterfeiters: Capitalists, Con Men, and the Making of the United States’そんな書評をてがかりに、米国流資本主義の原点を探ってみたいと思います。
 本篇はまた、「米国とは何か」シリーズ(コラム#304~397、502~506、529、616、621~625、1755、1756、1758、1759、1761、1763、1764、1767、1768)の続きであるとともに、このうちの一つ(コラム#307)の補足でもあります。
 (以下、
http://www.nytimes.com/2007/08/19/magazine/19wwln-idealab-t.html?ref=magazine&pagewanted=print
http://www.publishersweekly.com/article/CA6450076.html
http://www.civilwar-pictures.com/shop.php?c=1&n=4868&i=0674026578&x=A_Nation_of_Counterfeiters_Capitalists_Con_Men_and_the_Making_of_the_United_States
(8月19日アクセス)による。)
2 米国流資本主義の原点
 南北戦争の頃までは、米国では連邦政府は紙幣を発行しておらず、各銀行がそれぞれ勝手に紙幣を発行ていましたが、その規制すら行っていませんでした。
 ですから、通貨偽造が犯罪であるという認識は希薄であり、建国から南北戦争の頃までの米国は偽造紙幣や無効な紙幣だらけであり、これら偽造ないし無効紙幣を含め、1860年までの間に1万種類以上もの額面が区々バラバラの紙幣が流通していました。
 当時の米国の資本主義は文字通りmaking money(金儲け=紙幣偽造)の資本主義だったのです。
 各銀行が発行していた紙幣は、金または銀の兌換券でしたが、わざわざ僻地に銀行・・山猫銀行(wildcat bank)と呼ばれた・・を設立して紙幣を発行し、兌換しにくくするケースとか、どれかの銀行の紙幣に似せて紙幣を偽造するケース、そして架空の銀行名で紙幣を発行する究極の偽造のケース、等はざらでした。
 そもそも兌換券は、各銀行が準備していた金や銀の相当額の何倍も発行されたわけですから、偽造紙幣もこれに加わり、当時の米国の信用は凄まじい勢いで膨張しました。
 当時は週または月の単位で、偽造紙幣や無効紙幣、あるいは紙幣を発行しているけれど信用度の低い銀行に関する情報を掲載した「偽造検知書(counterfeit detector)」と銘打ったパンフレットが発行されており、紙幣を用いた取引が行われる場合は、関係者はこのパンフレットを参照するのが習いとなっていました。
 信用度の低い銀行の紙幣は、このパンフレットに掲載されている割引率を用いて額面が割り引かれましたが、信用度の低い銀行の紙幣より、信用度の高い銀行の紙幣のできのよい偽造の方が好まれたといいます。
 リンカーン大統領が連邦紙幣の発行を始めてからも、それまで流通していた(偽造ないし無効紙幣を含む)各種紙幣がすぐ消え去ることはありませんでした。
 それだけではありません。
 金融にはインチキがつきものであることを当然視する観念はその後も米国で根強く残ることになるのです
 現在の全世界の株安をもたらす原因となった米国のサブプライム・ローンのうさんくささをご覧じよ。
 米国は昔も今も、通貨偽造者の国(a nation of counterfeiters)とみなすべきなのです。
3 感想
 以前(コラム#307で)、「米国人とは、「争奪者・・、博打打ち・・、常習的軽犯罪者・・、或いは投機者・・」であり、「米国には詐欺にまつわる言葉が多い」と申し上げましたが、米国人とはまさに、何でもありのカネの亡者であることが改めて分かりますね。