太田述正コラム#2397(2008.3.2)
<紺碧のアフガン艦隊:消印所沢通信24>
アナウンサー「治安悪化により,再び注目を集めるアフガーニスタン.
今日はそのアフガーニスタンで支援活動に当たっておられます,
NGO『MNKK(M:未来の N:ノーベル平和賞 K:候補は
K:このワシぢゃ!)』代表,フランク医師にスタジオに
おいでいただきました.
さてフランクさん,『MNKK』ではこのほど,アフガーニスタン
海軍への支援活動をお始めになったそうですね?」
フランク「はい,今,アフガーニスタンには海軍がまったく
ないという悲惨な状況にあります.
我々はこの状態をなんとかしたいと思い,支援活動を
始めたわけです」
アナウンサー「しかし,アフガーニスタンは内陸国ですよね?
海に面してはいませんよね?
なのに海軍が必要なのですか?」
フランク「海があるかどうかは重要ではありません.
ニーズがなくても援助が可能であることは,すでに1977年,
日本がカラー・テレビ局開設を当時のアフガーニスタンへの
援助として行った事実からも明らかです.※1
当時,カラーTVを持っていたのは全アフガーニスタン人口の
1%にも満たなかったと思われますが,それでもそんな『援助』が
行われたのです」
アナウンサー「なるほど.
しかしその理屈は,あなたのNGOに寄付してくれた人々には,
通じにくいのではありませんか?」
フランク「その点についても,問題は起きないだろうと我々は
予測しています.
通じにくい理屈と言うのなら,我々より遥かに理解しがたい
理屈を並べていながら,なおも援助活動を継続できている団体の
例があります.
例えば
『ターリバーンによるバーミヤン遺跡破壊は,雨乞いのために
行われた』※2
『ターリバーンは血のにおいのしないきれいな政権』※3
『ターリバーン支配下のアフガーニスタンは世界一治安が良かった』※4
などと奇妙な理屈を並べていながら,ほとんど何の批判も
受けなかったばかりか,逆に会員の数を伸ばしたNGOもあります.※5
これらの事実は,理屈が通じているか否かは寄付金を集める
上で何ら問題にならないということの証拠といえるでしょう」
アナウンサー「アフガーニスタンで海軍に金を注ぎ込んでも,
お金をドブに捨てるようなものではないのですか?」
フランク「投資が行われれば需要が発生しますので,ドブに
捨てることにはなりません」
アナウンサー「発展性がないと思いますけど」
フランク「発展性がないというのなら,どのNGOもナントカの
一つ覚えのように言っている『アフガーンの農業支援』は
どうなります?
あれだって発展の見込みなんてありませんよ.
まず耕作可能面積が極めて小さい.農業開発に適した土地は
国土の7%だけです.※6
なにしろ,国土のほとんどが山岳なのですから.
しかも,零細農家が圧倒的多数と来ているので,効率的な
生産ができない.
そのほかにも原始的農法,農民の貧困,農業金融の不備,
熟練農業技術指導員の不足などなど,課題がありすぎでしてね.※7
アフガーニスタンを農業国と呼ぶのもはばかられるほどです.
だからこそ,古い時代から沙漠を横断する危険を冒して
シルクロードという隊商路を開かざるを得なかったわけで.※8
つまり冷静に考えたら,小麦などの自給を達成し,貴重な
外貨を農産物輸入で失うことがないようにした後は,換金作物
助成程度にとどめ,開発のためのリソースは農業以外の産業に
振り向けたほうが賢明なはずですよね?
しかし現実には,そうした声はほとんど聞かれない.
どのNGOも,農業!農業!です.
したがって,発展性のない農業への援助が問題視されないなら,
同じように発展性のない海軍への援助も,何も問題ないという
ことになります」
アナウンサー「……少なくともアフガーニスタンの人々には
喜ばれないんじゃないんでしょうか?」
フランク「アフガーン人はどうだか知りませんが,少なくとも
ターリバーンは喜ぶと思いますよ.
農業支援が行われて,アフガーン農民がケシ栽培をやめると,
ケシ密輸を収入源にしているターリバーンは困るので,テロを
起こして邪魔をしようとする.
教育支援をしようとすると,これもターリバーンの教条に
反するから,彼らはテロを起こして小学校すら閉鎖に追い込む.※9
治安支援については言わずもがなで,イラク同様,警察や
警察志願者に対するテロが頻発していることは,外電記事を
見ればお分かりでしょう.
これらに比べれば,我々の行う海軍への支援は,何ら中身が
ないので,ターリバーンに対して何らの脅威にもならず,したがって
ターリバーンがテロを起こす理由には何らならないのです.
これこそテロ抑止じゃありませんか」
(end)
※1
『アフガニスタン共和国テレビジョン放送局建設計画実施設計報告書』
vol.1~7(国際協力事業団,1977)
参照.読めば脱力できる.
※2
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq06e03.html#bamyan
参照.
※3
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq06e.html#taliban’s-massacre
参照.
※4
http://mltr.ganriki.net/faq06e02.html#10799
参照.
※5
ペシャワール会会報によれば,911テロ発生時では同会の
会員数は8千人.
これが現在では1万人を超えるとさ.
※6
『アジアにおけるイスラーム法の移植』,成文堂,1997/4/18
※7
『南アジア・大洋州開発選書2 パキスタン・アフガニスタン・セイロン』(鹿島平和研究所編,鹿島研究所出版会,1970.6)
※8
山と渓谷社編「シルクロード1 中国・ソ連・アフガニスタン」
(山と渓谷社,1975/6/1)
※9
『イスラムに負けた米国』(宮田律著,朝日新書,2007.7.30)
によれば,ターリバーンの妨害により,これまで300の学校が
閉鎖に追い込まれたという.
ただし本書は,少なからぬ部分に信頼性に疑問符のつく
記述が見られるので注意.
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<太田>
消印所沢・アフガニスタン・シリーズの第2弾ですな。
面白い!
ところで、
>我々の行う海軍への支援は,何ら中身がないので,ターリバーンに対して何らの脅威にもならず
茶々を入れるようで恐縮ですが・・。
「海軍」を陸軍と空軍と並列で艦艇を主装備とする実力部隊と定義すれば、例えば内陸国であるマケドニアは海軍を持っています(PP168。もっとも、これはミリバラのミスプリである可能性あり)し、陸軍の水上部隊にまで定義を広げれば、例えばオーストリア(PP156)やスイス(PP176)だって海軍を持っています。(PPは英文ミリバラ2007)
ですから、アフガニスタンに河川や湖沼がどれくらいあるかにもよりますが、海軍創設が考えられないわけではなく、いずれにせよ、海軍の整備を援助することになれば、タリバンは反発しそうですね。
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太田述正コラム#2398(2008.3.2)
<あたごの衝突事故(その1)>
→非公開
紺碧のアフガン艦隊:消印所沢通信24
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