太田述正コラム#2128(2007.10.16)
<日本帝国の敗戦まで(ペリリュー島攻防戦)>(2008.3.8特別公開)
1 始めに
 ヘースティングスの本の中から、ペリリュー島攻防戦を描いた部分を抜き出してご紹介し、それを若干補足しましょう。
 典拠は、特に断っていない限り、本体シリーズの典拠と同じです。
2 ペリリュー島攻防戦
 1944年9月15日に開始された米軍のマリアナ諸島ペリリュー(Peleliu)島上陸作戦は、日本本土に至る飛び石作戦の最初のものだ。
 上陸用舟艇の上で、某海兵大佐は、「捕虜はとるな。黄色の畜生どもをすべて殺せ。それで終わりだ。」と部下達に申し渡した。
 しかし、数日で終了すると考えられた戦いは、珊瑚礁にトンネルを縦横無尽に掘って陣地とした日本軍を相手に6週間も続き、組織的抵抗が終わった後も日本兵の散発的抵抗が続いた。
 最後の日本兵5人が降伏したのは1845年2月になってからだった(注1)。
 (注1)日本語版ウィキペディアには、このことは記されていない。なお、このウィキペディアには、戦闘終結後も生き残りの34人が生き延び、終戦後になってから米軍へ投降したと記されている。(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
。10月13日アクセス)
 この小さい島を占領するまでの間に米軍は小銃で弾を1,500万発、迫撃砲弾を15万発も撃ち、手榴弾を118.262個も投げた。日本兵1人を殺すのに1,500発の火砲の弾を使った。そして米軍兵士1,950人が死んだ(注2)。
 
 (注2)日本語版ウィキペディアでは2,336人となっている。上述した投降兵の話と言い、戦史を書くむつかしさが何となく想像できる。ちなみに、米軍の戦傷者は8,450人。一方日本軍の方は、戦死者が10,695人、捕虜が202人。(ウィキペディア上掲)
 このペリリュー島上陸作戦のパターンはその後何度となく繰り返されることになった。
 それは、日本軍が動くと米軍に一方的に殺戮されるが、日本軍が陣地内にとどまっている限り、掃討するのは著しく困難、というものだ。
3 ニミッツの詩文?
 戦後、日本人が中心になって再建されたペリリュー神社の境内に建てられた碑に、「諸国から訪れる旅人たちよこの島を守る為に日本軍兵士が いかに勇敢な愛国心を持って戦い玉砕したかをつたえられよ。(Tourists from every country who visit this island should be told how courageous and patriotic were the Japanese soldiers who all died defending this island)米太平洋艦隊司令長官C.ニミッツ」と掘り込まれています。
 名越二荒之助『世界に生きる日本の心』(1987年展転社)の中で、浦茂(元陸軍中佐。宮城事件でクーデター計画作成に関与。戦後航空幕僚長。退職後ロッキード社の代理店の丸紅顧問)(注3)が1984年にアナポリス海軍兵学校を訪れたときに、教官からこの詩文がニミッツの作であると確認した旨記されているようですが、本当にそうなのか、真偽の程は定かではありません。
 (注3)古き良き時代の典型的天下りというやつだ。
 名越自身が指摘しているというのですが、この詩文は、古典ギリシアの紀元前480年のテルモビレーの戦い(Battle of Thermopylae)(注4)の詩人シモニデス(Simonides of Ceos。BC556?~468年)による碑の詩文を彷彿とさせます。
 「旅人よ、行きて伝えよ、ラケダイモン(スパルタ)の人々に。我等かのことばに従いてここに伏すと。(Go tell the Spartans, thou that passest by, That here, obedient to their laws, we lie.)」がその詩文です。
 (注4)スパルタ王レオニダス(Leonidas)を総司令官とするところの、300人のスパルタ兵を中心とする7,000人のギリシャ軍が、ペルシャのクセルクセス(Xerxes)1世を総司令官とする15万から25万人のペルシャ軍と戦い、スパルタ兵が全滅しつつ3日間持ちこたえた戦い。映画300(スリーハンドレッド)はこの戦いを誇張して描いている。(
http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Thermopylae
。10月16日アクセス)
 ペリリュー島攻防戦は、後の硫黄島攻防戦等とともに、まさにこのテルモピレーの戦いに勝るとも劣らない、敗者の戦いの金字塔であると言えるでしょう。