太田述正コラム#2047(2007.9.6)
<韓国のナショナリズムの謎(その4)>(2008.3.11公開)
 朝鮮人への日本帝国臣民意識の浸透ぶりを示すエピソードを三つご紹介しておきましょう。
 まず、1937年、日華事変が始まった頃、朝鮮人の金錫源(Kim Sakwong)少佐が、千名の日本人部下を指揮する大隊長として、中国国民党軍の大軍を山西省で撃破し、功三級を受賞したところ、彼の活躍は朝鮮半島の新聞で大々的に報道され、「金少佐を思う」「正義の師に」等の歌ができて熱唱されました。
 二つ目です。
 1941年に対米英戦争が始まると、朝鮮人論客は一斉に米英打倒と朝鮮人の決起を訴えたのですが、その中で朱燿翰(Jue Yoeng Han 。後の韓国国会議員)は、「ルーズベルトよ、答えよ」と題する演説を行い、「正義の仮面をかぶり、搾取と陰謀をほしいままにしている、世界の放火魔、世界第一の偽善君子、アメリカ大統領ルーズベルト君。君は口を開けば必ず正義と人道を唱えるが、パリ講和会議の序文に、人種差別撤廃文面を挿入しようとした時、これに反対、削除したのはどこの国か。黒人と東洋人を差別待遇して、同じ席につかせず、アフリカ大陸で奴隷狩りを、あたかも野獣狩りをするが如くしたのはどこの国の者であったか。しかし君らの悪運は最早尽きた。一億日本同胞なかんずく半島の二千四百万は渾然一体となって大東亜聖戦の勇士とならん事を誓う」と朝鮮人の青年達に訴えました。
 そしてもう一つ。
 後に駐日韓国大使になつた崔慶禄(Choi Kyoung Nok)は、陸軍の志願兵になっていたところ、陸軍士官学校への推薦入学が決まります。ところが、入学直前に彼の所属部隊がニューギニアへの出動を命じられます。その時彼は「学校で何年も過ごしていては、第一線でご奉公の時を失う」と言って、士官学校への進学を辞退してニューギニアに出征し、戦闘で瀕死の重傷を負ったのです。
 (以上、biglobe前掲及び
http://www5b.biglobe.ne.jp/~korea-su/korea-su/jkorea/shazai/3shou.html
(9月6日アクセス)による。なお、後者(和文)はbiglobe(英文)の元資料。)
4 戦後の朝鮮ナショナリズム
 日本の敗戦を契機に、「日本と文明開化に反対する朝鮮半島の反動的勢力が掲げた人工的イデオロギー」たる朝鮮ナショナリズムが、韓国と北朝鮮双方で国家イデオロギーとなり、教育を通じて朝鮮半島の人々に政府の手によって注入されることになります。
 このイデオロギーは、韓国では、非軍人政権、軍人政権を問わず、強権的政権を支えることとなり、また北朝鮮では、金日成と金正日の独裁政権を支えることになるのです。
 そして、朝鮮ナショナリズムは、韓国でも北朝鮮でも、ナチスドイツばりの血の純血を叫ぶものへと堕ちていくのです。
 このことを端的に示すのが、昨年5月に行われた南北将官級軍事会談の席上、南北代表間で交わされた「純血論争」です。
 北:「南の気候は暖かいから、農民たちは今、勤勉に働いていることだろう」
 南:「農村人口が減り、農村の独身男性はモンゴル・ベトナム・フィリピン女性と結婚するケースが多い」
 北:「わが国(北朝鮮)は1つの血統を重視してきたが、民族単一性が消えてしまうのではと心配」
 南:「漢江の水にインクを一滴落とすレベルだ。主流があるから、ともに暮らせば大して問題はない」
 北:「われわれは昔から三千里錦繍江山(三千里の国土と美しい自然を持つ国、韓国・朝鮮の別称)だ。インク1滴でも落としてはならない」
 南:「歴史を振り返ると、私たちは東夷族だったが、周辺の靺鞨・女新真・満州族などとともにありながらも韓民族のアイデンティティーを守ってきた」
 北:「確かにそのとおりだが、古朝鮮から中世・近代に至るまで、われわれが単一民族として代々受け継いできたことは否認できない」
 (以上、南北会談については
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/05/18/20060518000042.html
(5月19日アクセス)による。)
 血の純血を叫ぶことは人種差別に直結します。
 今年8月中旬、国連の人種差別撤廃委員会(CERD)は韓国に対し「人種差別を無くすよう努力せよ」と勧告しました。この勧告は、「韓国が単一民族を強調することは、韓国に住むさまざまな人種の社会への受け入れ、彼らとの相互理解や友好促進を図る上で障害になる可能性がある」と述べ、また「純血」や「混血」といった概念そのものが人種的な優越主義を表すものだ、と指摘しています(注9)。(
http://www.chosunonline.com/article/20070821000064  
。8月22日アクセス)
 (注9)今年4月に行われた韓国民の意識調査によれば、東南アジアの人達を自分の配偶者として受け入れられると回答した人は7%、子どもの配偶者として受け入れられると回答した人は3%にという少なさだ。ただし、東南アジアの人たちと「近所付き合いができる」と答えた人は40%に達し、「親密な友人として付き合える」と回答した人も36%に達しており、意識が変わりつつあることも感じさせる。
(続く)