太田述正コラム#2049(2007.9.7)
<韓国のナショナリズムの謎(その5)>(2008.3.12公開)
韓国では、権力側、とりわけ朴正煕(Park Chung-hee。1917~79年。大統領:1963~79年)以降の軍人出身の大統領をいただく政権は、国家イデオロギーとしての朝鮮ナショナリズムを標榜しつつも、その実、かつて日本帝国が朝鮮半島に敷いた文明開化路線を推進したのに対し、反権力勢力は、北朝鮮と結託しつつ、権力側の朝鮮ナショナリズムの不純性を衝き続けました。
朴が1963年に大統領になってさっそく着手したのは、日本との国交回復(1965年に日韓基本条約締結)でしたが、ここからも朴の日本帝国臣民性が見て取れます(注10)。
(注10)朴は、満州国軍の軍官学校で学び、特に選ばれて引き続き日本の陸軍士官学校で学ぶ。その後、創氏改名で高木正雄と名乗る。終戦時は満州国陸軍中尉。明治維新を称賛し、西郷隆盛を尊敬し、その愛唱歌は日本の軍歌だった。
そして、国交正常化の結果得られることとなった日本からの資金によって韓国の経済成長は軌道に乗ります。これも戦前への復帰であると言えるでしょう。
しかし、北朝鮮という国外の敵とこの北朝鮮と結託した反権力勢力という国内の敵に対処するため、朴政権を始めとする権力側は、引き続き強権政治を続けざるをえませんでした。
このため、文明開化の推進は経済面だけに限られ、政治面での韓国の発展は遅れることになったのです。
(以上、事実関係は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%B4%E6%AD%A3%E7%85%95
(9月7日アクセス)による。)
その韓国がやがて政治面でも文明開化化・・民主化・・するのは、必然であったと言うべきでしょう(注11)。
(注11)台湾の民主化と韓国の民主化の実現は、日本が台湾と韓国にともに敷いた文明開化路線の論理的帰結であるとの私の考え(コラム#2025)を、ここで改めて強調しておきたい。
しかし、それは同時に朝鮮ナショナリズムと結びついた形で実現することになります。 これはやむをえない面があったとはいえ、残念なことでした。
これを象徴するのが、朴政権によって暗殺されかけた反権力勢力の雄、金大中(Gim Dae-jung。日本帝国臣民時代の名前は豊田大中。カトリック教徒。1925年~。大統領:1998~2003年)の大統領就任であり、彼による対北朝鮮太陽政策の追求であり、2000年の金正日とのカネで購った南北首脳会談の実現です(事実関係は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%A4%A7%E4%B8%AD
(9月7日アクセス)による。)
その結果、韓国においては、金大中政権とそれに続くノ・ムヒョン政権時代に朝鮮ナショナリズムが燃えさかることになるのです。
5 韓国は脱朝鮮ナショナリズムの時代へ?
9月7日付の朝鮮日報英語電子版に、韓国における血の純潔性(ethnic homogeneity)に係る次のような記事が出ていました。
韓国在住の外国人の数は、8月24日現在、100万人を超え、総人口4913万人の2%を超えたが、最近実施された世論調査の結果は次のとおり。
血の純潔性にこだわるべきではないとする者は72.6%に達し、こだわるべきだとする者は26.7%にとどまる。
自分の子供が国際結婚をするのを認める者は62.4%、認めない者は36.2%。
国際結婚をした夫婦の子供と自分の子供が友達になることを気にしない者は93.2%。
国際結婚をした家族に友好的な気持ちを持つ者は79.4%。
昨年11月の世論調査時には、国際結婚をした家族に友好的な気持ちを持つ者は48.7%に過ぎなかったのですから、このところ、韓国で急速に朝鮮ナショナリズムが希薄化しつつあることが分かります。
(以上、
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200709/200709060019.html
(9月7日アクセス)による。)
一体それはどうしてなのでしょうか。
韓国の有識者の間では、親北朝鮮であった金大中、ノ・ムヒョン両政権の政策実績への幻滅、及びグローバリゼーションの進展によって、韓国を取り巻く国際環境への現実的な理解が深まり、再び反北朝鮮感情が高まった(コラム#1835)結果、朝鮮ナショナリズムが急速に脱ナショナリズムにとって代わられつつある、という見方がなされています(
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200709/200709030021.html
。9月4日アクセス)。
そうだとすると、韓国が民主化したことによってその文明開化度が経済面のみならず政治面でも日本と比べてそれほど遜色のないレベルに達したことで韓国人の日本へのコンプレックスが大幅に軽減されたこと、かつ近年日韓の草の根レベルでの交流があらゆる面で活発化したこと(コラム#1481、1854)もあって、韓国人が再び日本帝国臣民意識に目覚めることになったとしても決して不思議ではありません。
私は、EU的な日韓共同体が今世紀前半中にも成立する可能性があると、昨年11月に(コラム#1481)で申し上げたところですが、本当に実現するかもしれないという気がしてきました。
(完)
韓国のナショナリズムの謎(その5)
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